殺人戯曲《デス・プレイ》

岡 辰郎

第一幕――stage

1場

 山奥のログハウスは、集まった5人が命を賭ける闘技場と化そうとしていた。

 西田信吾が立ち尽くしたままうつむき、唇を歪めてつぶやく。

「皆さん……これから殺し合ってください」

 西田からUSBメモリーを受け取って背を向けた原玄一が、振り返って首をかしげる。

「は? なんだって? よく聞こえなかったんだけど」

 原の言葉遣いは刺々しい。普段から自己主張が苦手な西田に対して、苛立ちを露わにすることも少なくなかったのだ。

 西田は、原の大きな声にかすかに首をすくめた。

「あ、あの……」

 何かを言いかけて、その言葉を呑み込んでしまう。ずっと薄い手袋をしたままの両手を神経質そうにすり合わせる。

 20畳ほどの大きさのリビングの隅では、暖炉の薪が炎を上げていた。ようやく部屋全体が温まって寒さも気にならなくなり、皆が上着を脱いでいる。

 大きな一枚板のテーブルには、食事の残骸を載せたままの大皿が並んでいる。すでに空になったワインの瓶やビール缶も転がっている。中央の皿では、ホールケーキの食べ残しが倒れていた。

 栗林俊彦は、西田のつぶやきを正確に聞き取っていた。

「殺し合うって……西田君、いきなり何を物騒なことを言い出すんだ? このUSB……何か新しい趣向でも思いついたのかい?」

 テーブルを囲んだ椅子に腰掛けた3人には、すでにそれぞれUSBが手渡されていた。四つのUSBには白い文字でいくつかの英単語が書き込まれている。

 西田は顔も上げず、黙ったままだ。

 阿久津葵が西田をかばうように原を諭す。その口調は、原が20歳以上も年上だということを意に介していない。

「ほら、信吾ちゃんがビビってるじゃない。あたしたちは玄ちゃんの社員じゃないのよ。偉そうな態度は会社だけにしなさい。信吾ちゃんはね、才能はあるけど気は小さいんだから」

 原が席につきながら、葵をにらむ。攻撃的な態度を隠そうともしない。

「お前こそ偉そうじゃないか。新進脚本家だとか、働く女の最先端だとかおだてられて、いい気になってんじゃないぜ」

「やだ、男のヤキモチ?」

「思い上がりだ、って言ってんだよ。そもそもがバイトに使ってやってたお前が放送局に潜り込めたのも、俺が知り合いのディレクターに紹介してやったからだろうが」

「その節はお世話になりました……とか持ち上げて欲しいわけ?」

「お前は所詮、使いっ走りのAD止まりだったけどな。だが、あれがなかったら、脚本家だなんてご大層な肩書きには近づくことさえできなかったんだぜ。今だって西田の助言がなけりゃ大したアイデアも出せないくせに」

 葵は動じない。

「あたしたちの間で、それ、言っちゃうわけ? 信吾ちゃんに頼ってるのは、みんな同じじゃない。あんただって、おこぼれに預かれるおかげで半端な出版社が倒れずにすんでいるんだから」

 原の目にかすかな敵意が浮かぶ。

「半端だと?」

 葵は、平然と受け流す。

「従業員は30人弱。弱小出版社のくせに印刷や製本まで抱えてるからいつも人手が足りない。ブラックな零細企業の典型じゃない。いつまで経ってもどん底から抜け出せないのが経営者の限界ってところかな」

 原は自嘲気味に鼻先で笑う。

「確かに大手に比べりゃ華やかさはないさ。印刷は先代の出発点だから簡単には捨てられない。不採算部門が整理できないのは外注する余裕がないからだし、2色機でカラー刷りをこなすような潰しが効かない職人ばかりだから首を切るわけにもいかない。当然、いつ運転資金が切れるかとビクビクし通しだ」

「分かってはいるのね。なら、変えればいいのに。せめてパチンコの雑誌でも出せば業績も上がるのに、小劇団だとか超絶マイナーなスポーツだとか、実績がない作家の純文学だとか、極め付きは図書館でさえ買わないような翻訳歴史書よね――そんな部数が出ないものばかりにこだわっているせいでしょう? 古臭い考えから抜け出せなくて思い切った決断ができないところが三流経営者だ、って言ってるんですけど」

「時代が変わっていることぐらい感じているさ。だが、分かっていてもできないことはある。やりたくないこともある。社員はみんな、本の仕事を愛してる。編集だけじゃない、印刷も営業も、自分が扱っている文化を支えたくて休日出勤も厭わずに働いているんだ。ろくな手当が出せないことだって承知の上だ。数が出なくて注目されないからこそ、価値のある情報や作品を掘り出すことに誇りを持ってる。先代から雑誌作りに参加してくれているライターやカメラマンもいる。彼らにだって生活があるんだ。そんな連中を守ることに、俺も誇りを持ってる。お前みたいに派手さばかり追っかけるお調子者とは違うんだよ」

「それにしちゃあ、その黒づくめの格好、非常識じゃない? 雰囲気ぶち壊しよ。楽しいお誕生会に三下ヤクザが取り立てに乗り込んできたみたい」

 栗林の妻、亜佐子が危険を察して2人の言い合いに割って入る。

「2人とも、落ち着いてね。推理小説界の牽引者と言われる宗像の存在は、今や西田ちゃんの才能がなければ維持できないんですから。そして、私たち五人は、もはや強固な運命共同体なのよ。いがみ合っててはいい仕事はできないわ」

 宗像霞のペンネームで知られる栗林俊彦がうなずく。

「亜佐子が言う通りだ。今日だけは仕事を忘れて楽しもうじゃないか。みんながこうして一斉に集まるのも久々だしな。食事は終えたが、まだ酒はたっぷり残ってる。パーティーは始まったばかりだ」

 原の苛立ちは急には治らない。

「はいはい、宗像先生様のブランド力が偉大なことは嫌ってほど分かってますって。だがな、それはスキャンダルで消えた元アイドルの後妻が作り上げた虚像だろうが。それすらゴーストライターの力がなければ維持できないと知ったら、世間はどう思うやら――」

 亜佐子が叱責する。

「やめてください!」

 亜佐子をにらみつけた原に、葵がきつい口調を投げつける。

「それは言いっこなしだって何度説明すれば分かってもらえるの? あたしたち全員が必要を認めて、納得して続けていることでしょう? しかも、内輪でも絶対に言葉にはしてはいけないって約束したじゃない。誰がどこで聞いてるか分かりゃしないんだから」

 原がまた鼻先で笑う。

「こんな山奥で、何に怯えてるんだか」

 葵が呆れたように応える。

「こういうのは、癖になるの。気が緩んでうっかり外で喋れば、今の関係があっという間に破綻するんだから。あんたが消えていくのは勝手だけど、あたしまで巻き込まないでよね。気をつけてほしいもんだわ」

