葉次との出会い&寝取られた?
岡野カルトは秋沢葉次との出会いを語る。
「ヨージが俺のところにはじめて訪ねて来た時の話からしようか。高校生3年だった俺と中学3年だった秋沢葉次。財布を落としていたということで、入っていた生徒証を見て、高校に連絡があったんだ。俺の財布には住所がわかる個人情報が入っていたから、それを見てということだった。財布を受け取り、お礼をするために、連絡を取った。ヨージは、俺が在学している桜山高校を受ける予定だった。受験生として話を聞きたいという流れだった。
第一印象は顔立ちのきれいな美しい顔。まだ髪の毛は黒く、全く傷んでいなかった。目は大きく、女の子のような華奢で背の低い少年は、とても人懐っこい性格だった。コミュニケーション力があり、好奇心旺盛で茶目っ気があった。真崎壮人とは一線を画していたような気がする。全く正反対。
壮人は顔立ちこそ整っていたが、コミュニケーション力があるほうではなかったし、勉強はできるがとても地味な性格だった。初対面の人と上手に話すタイプではなかったので、正直兄弟だということを聞くと、信じられないような気持ちになった。
体型は華奢でやせ型なのは似ていたけれど、壮人のほうが若干背は高い。まだ中学生だったヨージは非常に頭の回転が良く、相手を不快にしない術を持っていた。要するに誰からも好かれそうなタイプだった。でも、同級生に心を許せる友達がいないと言って地元が一緒だったから、しょっちゅう俺の家に来ていたよ。
俺は、ヨージと親しみを込めて呼んでいたし、ヨージは俺をカルト兄さんと呼んでくれた。俺は一人っ子だったから、まるで本当の弟みたいでうれしかったよ。知り合ってから、俺の部屋で本を読んでいくこともあれば、海まで自転車をこいで遠出することもあった。気づくと四季をヨージと過ごしていた。春は桜を共に感じ、夏は買ってきた花火をして騒ぎ、秋は紅葉の中で焼き芋を焼いて、冬は雪で遊んでいた。あいつは、いつもなぜか俺と一緒に遊んでいた。怖い話や都市伝説も大好きで一緒に情報を共有したり、その手の本を買って貸したこともある。俺とヨージはどこか似ていた。それは、興味を持つものや楽しいと感じること。いつも俺とヨージは仲がよかった。ケンカをしたこともなく、ヨージは平和主義者で、いたずら好きで――とっても大事な存在だ。
秋沢葉次は、自然の中で無邪気に遊ぶし、怖い話を聞いて怖さを体感することを好む。どことなくわがままなところもあるけれど、それは年下特有の甘えのような気がしていた。彼はどこにでもいるごく普通の男子だ。
俺が大学に入ってからも交友は続いた。その間、ヨージは彼女を作ったことはなかった。モテそうな顔をしているのに、興味がないと言っていたよ。自宅に行ったこともあるけれど、物が少ない家で生活感があまりない印象。母親の顔は見たことがない。仕事が忙しいと言っていたよ。あいつの部屋に呪いに関する本は結構あった。でも、オカルトが好きな人間なら普通のことだ。あいつはかなりパソコンに詳しい。でも、それが呪いのアプリとイコールだとは思えない」
一通り、話をする。まりかはソフトクリームが溶けたアイスコーヒーをストローで吸う。
「そうですか。真崎壮人と知り合いだとはあなたは知らなかったのですよね」
「そうなるな」
「あえて、教えなかったのでしょうか? あなたと真崎壮人は仲が良かったはずです」
「壮人は無口だった。そんなに個人的な話をしない。ヨージもあまり個人的な話はしない人間だ。壮人はいつも遠慮がちで、一歩引いたような性格。俺は一応、結と付き合ってたから、壮人とは適度に距離があったかもしれない」
「秋沢の自宅に何か思い出せる手掛かりはありませんか?」
「どうかな。家庭の香りがしない一人暮らしのような印象しかないな。誰にも干渉されないから気楽だとか言っていたような気がする」
「秋沢に令状を取って家宅捜索はできますかね?」
「こればかりは、上司に相談してみないとな。一応、協力者であり被害者だ。協力者である彼を疑うことは心が痛い」
「真崎壮人がグルということは無きにしもあらずかもしれません」
「また、人を疑うのか」
「あなた、そんなんじゃ、刑事やっていけませんよ。疑うのが商売でしょ」
その正論にぐうの音も出ない。どうしてこうもお人好しなんだろうと自分を責める。
「威海操人って気になりませんか? 操られる人という意味ですよね。真崎壮人はもしかしたら、何かしらを知っている可能性もあります。真崎の自宅に行きましょう」
「壮人は今、一人暮らしをしている。場所はここから近い」
「一緒に行きます。話を聞きたいです」
都内の大学に近いマンションに壮人は一人暮らしをしていた。壮人は、無気力になり留年してからもここに住まわせてもらっている。つまり、遊び放題だ。自由に支配されてしまったのかもしれない。
アポなしだが、直接行ってみる。すると、まりかがカルトに隠れていろと言う。インターホンを押す時に、見えないようにしてほしいという。そして、まりかは宅配業者のような格好をする。いつのまに変装道具を持ち込んでいたのだろうか。
「なんで、そんな嘘をついてドアを開けさせるんだよ」
「不意を突くためです。ドアを開けたら岡野さんも出てきてください」
ピンポーン。
インターホンが鳴る。
「お届け物です」
「はい」
金髪で部屋着の壮人が出てきた。寝起きなのだろうか。
ドアの隙間にまりかが足を挟む。
「実は、今日はお話を伺いたくて」
「よぅ」
カルトが不意打ちで行くと、ドアを必死に閉めようとする。なぜそんなに慌てるのだろう。何かあるのか? 女性もののヒールのある靴がある。見られたくない女性がいるのか? どこかで見た事があるデザインだ。
「ソート?」
「こっちに来るな。奥にいろ」
焦った様子で命令する壮人。彼が声を荒げるのは相当に珍しい。
今の声、よく知っている声だとカルトは気づく。特徴のある靴のデザインを思い出す。結の声と結の靴だ。
「結がいるのか?」
カルトは驚き、問い詰める。
「違う、これにはわけがあって……」
焦りながらも必死に弁解する壮人。そうだ、100%結だ。
「結、俺だ。岡野カルトだ。もしかして、呪いのアプリのことで壮人のところに相談に来ていたのか?」
出てきた結は壮人の服を借りているようだった。大きくぶかぶかした服を着ている。服もそうだが、髪の毛も寝起きの様子で、明らかに、ここで生活を共にしているような感じだった。
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