第33話
す、すごい、魔力。
相当魔力を練ったんだと思うけど、魔術ってここまで力が引き出せるんだ。
私がいた時代の上級魔法に匹敵する威力だわ。
それを涼しい顔をして使いこなすアランさんもアランさんよ。
可愛い顔して、凄かったのね。
さすが第二師団師団長様。
莫大な魔術砲撃。
その衝撃波は凄まじかった
『うわぁ!!』
さしものムルンも風で煽られる。
ムルン1匹なら問題ないのだろうけど、その背には私と勇者様が跨がっている。
バランスを保つのに四苦八苦していた。
ついにムルンが墜落しそうになるところをキャッチしたのは巨大な岩の手だった。
「これって……。スーキーのロックドン……」
『ミレニア、あれ!!』
ムルンが翼で指し示すと、手を振っている女性団員が見えた。
「マレーラに、カーサ、ミルロまで……」
それは先ほどまで私と肝試しをしていた新人団員たちだ。
ムルンは目の前に降り立つと、マレーラたちが近寄ってきた。
「良かった! 無事だったんだね、ミレニア」
「どうしてみんな……」
私が惚けていると、マレーラが自分の後ろにいたカーサの肩に手を置く。
その側には契約したばかりのピクシーがいた。
「カーサがさ。ミレニアが危ないっていうもんだから、助けに来た」
「助けに、私を……?」
信じられなかった。
だって、マレーラたちとは今夜あったばかりなのだ。
前世の時の仲間たちのように命を張るような冒険をして、絆を温める時間もなかった。
なのに、私を助けるために生きるか死ぬかの戦場に駆けつけるなんて。
「あたいたちは友達だろう? もう忘れたのかい?」
マレーラは親指を立てて、さらにウィンクする。
側にはカーサとピクシーもいて、笑っていた。
そこに、さらにみんなの笑顔が溢れる。
前世で火あぶりになりながら、私は思った。
もう結婚なんてうんざりだ。
仲間なんていらない。
友人もいらない。
ただ普通の暮らしがしたい。
普通の力で、普通の成績で、普通に愛想笑いを浮かべながら普通の人間関係を築けばいい。
命をかけること、命をかけられることもたくさんだ。
そう思ったことがあった。
だけど、家族と出会い、同期と出会い、勇者、師団長たちと出会って、そして危機に駆けつけてくれた友人がいる。
果たして、今この関係は私が培った前世の関係と比べてどうなんだろうか。
いや、考えてもしょうが無いことだ。比べるべきでもないだろう。
そもそも人間関係が数値化できるものであるなら、私はきっと火あぶりなんてならなかったはずだ。
「ありがとう!!」
私はマレーラとカーサの首を同時に引き寄せ、抱きしめた。
「ありがとう、2人とも。とっても嬉しいよ」
「お! おい!! ミレニア、首が絞ま――――ッ!」
「こちらこそ感謝です、ミレニアさん」
私はスーキーとミルロにも感謝の言葉をかける。
嬉しい! まだ新人団員として活動もしてないのに、もう4人もできちゃった。
「美しい友情だね」
アーベルさんは穏やかに笑う。
「あれ? この人ってもしや……」
「覚えてない? 勇者アーベルさんだよ」
『えええええええええ!!』
マレーラたちは叫声を上げた。
「やっぱり……」
「噂は本当だった」
「勇者と付き合ってるって」
「本当だったんだ!」
ちょちょちょちょ! ちょっと何よ、それ!
どこの噂よ、それ。
「カーサまで。そ、そんなわけないでしょ! アーベルさんに失礼でしょ!」
「でも、試験の時――――」
試験? ――あ! あの時か!!