 亜佐子が原を見つめる。

「原さん、何かあったの? そんなに突っかかってくるなんて、あなたらしくないわ」

 原は再び亜佐子をにらみ返したが、言葉を返そうとはしない。

 代わって葵が説明する。

「あたしにとっては、いつものことよ。宗像夫妻の前じゃ猫かぶってるだけ。大先生に嫌われたら大手出版社がらみの下請け仕事も減りそうだもんね。どうせまた、金策に失敗したんでしょう?」

 原は顔を背けて黙っている。

 宗像霞が話題を変える。

「確かに私は、才能が枯れた作家だ。古臭くなった文体をこね回すだけの自分を情けなく思う。だが、老いた者の気持ちは、老いてみなければ分からないものだ。それでも、たとえ分不相応だと罵られようと、亜佐子という若く才気あふれる妻を迎えられた。前妻に死なれて腑抜けになっていた私に、力が蘇った。だからこそ、こうして西田君の奔放な奇想を生かす物語を形にして世に送り出せるようにもなった」

 亜佐子が言い添える。

「みんなが等しく利益を得られる運命共同体なんですから。大切にしなくちゃね」

「その通りだ。この仲間たちのおかげで、みんなが自分の居場所を確かなものにできている。まずは、それに感謝しようじゃないか。何より今日は、水入らずで亜佐子の誕生日を祝うために携帯の電波すら届かない別荘に集まったんだ。編集から休日を邪魔されないように大金を投じてわざわざこしらえら隠れ家なんだから、西田君のサプライズをじっくり堪能してもいいと思うが?」

 原もうなずく。

「葵が突っかかってこなけりゃ、でかい声を出すつもりなんてないさ」

 亜佐子もほっとしたように緊張を解く。

「そうよ、仲間なんだから。葵ちゃんも気をつけなさい」

 葵は視線を逸らして口を尖らせる。

「なんでいつもあたしだけ悪者なのよ……」

「ほら、その態度。感じ悪いわよ」

「はいはい、分かりました。大人しくしますよ」

 亜佐子は西田に言った。

「で、このUSBはなんなの? わたしのには “merely” って書いてあるけど……。本当に誕生日のサプライズなのかしら? わたしのためなら、たっぷり楽しませてね」

 宗像が自分のUSBを隣の亜佐子に見せる。

「私のは “アンド・オール・ザ”  だな」

 葵も気分を変えるようにUSBを見る。

「あたしは “アンド” だけ。ねえ、これって何かの暗号?」

 葵に見つめられた西田が、ようやく顔を上げて言葉を発した。

「USBの中のファイルにはパスワードがかかっています。それぞれの言葉の意味が理解できれば、パスワードを見つけてロックが解除できて中の文章が読めるし、自動的にUSBの順序も分かると思います」

 葵が目を輝かせる。

「順序があるの? 文章を繋げると一つになるってこと?」

 西田がうなずく。

「僕の新作小説です」

 原がうつむいたままつぶやく。

「また、面倒なことを……」

 葵が楽しげに、原が持つUSBを取り上げようとする。

 反射的に手を引っ込めた原が葵をにらむ。

 葵はあっけらかんと笑っている。

「何ビビってんのよ。取ろうなんて思ってないわよ。あんたのUSBには何て書いてあるの?」

「 “オール・ザ・ワールド……” とかか?」

 宗像が微笑む。

「謎解きかい? 面白いじゃないか。私たちが力を合わせれば、君の新作をここで読めるという趣向か」

 亜佐子がうなずく。

「それ、わたしへの誕生日プレゼントだと思っていいのかしら?」

 葵が皮肉っぽい笑みを浮かべる。

「独り占めはないんじゃない? 信吾ちゃんのアイデアは私たちの共有財産だって決めてるんだから」

 宗像が肩をすくめる。

「どっちにしろ、協力しなければ世には出せないからね。新作ってことは、出版を前提に書いたんだろう?」

 西田は背筋を伸ばし、山荘に来て初めて宗像の目をまっすぐ見据えた。

「もちろんです。それに、これまで先生に提供して来たような断片的なプロットやシノプシスじゃありません。僕が、僕の文体で、僕の読者のため書き上げた、僕の作品です」

 その瞬間、全員が息を殺した。

 僕の作品――。

 その言葉は、いつかはやってくると覚悟し、同時に最も恐れていたものだった。

 西田信吾の覚醒――。

 それがこれまでの〝不安定な安定〟を破壊する衝撃であることは、口にする必要がない共通の認識だ。

 最初に声をもらしたのは亜佐子だった。

「まさかとは思うけど……それって……もう宗像には原案を提供しないってこと? これが最後……ってことなの?」

 西田は宗像とにらみ合ったまま何も答えない。

 葵が場を和らげようとするかのように、ことさら甲高い声を上げる。

「やだ、信吾ちゃん。急に変なこと言わないでよ。いくらサプライズだからって、おふざけが過ぎるんじゃない? 今までみんなで仲良くやって来たんだから、なんでいまさら……」

 だが、語尾が自信なさげに消えていく。

 西田の目は笑っていなかった。

 原が、観念したようにため息をもらす。

「そうか……お前もやっと、その気になったか。まだ酒は残ってるって言ってたよな? 祝ってやろうじゃないか。坊ちゃんが荒海にこぎ出す覚悟を決めたらしいからな」

 葵が小さく叫ぶ。

「やめてったら!」

 原は、西田を見つめる。

「だがな、この先1人でやってくつもりなら、せめて人並みに手袋ぐらいは取れや。埃やら虫の死骸やらが気持ち悪いだとか、どこのお姫様だよ。ここは熊も出るっていう山奥なんだぞ。神経質すぎるから引きこもりなんかになったんだ」

 宗像が原をにらむ。

「軽口を叩いてる場合か⁉ 私たち全員の今後に関わることだぞ!」

 原が薄笑いを浮かべる。

「大先生がいきなりキレちゃ、積み重ねてきた権威が台無しだぜ。そもそもあんただって、いつまでもこんな離れ業が続けられるとは思っちゃいなかったんだろう?」

「だからって、急すぎるだろうが! 西田君、それは本当なのか⁉ 本気でアイデアの提供をやめる気なのか⁉」

 宗像に喰い入るように見つめられた西田は、しかし何も答えない。ただかすかに震えながら唇を噛み、その視線を見つめ返す。

 原が西田に向かってうなずく。

「それが答えってことだな。そうだ、その目があればこの先もやっていけるだろうよ。お前だって必死になれば、こうして先生に抵抗できるんだ。引きこもっていた部屋からも出られた。一人暮らしも始められた。もう世の中はそれほど怖くないだろう? 今度は自分だけの力で、本物の社会に出てみろ」

「茶化すな! お前は黙ってろ!」

「宗像先生、みっともないぜ。ミステリー界の重鎮なんだろう? それなりの風格を見せてくれって。西田の手本にならなきゃいけないんだから、しっかりしろや」

「うるさい!」

「幼馴染に八つ当たりか? そもそも西田は、俺が紹介したんじゃないか。こいつにアイデアを提供させてきたのも、いつかは自分の筆で書けるように鍛えてもらうためだ。雛鳥は成長すれば巣立つ。諦めろよ」

