大魔導士になった幼馴染が迎えに来ましたが意識しすぎて手をにぎっ…にぎ…

蹴神ミコト

ずっとあなたが好きだった



 私はフレア。食堂の一人娘で結婚適齢期の17歳だ。


 住むのは自然ぐらいしかない田舎町。

 きっとその辺の男を捕まえて食堂を継ぐのだと思う。


 年の近い女の子たちはやはり親から結婚しろ結婚しろと繰り返し言われているらしい。

 特に私のようにお店をやっている家だと言われることが多いはずなのだが…私は全然言われない。


 逆に男の気配がしたら親が追い払うようなしぐさを見せるほどだ。お父さん、過保護は良いけど私結婚できなくなっちゃうよ?


 でも最近は料理修行が一段と厳しくなったので継がせる気はあるのだと思う。結婚相手はいないけど。



 結婚かぁ…あー…無理だなぁ…私は昔からずっと好きな男の子がいる。

 幼馴染の男の子で名前はテオール、通称テオ。おかっぱ頭の眼鏡をかけた少年で。外を走り回るより家の中で本を読んでいる男の子だった。

 田舎の子供なんて外を走り回って当然なのでテオは子供たちに馴染めていなかったし。田舎の大人たちにも変わり者として扱われていた。



 本を読んでいるテオは目がキラキラしていて、そんな彼が私は好きだった。

 まあ、彼につきっきりだと周りから良く思われなかったけど気にしなかった。こんなにキラキラしている姿を邪険に扱うなんて間違っているよ。

 テオ自身も色々言われたのか『本を読んでてもいいのかな…』なんて迷っていたから『好きなことをすべきだよ、私は本を読んでいるテオ好きだよ?』としっかり伝えたら彼は私を特別扱いしてくれるようになった。空気も良かったし子供ながら両想いだったんじゃないかと思っている。


 そんなテオは沢山本を読んでいるうちに、教会に『読めるもんなら読んでみろ』と置かれていた大人でも理解できないような魔導書を読み始め。努力が実を結んだのかある日魔法が使えるようになった。

 テオは風を起こして木より高く空を飛んで見せたのだ!



『すごい!テオすごい!鳥みたいだったよ!』

『フレアに魔法を見せたかったから頑張ったよ!』



 その時は2人でハイタッチして抱き合ってぐるぐる回ったっけ。


 それから周囲の見る目が変わって彼は一躍田舎の人気者になった。

 だけどもう彼はこの町にいない。私が…私が送り出してしまったからだ。

 彼には才能があった。勤勉で学ぶことも苦にしなかった。だから言ってやったのだ



『テオは凄い、きっと偉大な魔法使いになれる』

『宮廷魔導士だってA級冒険者にだってなれる』



 好きだからこそ彼にはこんな田舎じゃなく広い世界で活躍してほしかった。

 子供の頃の私は無邪気にそう応援してしまい…そしてテオは10歳で馬車を乗り継ぎ1人王都へ。

 だけど私の言った事は所詮子供の言葉で…



「テオの奴ついにS級だってよ!」

「S級とかとんでもねぇなあおい!」

「商店街でテオS級感謝祭やるってよ!」



 テオは宮廷魔導士に誘われてた上で断り、A級どころかS級冒険者の大魔道士になった。

 彼は子供の戯言の更に上を行ったのだ。


 S級なんて上位の貴族でも気を遣うような立場だもんね。テオはやっぱりすごかった。

 地元ではテオのS級を祝っているけど、テオはもうこんな田舎町のことなんて覚えていないだろう。

 富も名声も思うがまま、きっと女の子だって選び放題。

 好きな彼に二度と触れる事すら私はできなくなって…彼を知るのは新聞だけ。



「フレア。そろそろいい時間だから看板出して来てくれ」

「うん、お父さん」



 お父さんに言われてお店の扉に掛けてあるクローズの札を回収し、外に営業中の立て看板を出しに行く。

 さっきから入口に人の影が見えていたしすぐにお客さんが入ってくるだろう。

 お店の扉を開いて──



「フレアただいま!」



 そこにはどこか見覚えのあるようなおかっぱ頭に眼鏡の優男が居た。服装は身軽そうな魔術士スタイル、だけど一目見ただけで分かる生地の良さが上流階級の人間だと…ってえ?まさか??



「…もしかしてテオ?」

「そうだよ!立派になっただろう?」

「立派すぎて誰かわかんなかっ…えっ、テオ!?」



 もう二度と、会えるなんて思っていなかった。私の好きな人が家の前に、お店の前に、私の前にいた。感情が行方不明になる、ただ嬉しさだけが爆発しそうなのが分かった。



「テオ…また会えるなんて、夢でもみているのかな…どうしてここにいるの?」


「もちろんフレアを迎えにきたんだよ」

「迎え?私出かける予定なんてないよ?」


「違うよ。あのねフレア」



 テオは軽く息を整えて、その言葉を告げた。



「君がずっと好きだった。いつだって君の言葉に支えられて頑張れた。どうかボクと一緒になってくれ」


「私…!私なんかじゃなくても…今のテオなら選び放題でしょ?」



 貴族の娘だって可愛い子だって美人な人だって誰だって今のテオなら断らないだろう

 嬉しかった、嬉しすぎて信じられなくて…こんな田舎の幼馴染じゃなくて、テオを幸せにできる相手は他にいるんじゃと口から出てしまった。馬鹿だな私…



「選び放題だけどフレアしか目に入らなかったや」

「っく、馬鹿なんじゃないかな、テオは…」



 嬉しすぎて、泣きそうで、ドキドキしすぎておかしそうになる!現実味が無くて思わずキョロキョロと周囲を見渡してしまった。

 厨房に居るお父さんとお母さんはこっちを見て『どうぞどうぞ』と下手を差し出している。

 …さては男避けしてたのテオとグルだったな!?


