kamisama

@bootleg

第1話

 私たちの世界には、神様がいる。そして、いつからか神様を信じる人たちが宗教を作っていた。

 「キューピィ教」は、私たちの世界のすべてを支配している。


 「今日の体育って体育館だっけ?校庭?」

 朝の時間、前日のやり残しの数学の宿題を片付けていると、光男が話しかけてきた。

 「いや、今日は保健の内容だから教室。」

 急いでいるので回答はシンプルになる。

 「保健かー。あれつまんねぇから嫌いなんだよな。体育の時間がつぶれてるって考えたらほんとにたまらんよ。」

 それについては僕も同感だ。保健なんて大抵のことは分かるし、より健康に、とかそういう内容なら本でも読めばいいんじゃないか。

 

 少し考えが飛んで行ってしまいそうだが、数学の課題を何とかこなしていく。すると、放送が鳴った。生徒の呼び出しなんかに使われるピンポンパンのチャイム付きの放送だ。

『2年の○○君、キューピィ教の方がいらっしゃっています。至急、職員室まで来なさい。』


「またキューピィ教か、どこの支部かな。警察支部か、家庭環境支部か、どっちかだろうな。」

 光男は授業の準備をしながらそう言った。僕は、少し顔をしかめてしまう。キューピィ教のシステムは好きではない。まだ理解していない部分が多いのは当然のことで、そこがもやもやするのはともかく、キューピィ教には理不尽なことが多いように感じる。


 この放送が何の呼び出しだったかは、翌々日に判明した。教室でいつも通りうわさ話に励む女子たちの会話の内容がそれについてのものだったからだ。

「一昨日呼び出された2年の○○さん、やっぱり警察支部だったらしいよ。駅前の駄菓子屋で万引きしたんだって。」

「万引き?監視支部に絶対見つかるのにね、何で駄菓子なんかでそんなことしちゃうんだろう。駄菓子ひとつで死ぬことになるって結構ショックだけどな。」

 

 キューピィ教はこの世界を支配している。司法も、行政も、立法も。市民の生活の監視にまで及んで、事実的にも、確実に支配している。そして、キューピィ教はどんな小さな罪であっても、裁判の結果は「無罪か死刑」の二極である。


 どうして死刑があるのか。授業なんかで教えられるのは、罪を犯した者は、一度その生を終えてリセットする必要があるからだ、というものである。小学校のころからそう教えられてきた。

 僕は、その考え方はまだ浅いと思っている。

 この世界に死刑が必要なのは、皆どこかで神様がいないことを知っているからだ。神に誓って、罪を反省したり、神に誓って更生したり。そういう考えが存在しない。だからこそ、死刑が必要なのだ。誰も、誰かが更生することを信じていない。だから、私たちの世界には死刑が存在している。


 女子のうわさ話を聞いているうちになんだかイライラしてきた。そのとき、また放送が入った。一昨日と同じ、チャイム付きの呼び出しの放送だった。

  

 「1年の佐々木光男君。キューピィ教の方がいらっしゃっています。至急職員室まで来なさい。」

 隣の席の彼は、僕の方を見て純粋に驚いた表情をしていた。

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