 答えたのは亜佐子だった。小声だが、口調は冷たい。

「ダメよ、そんなの……」

 西田が再び視線を床に落とす。声に力がない。

「でしょうね……。宗像先生はともかく、亜佐子さんがそう言うのは分かっていました……」

 原が嘲笑うように、西田を見る。

「別に許可なんていらないだろう? お前が本気なら、先生だって止められやしない。ましてやその嫁になんの権利がある? 持ち込みでも公募でも、好きな出版社に送りつければいいだけじゃないか。お前が本気なら、の話だがな」

 葵が軽く肩をすくめる。

「ああ……でも、それ、かなり大変だよ。どこに送っても、たとえペンネームで隠しても、たぶんバレちゃうでしょうから。内容が良ければ良いほど、編集部でも大騒ぎになるだろうしね。それが宗像霞の近作に雰囲気が似てれば、なおのことヤバイよ。その結果、新星の登場を大ボス様にご注進……ってね。そういうご命令が出版業界には行き渡ってますから。どこも宗像先生に――っていうか、その奥さんには頭が上がりませんから」

 亜佐子が厳しい口調で言う。

「話に割り込まないで」

 葵はその言葉を無視する。

「ほら昔、編集者が総出で直木賞作家のDVを隠したって事件があったじゃない。嫁を半殺しにするような腐った人間でも、バカ売れさせられる実力があるならゴリ押しもできるのよ。宗像ブランドも同じ。編集者はみんな、商売敵になりそうな新人の情報を隠したら、報復は凄まじいだろうなって怯えてる。宗像の新作なら確実な売り上げが約束されてるんですからね。まず、握りつぶされるでしょう。先生のネームバリューには勝てないわよ。皮肉よね。宗像霞は信吾ちゃんのおかげで華麗に復活、しかもベストセラーを連発して発言力を強めちゃったんだから。もはや宗像先生を裏切れるような気骨のある有力編集者なんて、日本にいるのかしら?」

 原もまた、他人事のように肩をすくめる。

「ま、残念だが、それがオチだろうな。先生には、おっかない参謀が目を光らせてる。どこの出版社もキンタマ握られてるんだから、大手でも逆らえないよな」

 亜佐子が無表情につぶやく。

「原さんもよしてください。言葉が汚いわよ」

「あんたみたいに、ハラワタの中まで汚れてるわけじゃないんだがな……」

 亜佐子は原を無視して、西田に刃のような一言を放つ。

「諦めなさい」

 西田が繰り返す。

「あなたがそう言うのは、分かっていました……」

「分かってるなら、なんでこんな無駄なことを?」

 西田の声はほとんど聞き取れないほどか細い。

「……自由になりたい……」

 原が、ハッと気づいたように声を上げる。

「え? だからさっき、殺し合えなんて言ったのか⁉ みんなを殺し合わせて、自分だけ自由になる気か……?」

 再び皆が息を呑む。

 葵がつぶやく。

「まさか……」

 宗像が問う。

「殺し合えって、もちろん何かの比喩なんだろう……?」

 西田はうつむいたままだ。

「僕は……自由になれさえすればいいんです。みなさんには感謝しています。特に原さんは、妄想しかできない引きこもりの僕を……親でさえ部屋から出すのを諦めた僕を、こうして社会に引っ張り出してくれました。僕は……外に出たいのに出る方法が分からなくて、自分が何者か、何のために生きてるのかさえ分からなくて……でも、なんとかして一人前になりたくて……気が狂いそうだったのに……。ただ近所に住んでるっていうだけで、そんな僕を気長に待ってくれて……」

 西田の声が消え入ると、原が場を取り持つように話す。

「君のお袋さんから頼まれたんだよ。ずっと昔のことだが、俺の出版社で働いていたこともあるから、邪険にはできない。お前がアニメやゲームばかりじゃなくて小説も読み始めたと知って、昔馴染みの俺に相談してきたんだ」

「それでも、あんなに真剣に考えてくれて……」

「お袋さんが追い込まれていたからだ。20代のうちになんとかしないと、ってな。確かにここで社会に出るきっかけを失うと、30、40とどんどんこじれて取り返しがつかなくなる。ま、俺にとっては人助けっていうより暇つぶしみたいなもんだった。仕事で行き詰まってて、人ごとじゃない気もしていたしな。それでもお前は頑固だったよな。葵の力を借りなかったら、たぶんドアすら開けさせられなかったと思うぞ」

 西田が再び口を開く。

「葵さんには劇団とか放送局とか、いろんな仕事場に連れて行ってもらったし、同い年ぐらいの知り合いもやっと何人か作ることができました。僕にとっては、顔見知りとラインのやりとりをするなんて夢のまた夢だったのに……。しかも、皆さんの中だけでなら、こうやって何とか自分の気持ちも出せるようになれました。まあそれでも、かなり無理はしてるんですけど……」

 葵が軽く肩をすくめる。

「人ごとじゃないからね。元ヒッキーの先輩としては、見捨ててはおけなかったのよ」

 西田は宗像を見る。

「先生は、僕なんかが思いつくとりとめのない妄想の断片を立派な小説に組み立ててくださって……そうして出来上がった本が、何かの魔法みたいに思えました……。しかも、何10万人、何100万人もの人たちがそれを読んでくれるなんて……」

 宗像は黙ったままだ。

 亜佐子はかすかに鼻で笑ったようだ。

「だったら、なんで急に自由になりたいだなんて?」

 西田が顔を上げて亜佐子を見ようとする。だがその視線は亜佐子の鋭い目に弾かれるようにして、背後の暖炉に逸れてしまう。

「みんなが僕のアイデアで大金を得ていることは分かってます」

 亜佐子は動じない。

「当然。それが世の中の仕組みだもの。あなたが突き抜けたアイデアを考え出せることは認めるわ。でもそれは生煮えで不恰好な、あなたが自身が認めている通りに単なる妄想でしかない。だから宗像が物語としての形を整える。そして葵や原さんが、出版や二次使用に絡んで利益を得る。もちろん、あなたにはタワーマンションの一室が与えられ、相応の収入も約束された。それが運命共同体ってものよ」

「だから何をしても許されるっていうんですか?」

「はい? 何が不満?」

「だから僕は自由を――」

「そもそも、ご両親と上手くいかないから一人暮らしをしたいと要求してきたのはあなたよ。わたしたちはその条件を満たしてあげた。結果として自由になれたわけでしょう? それなのに、まだ要求があるの? 収入が不足だっていう程度のことなら、いくらでも考えるけど」

 西田は沈黙したままの宗像を見た。

「そうじゃないんです……お金なんて、どうだっていい……。どうせ、使い道だって分からないんだから」

「だったら、何よ?」

 西田はしばらく黙り込んだ後、決意を固めたように言った。

「……先生の文体や感性が、僕と合わないことに我慢ができなくなってきたんです」

 宗像が首をひねる。

「感性……だと?」

「最近、特にそうなんです。先生の物語を読んでいると、それが自分のアイデアだと思えなくなるんです。別の世界の誰かに僕の頭を乗っ取られたみたいで……。何だか息苦しくて……頭が痛くなって……耐えられなくて……いっそ脳みそを掻き出してしまいたくなるんです」