 え、待って?テオと一緒に…け、け、結婚をもう私の両親は認めているってこと!?じゃあ私がOK出せばもう、ええええ!?



「フレア、今からちょっと王都を見に行かないか?」

「ちょっとって感覚で行ける場所じゃないでしょ…」

「転移魔法で一緒に飛べば『ちょっと』ですむんだよ」



 幼馴染の大魔導士っぷりがヤバい。半ばおとぎ話クラスの魔法じゃないっけそれ。

 ま、まあ。告白から気を逸らす意味も込めて王都観光いいんじゃないかな? 食堂を抜け出していいのかちらっと厨房の方を見る。

 お父さんとお母さんはバイバイと手を振っていた。外堀が埋め立てられている。



「…お店は抜け出しても大丈夫そうだよテオ…王都へ行く?」

「じゃあはい」



 そういってエスコートするかのように手を差し出してくるテオ。

 いやいや、会えただけでも嬉しいのに好きだって言われてもうおかしくなりそうで…そんな好きな人の手を握れって、待ってハードルが高い。



「複数人で転移するには手を繋いでないといけないんだよ」



 …ずっと好きだった幼馴染に親の前で手を繋げと言われるこの気持ちよ。


 いや、まって、無理ぃ



「テオ、恥ずかしくて無理…」

「えーでも、僕の気持ちは伝えたけどフレアの気持ちは聞いてないし?フレアから手を繋いでほしいな?」



 うう、私の好きな人がいじわるに育ってしまった…

 テオの手をじっと見る、温かそうでゴツゴツしていなくて。優しそうな指。


 私は手を上げるけど、テオの手に伸ばせない。意識しすぎてしまう。ずっと会うことが出来なかった、新聞で活躍だけ聞いていた。二度と見ることも触れることもできないと思っていたのに急に告白されて…あれ?この手伸ばしたら実質受け入れますって言っているようなもんじゃ…



 私は…テオが好き!手を伸ばさなきゃ!



 そーっと、そーっと手を伸ばす。大丈夫。テオと手を繋げる。恥ずかしいけどそれ以上に嬉しいから大丈夫!


 自分を鼓舞しながら…指先と指先がちょんと触れ合う、ビクンとしちゃったけど離さない、そのままテオの優しそうな指に指を重ね…手のひら同士をキスをするように…そっと合わせる。



 伝わったかな?私から手を握ったよ。 テオ、私もあなたの事が好きです。 ──まあ、言葉にするのはまた今度ね?




「テオ、繋いだから王都へ行こう? …テオ?」



 テオは私を見ながら顔を真っ赤にして固まっていた。

 はっとして目を閉じてウンウン唸るけど何も起こらない。どうしたのテオ?



「ははっ…フレアが可愛すぎて全く集中できないから転移魔法使えないや」



 ぎこちなく笑う彼にそう言われ私の顔も一層赤くなる。うるさいやい、心の準備をさせなかったテオが悪いんだ。

 このままお店の入り口でサクランボのように赤い顔を2つ並べているのも邪魔なので中へと誘った。



「…ご飯食べてく?」

「…いただきます」



 手を繋いだままカウンター席へと案内した。王都へ行くのはまた明日ね。今日はいっぱい話そうテオ。







 テオを座らせると見計らったかのように店内に人が入り始め騒がしくなった。

 お客のおじさんもおばさんも小さな子供も、ウチの両親も喋ること喋ること。



「いやーあれは邪魔できないわ!」

「いいもん見たなー!嫁に自慢できるぜ!」

「フレアには食堂を継がせるフリして花嫁修業させてたから味には期待しとけよ!」

「今日のメニューでフレアが仕込んだもの少量ずつ全部用意してあげるわ」

「フレア姉ちゃん魔導王テオと結婚すんの!?」



 ああああウチなのに完全アウェーだこれぇぇえ!!こんな店いられるかっ!

 ホールに居るのも厨房にいるのも地獄。無邪気な子供の言葉に先ほどのやりとりを思い出し羞恥の中仕事をする!!



「テオ!ご飯食べたらすぐに私を王都へ連れて行って!」

「「「駆け落ちだーー!!」」」



 うるさい外野!ほらテオ、食後に王都へ行こうね?



「うんフレア。一緒に暮らそう」

「王都へ行くだけの予定だったよね!?」

「久々に会ったら離したくなくなっちゃった」



 そう言って彼はカウンターの椅子に座ったまま私の手を引いて自身の膝の上に私を倒れ込ませる。テオの吐息が耳に当たって恥ずかしい、そんな距離で囁くように



「君に会ったら人生に満足しちゃいそうで区切り良くS級になるまで我慢していたんだ。フレア、好きだよ。一緒に暮らそう」



 私はもう、声も出せずにゆっくりと首を縦に振るくらいしかできなかった。

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