お買い物はamazon

柊木祐

第1話 アマゾンプライム

(お、ちょっと安くなってる)

前から気になっていたDODのテントが前回見た時よりも少しだけ安くなっている。

(いやー、でもこの前楽天で高級お取り寄せ和牛も乳製品グルメパックも買っちゃったしなあ、ちょっと遣いすぎだよなー)

コロナウイルス騒ぎでホテルや料亭に卸される高級食材の行き場がなくなって、生産者が困っている、という。それがネット通販で割安なお値段で売りに出ているのを既に二度も利用していたのだ。


(うーん、でもこのチャンスを逃したら二度とこの値段では買えないかも)

いいや、買っちゃえ、「カートに入れる」をポチっとな。


「ピンポーン」

なんだ、誰だよ、こんな時間に。

大体昼間家を訪ねてくるのは、新聞か宗教の勧誘かNHKの受信料と相場は決まっている。

注文確定しなきゃいけないのに。


面倒だから足音を忍ばせて、玄関ドアの覗き穴から外を窺う。

黄色のつなぎ服、黒キャップのお兄さんが覗き穴からこちらを見てる。

誰だ、あれ?ナニモンだ?


「ピンポーン」

抜き足差し足でインターホンの前に戻って、ボタンを押す。画面がついて、黄色つなぎのお兄さんの顔がモニターに映る。

「はい、どなたですか?」

「どうもーっ、アマゾンプライムでーすっ」

え、今なんと?

「は、はい?」声が裏返ってしまう。

「アマゾンプライムでーすっ。お客さんがカートに入れたテントを持ってきてるんですがあー。月額500円で、今すぐお渡しできますけどおー。」

ちょ、ちょっと何言ってるの?嘘でしょ?

「いや、あの、テントって今ポチったテントのこと?月額500円って、今手元に万札しかないけど?」

「そうですー、お客さんがカートに入れた、DMMのテントでーす。あ、今なら30日間無料でお試しできますよ。なので手元に現金がなくてもだいじょぶでーす」

(いや、DODな、DMMじゃなくて)

「あ、あのー、断ったらどうなるんでしょう?」

お兄さんの顔がにわかに険しくなる。

「その場合はですね、お客さんのテントはいったん持ち帰らせて頂いて、改めて普通のアマゾンが届けることになりますけど、それでよろしいんですか?」

お兄さんの声が2オクターブくらい下がって、ドスの効いた声になる。

え、普通のアマゾンって何よ?え、それじゃダメなの?

「あのー、すみません、別に急いでないんで、普通のアマゾンでいいんですけど」

「分かりました。では持ち帰らせて頂きます」



え、何いまの?心臓がバクバクしてる。

大丈夫かな。おそるおそるパソコンを覗き込んで、もう一度カートの中の商品と値段を確かめて、「注文を確定」をポチっと。


「ピンポーン!」

!!今度は何よ!!

「はい、どなたでしょう?」

「どうもーっ!アマゾンプライムでーすっ!月額500円でお急ぎ便が無料で使いたい放題でーすっ。今から1分以内にクリックしてもらうと、30秒後にお届け可能でーすっ」

(うわ、また来た)

「すみません、別にいいです」

「お届け日時指定も使いたい放題でーすっ!」

「いや、スミマセン、だから、別に急いでないし、いつでも受取りできるから日時指定も要りませんので」

「お客さん、アマゾンプライムに加入すると、お店で借りにくいビデオもネットで見放題になりますよ」

だめだ、こりゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る