「君のプロットを崩したことは一度もないが?」

「でも、違うんです。キャラのイメージも、吐き出すセリフも、進行のスピード感も、何もかも違うんです。何もかも、僕じゃないんです」

「それは仕方ない。文章を紡いでいるのは私なんだから」

 亜佐子が加わる。

「で、だから、何? 批評家の評判はいつも好意的だし、実際に部数はたくさん出ている。読者はみんな宗像の物語を心待ちにしているのよ」

 西田は不意に大声をあげた。

「先生の物語なんかじゃない! あれはみんな僕の物語だ!」

 皆がたじろいで絶句する中、葵がつぶやく。

「ああ……そんなこと、言っちゃうんだ……。それ、ダメなヤツだよ」

「なんであんたがダメだとか決めつけられるんですか⁉」

「信吾ちゃんも少しは大人になったと思ってたんだけどな……。そんなに自分の名前にこだわりたいの? ついこの間まで引きこもりだったくせに……」

「名前なんてどうでもいい! 僕は、僕の物語が欲しいだけだ!」

「あのね、あたしたちの業界はね、亜佐子さんが言う通りの仕組みで動いてるの。確かに物語もキャラもトリックも、ほとんどは信吾ちゃんが思い描いた世界だけど、それだけじゃ到底商品にならないんだって。たくさんの人に読んでもらうには、私たちみんなが力を出し合って協力する必要があるのよ」

 宗像がうなずく。

「新人賞をとって華々しくデビューした気鋭の作家も、その大半はすぐに消えていく。アイデアだけでは小説にはならないんだ。君が提供してくれているのは盆栽の原木ようなもので、手間をかけて設計し、矯正し、刈り込んで、熟成させなければ高く評価される作品にはならない」

 だが、西田は納得しない。

「だからって、いい原木がなければ作品だって作りようがないじゃないですか! 宗像先生が一時代を築いた大作家だってことは分かっています。僕だって過去作品を読みふけっていつも驚かせてもらいました。でも、今の先生はその頃とは別人なんでしょう⁉ 書けない作家が作家のままでいられるはずがないでしょう⁉」

 原が耐えかねたように口を挟む。

「事実ではあるけど、それはあんまりの言いようだな。作家の才能にも限りがある場合がほとんどだ。出し切ったらそこでジ・エンド。アイラ・レヴィンを知ってるだろう? 全くタイプが違う傑作をいくつか送り出して世界を熱狂させたが、それは量産できるクオリティーをはるかに超越していた。若い頃は人気を博した多くの作家も、老年はスタイルを変えることが多いし、しかも作品を出し続けながらも忘れ去られていく。凡作ならいくらでも書けるとしても、傑作の数は知れているんだ」

「そうなったらやめれだいいだけだ」

「やめられない……いや、やめさせてもらえないこともあるんだよ。一度高みを見せた作者は、常にそれを超えることを要求される。力を落とせば読者は敏感に見抜き、見捨て、発行部数の減少として現れる。だから編集者は、永遠のジレンマに悩む。この作品を出すことが作家のためになるだろうか……ってな。それでも、出さなければ商売にならない」

「僕は商売でアイデアを出しているんじゃない!」

「当然だ。アイデアだけじゃ商品価値はないんだからな。だが一方で、作品の売れ行きには多くの関係者の生活がかかっている。だからこそ、締め切りもある。そこを察してくれる作家は、ありがたいものさ」

「そんな話をしているんじゃありません。商売なんて、僕にはどうでもいいことだ! 本が出せなきゃ、ネットで発表すればすむことです」

「お前の理想は分からないでもない。だが、それでどうやって生活していく? 人間、生きていくだけで金がかかるんだよ。だからこそ、力がある者は弱い者の面倒見なくちゃいけない。お前の才能は、いずれ多くの人を救う力を持つだろう。俺はそう信じている。だから、焦るな」

「変な期待をかけないでください。僕は自分のことさえろくにできない半端者なのに……」

「才能を無駄にするなと言っているんだ。理想にこだわることは実生活の足を引っ張ることがほとんどだ。対極の狭間でどうバランスをとるか……その選択が人生というものだ。それを学べ。世間に出て行くのは、それからでいい。その上、残念だが、才能は枯れる。お前だって今はそうして意気がっていられるが、いつ底が見えるか分からないんだぞ。まだ若いから仕方がないが、少しは怖がれ。作家は皆、怯えながら走っているものだ。先輩には敬意を払え」

 亜佐子もうなずく。

「今だって、多くのミステリー作家が『宗像世代』という言葉でくくられているのよ。先生は、その最先端に立ち続けた。もう新しい発想はあり得ないだろうと言われた分野に、いくつもの可能性を切り開いてきた。今またその言葉が復活してきているのは、もちろん西田君のおかげでもあるけれど、たくさんの読者が宗像の力を認めていることを忘れちゃいけないわ」

 西田が再び声を落とす。

「だから、たくさんの人なんかどうでもいいんだ……どうせ、他人なんだから……。僕は、僕が納得したいだけなんです。それには、もう先生じゃダメなんです。原稿枚数を稼ぐための薀蓄とか、話を長引かせるだけのトラブルだとか、必然性のない性描写だとか――そんな余計なものは欲しくないんです。キレがいいはずの中編が冗長な長編に変わっちゃう。心理描写は冗漫だし、本筋と無関係な泣きばかり入れ込もうとするし。文章のリズムが気持ち悪いんです」

 宗像の目にも闘争心が浮かぶ。

「気持ち悪い? ずいぶんな言い草じゃないか。だが、その文章がベストセラーを生んでいることを忘れないでほしい。確かに私は、アイデアが枯れた作家だ。だがその分、人間を描く技は学んでいる。読者の感情をくすぐる技術には長けている」

「そんな技術なんて求めてない!」

「読者が求めているんだ。私たちは芸術とは無縁の存在だ。文学作品で歴史に名を刻もうなんて思っちゃいない。エンターテイメントは、職人の世界なんだよ。ほんのひと時でも読者を空想の世界に引き込んでしがらみから解放し、そして現実に立ち向かう精神力を回復させる。ゴミファイルが溜まって動作が不安定になったコンピュータを再起動するようなものだ。いや、もっと人間の本能に近い、睡眠のような欲求なのかもしれない。それが娯楽の力だ。力を持つ作品は、売れる。だから、プロは売れてなんぼだ。作品は、作者のためにあるのではない。価値を決めるのは読者だ。勘違いしないで欲しい」

「勘違い? 先生こそ勘違いしないでください。僕はプロの作家になりたいわけじゃない。僕の物語を納得できる形で読みたいだけなんだ。先生たちとこうしてお付き合いしているうちに、自分の本当の望みに気づいたんだ。どうせ僕は、家族からも疎まれていた出来損ないです。突拍子もない馬鹿話しか思いつけないお荷物です。でも僕は、本当の僕の物語が読みたいんです。それが読めさえすれば、死んだっていい!」

 原が叱る。

「物騒なことは言うな。お前はご両親を憎んでいるようだが、彼らはお前を愛している。ただ、気難しいお前とどう接していいか分からなかっただけだ。お前もこうして部屋から出ることができたんだから、いつかは必ず分かり合える」

