追放をした無能に恋をする女勇者の目線
灰色の鼠
第1話 「無情な追放」
「ジークルーン、お前をパーティから追放する」
絶望に染まった顔でこちらを見上げる赤いペンダントをつけた青年に、私は冷徹な口調で告げた。
それは覆すことのできない、絶対的な決定事項である。
断るようものなら、肉体的な苦痛を味わうことになる。
それを青年ジークが一番理解していることなので、口をパクパクとして声を発さない。
あまりの衝撃により、彼は声を出せないのだ。
「魔王との大戦は近い、足手まといは切り捨てる」
私は勇者エリーシャ。
人類の脅威『魔王』を倒すために選ばれた人間だ。
大義名分を担った日から私の未来は決められた。
個人ではどうしようもない使命であり、全うすることが前提で私は全人類に背中を押された。
それなら私は抗わない、人の平穏を取り戻せるのなら従うだけだ。
しかし同時に非情にならなければならなかった。
魔王を倒すためには手段を選んではいられないのだ。
だからこそロクに戦うこともできない足手まといを切り捨てなければならない。
私はジークを睨みつけ、叫んだ。
「さっさと消えろ穀潰しが! 無能は必要ないんだよ!!」
その叫びに彼は肩を震わせ、両目の端に溜まった涙を拭いながらジークは立ち上がった。
何度、追い出そうと彼は粘り強く付いてくる。
どんなに罵倒をしても、真っすぐこちらに視線をむけて優しく微笑んでくるのだ。
恐らくは今回も失敗するのかもしれない。
そう思っていたがジークは折れていた。
今回はあまりにも酷く耐えられなかったのだろう。
悔しそうに下唇を噛み、黙り込みながら彼は背中を向けて歩き出した。
定例会議に使用していた会議室の出入り口へと、ゆっくりと歩いていく。
その背中を見た私は思わず目を細めた。
傍で、やりとりを見守っていた仲間たちは口出しをしない。
私と同じく歩き去っていくジークの背中を見るだけ。
不毛な発言をする者はいなかった。
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