 西田が、不意に原を嘲るかのような視線を向ける。

「やだな……あなたまでそんな態度を取るんですか……?」

「どういうことだ?」

「偽善的に過ぎますよ……。これでも僕は、あなたの立場を守ろうと精一杯気を使ったのに……。昔の学園ドラマじゃないんだから、心にもないことは言わないでくださいよ。あくまでも善良な人生の先輩を演じたいんですか?」

 原の表情が曇る。だがそこには、一抹の不安も滲んでいた。

「だから、何が言いたいんだ……?」

「僕……知ってるんですよ。あなたが僕に関わった本当の理由は、僕の母さんを落としたかったからだって。僕が言うのもなんですけど、母さんは見かけだけは若いし、今でもなかなかのナイスバディですからね。実際、僕の家に来るたびにセックスに励んでいたじゃないですか。母さんだって父さんと不仲だったから、まんざらじゃなかったはずです。実際、垢抜けた感じになっていきましたからね」

「知ってたのか……」

「引きこもりのアンテナをバカにしないでください。外界の変化には超絶高感度なんです。だけど、非難する気なんてありません。父さんも外に女を作っていたんだろうし、おかげで夫婦で諍うこともなくなったし、世間体を気にして僕を罵ることもなくなりました。両親もあなたも性的に満足できたんでしょうし、僕も外に出るきっかけを得られたんですから、みんなハッピーです」

「じゃあなんで、今さらそんなことを言い出すんだ……?」

「ちょっと腹が立っただけです。善人ぶって恩を売って、僕の気持ちを踏みつけにしようとしたみたいなんで。あなたも欲にまみれた俗人だったことを認めてくれれば、それでいいんですよ。ここに集まった他のみんなと同じようにね」

 葵が椅子からわずかに腰を浮かせる。

「あたしまで欲まみれだって言うの⁉」

 西田の視線が葵に向かう。

「まさか、違うだなんて言いださないでしょうね。ベタベタ言いよってきて、僕にアイデア提供させようって下心がモロバレだったんですけど」

 葵がとっさに言い返す。

「信吾ちゃんだって楽しめたはずよ。なによりも、一人前の男にしてあげたんだから」

 亜佐子が割って入る。

「葵さん! わたしたちを出し抜こうとしたの⁉」

 葵が亜佐子をにらむ。

「なんであんたたちが信吾ちゃんの才能を独占するのよ。あたしにだっておこぼれがあったっていいじゃない」

「あなたにも充分な利益があったはずよ。大した才能がないのは分かってたけど、宗像の作品がテレビで映像化される時はあなたを脚本に推してきたんだから」

「最後まで手掛けられたのはオムニバスドラマのほんの数回だけじゃない! 映画だってやりたいのに!」

「制作サイドがあなたを切り捨てるのはわたしたちには関係ないことよ。力不足だと笑われないだけの実力を身に付ければすむことよ。少なくとも、チャンスはあげてるわ」

「オリジナルが欲しいのよ!」

「他人の才能をあてにして、オリジナルもないもんだわ」

「あんたたちこそ信吾ちゃんの寄生虫じゃない!」

「よく言うわよ。自分も仲間に入れなければ宗像にゴーストライターがいるってバラすって脅してきたのはあなたでしょう⁉ そういうのこそ寄生虫っていうのよ。だいたい、どうやって西田ちゃんと宗像の関係を知ったんだか……。そこの原にでも股を開いたの?」

 宗像がたしなめる。

「亜佐子、言い過ぎだ」

 だが原は、薄笑いを浮かべて視線をそらした。

 そのそぶりに気づいた亜佐子が、呆れたように吐き出す。

「まさか……本当にそうなの? 原さん……あんた、女なら手当たり次第なのね。そこまで腐ってるなんて……」

 原が悪びれずに肩をすくめる。

「世の中にはいろんな男がいてね。宗像先生のように先妻に死なれたらやる気を失って外に飲みに行く元気もなくなるっていうのもいれば、俺みたいな浮気者もいる」

「勝手な言い草ね」

「まあ、これこそ男の本能みたいなものだから勘弁しろよ。葵がアイデアに詰まっていたみたいなんで、何の気なしに西田の話をしたんだ。妙な話ばかり思いつく若造がいる、ってな。葵は俺が宗像の幼馴染だって知ってる。そしたらこいつ、その話だけで裏に気づいちゃったんだな。ずっと宗像の華麗な復活に疑問を感じていたんだと。女の勘ってのは恐ろしいもんだ。しつこく追求されたんで、つい話しちまった」

「その代償に懇ろになったってことね……。まったく、男ってやつは……」

「あんたが言える立場か? 落ちぶれた三流アイドルが人気作家の後妻に入れたのも、女を使ってたぶらかしたからだろう?」

「何も知らないくせに、決めつけないで」

「知り合いはみんなそう思ってるぜ。宗像は押しに弱いからな」

「根拠のない想像は迷惑でしかないわ」

「そうか? だって、宗像だぜ。才能が枯れる前はブイブイ稼いでいたし、今でもミステリーの教科書扱いされてる過去作は多い。印税や著作権料は放っておいてもそこそこ入ってくるし、溜まってる分だけでもたんまりだ。財産目当てでなけりゃ、親子ほども年が違う男に取り入る理由はないだろうが。『フランボワーズ』の花純(カスミ)だったか? 自殺者まで出すトラブルでアイドルグループをぶち壊した女など、普通なら大作家の嫁になんかなれない」

「その話はしないで!」

 葵が不意にサイドバッグを取り、中から出した市販の鎮痛剤を頬張りながらつぶやく。

「バッカみたい……」

 亜佐子がそれに気づき、言った。

「さっきから何? 具合が悪いの? あんたこそそんな薬をバカみたいに飲んでたら、余計おかしくなるんじゃない?」

 葵は意に介さないようだ。

「全然効かないどころか、頭痛がひどくなるばっかりよ。あんたたちの下らない言い合いを聞かせれてたら、ね」

「わたしだって罵り合いはしたくないわよ。この年になったらめでたくもないけど、誕生日だっていうのに……。そもそも原因を作ったのは、あんたと原でしょう?」

 原が鼻で笑う。

「女の争いってやつか? お前ら、同類だからな。同類でなければ争いにはならないもんだ」

 亜佐子は宗像を横目でちらりと見てから原に言った。

「勝手にそう思ってればいいわ。まあ、宗像は忘れられかけていたとはいえ、有名人でしたからね。でも、私は昔から先生の作品が大好きだったのよ。花純っていうアイドル名だって、先生のペンネームにあやかって付けたんですから。で、たまたま紹介されたら、奥様を失われてひどく落ち込んでいた。尊敬する作家の弱った姿を見てしまったら、なんとかしたいと思うのが女なんです」

「大作家を、まるで捨て猫扱いだな」

「それにね、才能溢れるおじさまに抱かれたいって女は、あんたが思ってるよりずっと多いのよ。自分の子供に、その才能を与えられるかもしれないんだから」

「才能? とっくに底をついていただろうが」

「だからわたしが再ブレイクをプロデュースしたんじゃない。宗像もそれなりにやる気を出してくれたしね」

「ま、若い女に尻を蹴られれば、走らないわけにいかないからな。あ、玉を握られれば、か」

 宗像が耐えかねたように間に入る。

「亜佐子を悪く言うな。私は本当に助けられている。こうして復活できたのは亜佐子のおかげだ」

「やり手だってことは誰もが認めてるよ。あっちこっちの出版社に喰い込んで、薄れかけた宗像霞の名声を掘り起こした手腕は見事だった。今ではあんたにゴーストがいることを疑ってる編集もいるだろうが、どこの出版社からも文句を言わせないように万全の手を打っている。まさか、アイドル上がりのおばさんにそんな手腕があっただなんてな……」

「言い過ぎだぞ」

「褒めてるんだよ。ほんと、見事なもんだ。俺にも同じ才能があればって、羨んだもんさ。だがそれだって、西田がいるから維持できるんじゃないか。こいつ抜きじゃ、とっくに忘れ去られていたかもしれないんだぜ」

 宗像は平然と受け答える。

「認めるよ。今の私は、西田君と亜佐子がいなければ作家を名乗ることすらできない。落ちぶれたものだよ。だが、現状には満足している。満足しているから、壊したくない」

 亜佐子がその言葉にうなずき、西田を見つめる。

「それが先生の意見。そして、私たちの総意。現状を維持する。それが結論よ。動かしてはいけない――いいえ、動かすことができない結論なんです」

 西田もうなずく。

「ええ、よく分かっていますって。そして、あなた方がやっぱり腐りきってることも確認できました。僕はもう、こんな世界にはいたくない。こんな気持ちになるなら、引きこもりのままだったほうがずっとよかった……」

 葵がたしなめる。

「そんなことを言うもんじゃないわ。ご家族のことも考えなさい。こうしてあなたが一人前になれたことで、どれほど安心しているか――」

 西田は唇を歪めた。

「一人前、ね……。葵さんって、いつもそう言うんですよね。でも、そうは思えないから、こんなバカな真似をしてるんじゃないですか。本当に一人前になれたなら……一人前の人間だったら、これほど自由を奪われるはずはないんだ……」

「一人前になったからって、何もかもハッピーにはなれないわ。むしろ、逆。世の中は不公平と妥協で出来上がっているの。そこに出て行くってことはね、不自由を受け入れるってことなの。大人はみんな、何かを我慢して仕事をしているんだから。あなたも少しは学んだと思ってたんだけどな――」

「そんなんだったら大人になる必要なんかなかった! 僕は葵さんとは違う。自分を曲げて世間に合わせるのには、もううんざりなんだ!」

 亜佐子は、彼らを無視するように冷たく言い切った。

「自由になりたいですって? ほんと、拗ねた中学生みたいな言い草ね。さすがに年季が入った引きこもりだっただけのことはあるわ。諦めなさない。今さらそんな贅沢、許されるものですか。あなたはチームの要なんですから」

 亜佐子の怒りを目の当たりにした西田の瞳に、思い詰めた色が浮かぶ。

「だから、そのチームを壊すんです」

「壊させません。チームが壊れるときは、あなたが壊れるときだと理解しなさい」

 西田は意外にも、かすかに笑った。

「とっくに理解してますよ。だから、逆の手段を取るしかないんです」

 亜佐子がわずかに不安げなそぶりを見せる。

「逆って、何よ?」

「僕が壊れるんです。そうすれば、チームも存在できません」

「壊れる……?」

「てか、もう壊れてるんです。だって、書かなければいいだけじゃないですか」

 宗像がつぶやく。

「枯れたのか……? 私のように」

「そうじゃありません。外に出さないんです。頭の中に溢れてくる物語を、閉じ込めるんです。それって、引きこもってた僕がずっとやってきたことですから。あの頃に戻るだけのことですよ」

 原が西田を見つめる。

「できるのか? お前にそんなことが」

「引きこもりだったんですよ。何年も、そうしてきたんです。できないわけがないでしょう?」

「だが今のお前は、あの頃とは別人だ。自分の夢想が世の中から求められていることを知ってしまった。どんな方法であれ、現実の世の中との接点を持ってしまったんだ」

「だからこそ納得できないことに圧し潰されそうになってるんじゃないですか!」

「たぶん、そうなんだろう。それが社会に出るっていうことだからな。感性が鋭い分、余計に辛いこともあるんだろう。だが反面、初めて知った喜びもあるはずだ。その喜びは、辛さを乗り越えた先にしかないことも思い知ったはずだ。それはすでに、お前自身の存在理由になっているんじゃないのか? それをあっさりと捨てられるのか?」

 西田の目に、一瞬、不安がよぎる。

「……あっさりとだなんて、とんでもない。僕がどれだけ悩んだと思ってるんですか。何日も何日も眠れないで……やっと決心がついたんです……覚悟を決めたんです……。やらなきゃならない。やらなきゃ、僕は消えてしまうって……」

「だから、捨てられるのか⁉ 捨てられなければ、たった1人で社会に適応しないとならないんだぞ。そもそも、俺たち以外の人間とまともに喋ったりできるのか? 俺たちと話をするだけで、一体何年かかったと思っているんだ? コンビニなら黙っていても買い物ができるが、仕事の交渉はそうはいかない。言葉が交わせなければ、意志も通じない。お前が譲れないと言っている感性だとか自由だとかだって、どうやって守る気なんだ?」

「そんなこと、やってみなくちゃ分かりませんよ! 僕には未来を予知する能力なんてありませんから。1人になった自分がどうなるかなんて、もう想像もつきません。でも今は、これ以上は苦痛に耐えられない。僕、弱い人間なんです」

 原が顔を伏せる。

「やっぱりかよ……。そんな脆さを抱えたまま、出て行こうとしているんだな……」

「僕にはもう、何も期待しないでください」

 亜佐子が力なく首を横に振る。

「ダメよ……そんなの……」

 西田からは気弱な表情が消えている。

「ダメって言われてもね……。僕が書かなければ、どうやって頭の中から物語を引っ張り出すんですか? 脳みそに電極を突っ込んだって、言葉は溢れてきませんよ」

「わたしに……わたしたちに、どうしろっていうのよ……」

「だから、自由にしてくれればいいんです。僕はもう、いないものだと思ってください」

「これ以上は絶対に物語は提供しないってことなの……?」

「今は決めていません。何年間かあなた方と離れて落ち着けば、また気が変わるかもしれません」

 宗像がうめく。

「何年も、って……すでにいくつも出版が決まっているのに、予定をキャンセルしろというのか……?」

「ご自分で一から書けばいいじゃないですか。作家と名乗る人は、みんなそうしているんでしょうから」

「私を馬鹿にしているのか⁉」

「先生は奥さんに要求されて仕方なく僕の物語を書いているんだと思い込みたいようですが、僕から見ればそれは違う。偉大なミステリー作家という名声を維持したいがために、僕の脳みそを搾り取っているだけです。ずるいんです。自分のずるさを認めたくないから、自分にそう言い聞かせるようなずるい人なんです」

 絶句した宗像に代わって、原が口を開く。

「だが、俺たちと縁を切ってどう生きていく? マンションの家賃さえ支払えないぞ。また実家に戻って引きこもるのか? お前に人並みの仕事ができるのか? 物語を妄想することしかできないお前に……」

 葵が続ける。

「このUSBには信吾ちゃんの小説が入っているのよね……? 自分で文章まで書けるようになったってことよね。それ、どこかに売り込むつもりなの?」

 西田はかすかに微笑む。

「あなた方に差し上げますよ。パスワードを見つけられるのなら、あなた方のものです。それをどうするかは、4人で話し合って決めればいい」

 亜佐子が気を取り直す。

「で、その次からの作品はどうするつもり? 当然、どこかの出版社に持ち込むしかないわよね。じゃなければ、いずれはお金がなくなるものね」

 宗像がうめく。

「私の作品と類似の作風が世に溢れていくのか……」

 西田が宗像をにらむ。

「作風を盗まれるみたいに言われるのは心外です。これまでものも、全て僕のスタイルですから」

 葵が言う。

「さっきも言ったでしょう? 大手の出版社は、みんな亜佐子さんの手のひらの上。信吾ちゃんが食い込もうとすれば、潰されるだけよ。それとももう、誰かに渡りをつけてあるの? ……いや、そんなはずはないわよね。あたしたちに黙ってそんな離れ業ができるぐらいなら、そもそもコミュ障の引きこもりなんかになるわけないものね」

 亜佐子が決然と言う。

「宗像の恩人に意地悪なことはしたくないけれど、葵さんが言う通り。あなたが作家としてデビューすれば、世間は宗像の真の姿に気づいてしまうかもしれない。この世の全ての読者や批評家をあざむき続けることはできないでしょう。それは、宗像が築いてきた名声を根底から覆す。過去の栄光の全てが粉々に破壊されてしまう。わたしたちの生活も瓦解する。あなたが反旗をひるがえすと言うのなら、全力をつぎ込んで潰すしかないのよ。わたしたちにそんなひどいことをさせないで」

 葵もうなずく。

「あたしだってオリジナルが欲しいのに……」

 西田が妖しい光を宿した視線を葵に向ける。

「だから、僕の最後の新作を持っているじゃないですか。あげますよ、そのUSB」

「だってこれ、4つ合わせて一つの小説なんでしょう?」

 原の目から薄笑いが消える。

「奪い合え……ってか?」

 西田は原を見つめて穏やかにうなずく。 

「話し合ってもよし、奪い合ってもよし……あるいは、殺し合ってもよし」

 宗像が声を荒げる。

「またそれか⁉ ふざけたことを言うんじゃない!」

 葵がうなずく。

「信吾ちゃん、普通じゃない。疲れてるのよ。もしかしたらうつ病みたいな病気かもしれない。あたしが一緒に行ってあげるから、病院に行こう。少し休めばまた落ち着いて、きっと今までの暮らしが戻ってくるから――」

 西田はその声が聞こえないように、原から視線をそらさない。

「僕、知ってるんです。原さんの会社は印刷部門が足かせになって資金繰りが厳しいんでしょう? みんな殺して、この新作を宗像先生の遺作として発表すればいいじゃないですか」

「殺すなんて馬鹿馬鹿しいことは二度と口にするな!」

「なぜですか? 論理的な帰結ですよ。先生が死んじゃえば、新作は確実なベストセラーになりますから。ここで他の人が死ねば、代わりに死にかけているあなたの会社が息を吹き返すんですよ。殺した後で火でもつけて、命からがら助かった――とでも言えば、警察も騙せるかもしれないし、宣伝効果は超弩級です」

 原が叫ぶ。

「バカにするな!」

 葵がうなずく。

「そんなこと、できるわけないでしょうが!」

 西田は動じない。

「本当にそうですか? 葵さん、あなただって新作のアイデアが欲しいんでしょう? 企画書コンペの締め切りがもうすぐだって、泣きついたじゃないですか」

「それはそうだけど……」

「これが最後のチャンスかもしれないって、涙声でまとわりついてきたじゃないですか。亜佐子さんから指定されても、今度も制作会社から拒否されるかもしれないって。脚本家としては、もうどこも相手にしてくれないんだ、って」

「あれは……だって、正直に話せば信吾ちゃんがアイデアをくれるかもしれないから……」

「だから、あげますって。ここにUSBが揃ってるんですから、勝手に持って行ってください」

「あたしにくれるの……?」

「力づくで奪えれば、ですけどね」

 宗像はかすかに震えていた。

「これまで君を大事にしてきたのに……なんという仕打ちだ……。仲間割れをそそのかすなど……」

 西田が宗像を見る。

「そそのかしてなんかいません。この運命共同体とやらは、とっくに破綻しているんです。僕はそれを可視化しているだけです」

「どういうことだ……?」

「狂っているのは僕だけじゃないってことです。だってほら、ここの2人はUSBを独り占めしたい動機を持っているでしょう? 先生の命を奪ってまで手に入れたいというほど強い動機かどうかは、僕は知りませんけど。でも、先生だって欲しいですよね。せめてあと一作は新作を出さないと、引退するにも突然すぎて、誰もが変に思うでしょうから。真相に薄々感づいている関係者がゴーストライターのことも喋っちゃうかもしれませんしね」

 宗像が西田をにらむ。

「たかが小説のために人殺しなど、とんでもない。そうなったらそうなったときのことだ。作家の肩書など、いつなくなっても構わん。実際に他人のアイデアを盗んでいたんだから、盗作だと罵られても当然だ。こんなUSBなど、欲しいやつにくれてやる」

 西田の視線が亜佐子に向かう。

「――などと言っていますが?」

 亜佐子が宗像に言う。

「あなた、ダメです。これまで積み上げてきた実績を捨てるだなんて……そんなこと、軽々しく言ってはいけません。このUSBは、私たち全員のものなんですよ」

 西田がかすかに笑う。

「本当、亜佐子さんって先生の操縦が巧みですよね。って言うか、他人の心を操る技に長けてるんでしょうね。そんな高等技能を持っているなら、生きるのもずいぶん楽しいんじゃないんですか。どこで勉強したんですか。学べるものなら、僕も身に付けたい技です。天性の才能なのかな?」

「何が言いたいの⁉」

「心にもないことをよくベラベラと喋れるな、って感心しているんです。僕もこれまでずっと騙されていましたから。でも僕、あなたの本性が分かっちゃったんです」

「だから、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」

「亜佐子さんって……アイザワ書房の鈴木専務と通じてますよね。ラブホから2人で出てくるところ、写真持ってるんですけど」

 あっと声をあげたのは宗像だった。

「亜佐子……まさか……」

 亜佐子の表情がこわばる。

「あなた、そんなこと信じないで……」

 宗像が西田に問う。

「それは本当なのか? どうして分かった?」

「この日のために、あなた方みんなの素行調査を興信所に頼んでいたんですよ。周囲の評判だとか、会社の財務状況だとかも。あなたのおかげでそんなことに使えるお金もたっぷりありますから。亜佐子さん、あなたは先生の新作をアイザワ書房に渡そうと画策してますよね」

 宗像が亜佐子をにらむ。

「おまえ……私がアイザワを嫌っていることは充分知っているはずだ。妻が死んだのはアイザワが原因なんだぞ……」

「いつまでこだわっているんですか? あなたの妻は、今はわたしです」

「それはそれだ。だが、アイザワだけは許せない。あそことだけは一切関係を持つなと……あれほどはっきり念を押しておいたではないか。なのに、なぜ⁉」

 宗像の目に吹き出した怒りに亜佐子が絶句する。

 代わって西田が説明する。

「鈴木専務に会っていたのは、体の関係を持つためだけじゃなさそうですよ。そろそろ何があってもおかしくないお年の先生が亡くなったら、過去作品もひっくるめて丸ごとアイザワに乗り換えるつもりなのかも」

 亜佐子が耐えきれなくなったかのように叫ぶ。

「勝手な妄想はやめなさい!」

 西田は動じない。

「確かに妄想ですけど、それって僕の唯一の才能ですから。しかも傍証ならあります」

「何よ、それ……」

「編集部の出版予定に大幅な変更がありそうだとか、次期社長は鈴木専務だって噂があるとか……。アイザワ書房は出版業界トップで、鈴木専務は創業家から見れば傍流ですけど、メディアミックスで業績を急拡大させたやり手です。社内では早くも中興の祖とまで言われてるそうじゃないですか。それに満足せずに、すでにアニメ路線の次のコンテンツを血眼になって探しているようですよ」

「それのどこが傍証なのよ! どこもやってることじゃない!」

「僕が提供してきたアイデアって、ハリウッドの大型映画には結構向いてるものもありますから、それを押さえたいんじゃないでしょうか。あ、これも僕が頼んだ興信所が相当数の社員から聞き出してきた情報です」

「思い上がりもいい加減にしなさい!」

 西田は亜佐子を無視して宗像を見つめる。

「先生、この間心臓のカテーテル手術をしましたよね。元から心臓が弱くてペースメーカーも入れてる、とか。締め切りが近づくといつもストレスで胸が痛むとも言ってましたっけ」

「それがどうした……?」

「先生の食事、必ず亜佐子さんが作っているんでしょう?」

「何が言いたい……?」

「まさか、証拠が残るような毒を入れたりはしないでしょうが、心臓に負担をかける栄養素を常に多くするとか、妻以外には不可能な小技は使えますよね」

 宗像の視線が亜佐子に向かう。

「亜佐子が私を殺そうと……?」

 亜佐子は冷静に答えた。

「そんなたわごと、信じないでくださいな」

「もちろんだが……」

 宗像が自信なさげに目を伏せたのを見た西田が、さらに言葉を継ぐ。

「鈴木専務の家庭は崩壊寸前で、双方の弁護士が離婚調停に動いているそうです。離婚は確定的で、その後は一体どうなるんでしょうか? ゴーストライターの力を借りないと新作が書けない作家と、一流出版社の次期社長候補――男としての魅力を比べると、亜佐子さんならどちらを選ぶでしょうか? 宗像先生なら、亜佐子さんの気持ちも正確に推測できるんじゃありませんか?」

 宗像が目を伏せたままうめく。

「私はもう用なしということか……」

 亜佐子が宗像に手をのばそうとする。

「あなた、変な口車に乗らないでください」

 宗像の口調に、亜佐子の手が途中で止まる。

「だが、お前が私の後妻に入った目的の大部分は、財産だろう? それでも構わないと思いながら、私はお前を妻に迎えた。情けない話だが、妻を失った私はそこまで弱っていたんだ。つまりそれは、もっと大きな財産が得られるなら、お前は相手を変える可能性もあるということだ」

「バカなことを言わないで!」

「アイザワ書房の社長夫人か……。私の財産をすべて奪ってから乗り換えられるなら、躊躇する理由はないだろうな。西田君の新作はほんの手土産ってことか……。私が死ねば話題性も充分だ。新作の売り上げも記録的なものになるだろうしな……」

 亜佐子は完全に言葉を失った。

 すかさず西田が念を押す。

「そして先生が消えた後も、亜佐子さんは今まで通り僕を搾り尽くす……。僕のアイデアは他の誰かが作品に仕上げればいいんですから。つまり、亜佐子さんにも先生に死んで欲しい動機が――それも強力な動機があるということです。僕の新作を独り占めしたがっているのは、ここにいる全員だということが分かっていただけましたか?」

 原が怒りを堪えたようにつぶやく。

「だから殺し合えってか……。たとえ殺しあったとしても、お前がアイデアの源泉なんだから誰も危害は加えられない。自分だけ安全地帯に逃げ込んで、1人で楽しもうって魂胆か? そんなに俺たちが憎いのか? ただ心が弱いだけの若造かと思っていたが、そこまで狂ってやがったのか……。いや、お前も根性が腐ってやがったんだな……」

 西田はかすかに首を横に振った。

「ひどいな……。そんなに自分勝手な人間なら、もっと違った結末を考えられますよ……」

 葵が不安げに首を傾ける。

「結末……?」

 西田は言った。

「だってそうでしょう? そんなことをしたって、結局僕は生き残った最後の1人に取り憑かれるだけです。自分で言うのも情けないけど、運命ってやつに抗える胆力があるなら、そもそも引きこもったりしてませんから。そんな人生だったら、今までと何も変わりはしない。それが嫌だから、こんな決断をしたのに……」

 亜佐子がつぶやく。

「あなた、何が言いたいの……? こんなバカな真似をして、一体何が望みなのよ……?」

「望みはすでに伝えました。自由になりたい。ただ、それだけなんです」

「だから――」

 亜佐子が言葉を続ける暇はなかった。

 西田は急に動きを早め、ポケットの中から何かを取り出して口に含んだ。テーブルからわずかに残ったワインを取り、それを一気に喉に流し込む。

「これで、僕は自由です。言いたいこともみんな吐き出しました。こんなに喋ったのは、人生初めてかもしれない。いつも思うけど、会話って疲れるもんですね……。僕は疲れ果てました。もう、休みます。後のことはあなた方で勝手に決めてください」

 宗像がつぶやく。

「何を……飲んだ……⁉」

 西田は、ニヤリと――しかし晴れ晴れと笑った。

「シアン化物、です」

「毒か⁉」

 原が腰を上げる。

「何してる⁉ 吐き出せ!」

「嫌ですよ、これでやっと自由になれるんだから。これこそ、本当の自由です。誰にも邪魔させません」

「自由って……そういうことなのか……?」

「仕方ないじゃないですか、他に方法が思い付かないんだから」

 原が西田に近づこうとする。

「さっさと吐き出せ!」

「こっちに来ないで! 僕が倒れても近づかないように」

「何を言ってるんだ……」

「近づくと、皆さんにも毒が回るかもしれませんから」

「バカな……」

「みんな……さようなら……」

 そして西田はその場に倒れると、口からかすかな泡を吹いて痙攣を始めた。

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