私は頭を抱えた。
確か私、最終的に勇者様に担がれて、みんなの前に現れたんだっけ。
それでおかしな噂が……。
まさか1、2週間ほどの前の噂がこんなところに利いてくるとは……。
『良かったね、ミレニア。いい友達じゃないか』
バサリと今度はムルンが翼を広げる。
自分の紹介しろとばかりに、頭を私の頬に寄せてきた。
「で――――。ミレニア、もう1つ聞きたいのだけど、そちらの大きな鳥は??」
「ムルン。私の使い魔よ。神鳥シームルグのね」
『神鳥シームルグ!!!!!!!』
4人はまた叫声を上げる。
ああ。もう! 説明が面倒くさい。
いちいち驚かなくていいのよ。
……まあ、仕方ないとは思うけど。
「親交を深めるのはいいが、ここは戦場だよ。新人団員には、安全な場所にいてほしいものだけどね」
アランさんが下りてくる。
穏やかに見守るアーベルさんと違って、第二師団師団長として厳しい言葉を投げかけた。
そして、それはもっともだ。
「君たちの気持ちはわかる。しかし、状況がわかっているなら、新人団員や城にいる非戦闘員の退避など、やれることはあると思うよ」
「で、でも、あたいたちはミレニアを……」
「アラン師団長、その必要がございませんわ」
途端、紅蓮が閃いた。
炎が立ち上り、再び再生しようとしていた
その炎をバックに現れたのは、朱色の髪を揺らしたヴェルとルースだった。
2人は総帥とアラン団長の前に膝を突く。
「非戦闘員と新人団員の退避は終わりました」
「君たちが誘導を……」
「いえ。他数名の新人団員が手伝ってくれました」
「それ、多分あたいの
マレーラはちょっと得意げに鼻を擦る。
「なら、ヴェルファーナ……。君も退避を」
アラン師団長は珍しく厳しい顔つきで、指摘した。
しかし、ヴェルは動かない。1歩もだ。
「お断りします」
「師団長、命令でもかい」
「まだあたしは魔術師第二師団に入団を拝命されていません。今ここにいるのは、いち民間人です。だから、アラン師団長……。あなたの命令であっても、あたしに聞く義務は今のところありません」
「民間人なら尚更だよ。今は有事だ。軍人の言うことを聞かなければ、法で裁かれることだってある」
ヴェルは動かない。ギュッと拳を握った。
「あたしはバラジア家の娘で『炎の魔女』の代行――――」
「なんだかんだいいながら、ミレニアのためだよね」
ヴェルの言葉に被せたのは、ルースだった。
「ミレニアが心配になって来たんだよね」
「ち、ちが! ルース! あなた何を勝手に!! あ、あたしはね。また
「……僕はそうだよ。ミレニア、助けたくてここまで来た。ヴェルは違うの?」
ルースはさりげなく私の手を握る。
「あ、あたしは…………そのちょっぴり…………心配だったから。ほ、ほんの少しよ。ミレニアはあたしのライバルだから、こんなところで死なれたら、その……」
どんどん、ヴェルのトーンが下がっていく。
なんだかんだいいながら、私を心配してやってきたらしい。
そんな小さな同期を、私は抱きしめた。
「ありがとう、ヴェル。心配してくれて。そして駆けつけてくれて」
朱色の髪をなでなでする。
「だー! もう! 抱きしめるな! 撫でるな! あと子ども扱いするな!!」
ヴェルは私の胸の中で、子どものように喚いた。
だが、和んでいる場合ではないことはわかっている。
アラン師団長の魔術砲撃は凄まじかった。
けれど、それ以上に凄いのはやはり
あれほどの魔力の奔流を受けても、また再生を始めようとしている。
ほぼ消滅状態だって言うのに、どうして生きてられるの、こいつ。
「随分と騒がしい戦場ですね」
突然、青白い光が走る。
重さを伴った
再び肉片が飛び散ると、それを焼却したのは、巨大な火柱だった。
その炎はヴェルの炎よりさらに大きく、チリチリと私の頬を焼いた。
「全くひよっこどもがピーチク、パーチクと」
切れ長の瞳に眼鏡をかけた第五師団の師団長ボーラさん。
さらに隻眼の魔術師第六師団の師団長ロブさんまで現れた。
アラン師団長が連れてきた第二師団だけではない。
第五、第六師団とローデシア王国が誇る屈強な魔術師師団が揃い、復活しようとする
アーベルさんの周りには、アラン師団長、ボーラ師団長、そして最後にロブ師団長が膝を突く。
「ひよっこたちに後れを取るとはな、やれやれ」
「深酒なんかするからですよ、ロブ」
「また王都で呑んでいたのですか、ロブ師団長」
遅れてきたロブ師団長を非難する中、薄く笑ったのはアーベルさんだった。
「ロブ、心配しなくてもいい。1周回って、遅れてきた者がいるからね」
「それって、俺のことか、アーベル」
え?
意外な人物の声を聞いて、私は反射的に振り返った。
ややぼさついた黒髪に、見覚えのあるブラウンの三白眼を見た時、私は率直にいって目の前に現れたのは“お化け”なのだと思った。
「ぜ、ゼクレア師団長!」
「なんだその目は? 人を化け物を見るみたいにジロジロ見やがって」
「い、いや、だだだだだって」
「足なら付いてるぞ」
わざわざ足を見せてくれるのだが、ブーツの裏が熱で溶けて、素足が剥き出しになっていた。
間違いなくゼクレア師団長だが、満身創痍であることに代わりはない。
あー! もー! この人、いつもなんで私の前でボロボロなんだろう。
そういう星の定めなんだろうか。
「おい! お前らもいつまで死んだふりしてる? とっとと起きろ。仕事だ」
「はーーーーーーーーーーーーーい!!」
元気よく起き上がったのは、ラディーヌ副長だ。
そのまま花火のように打ち上がると、放物線を描いてゼクレア師団長へと向かってくる。
完全直撃コースだったのだが、ゼクレア師団長は受け止めることもなく、あっさりと躱してしまった。
結局、ラディーヌさんは冷たい地面と熱い抱擁を交わす。
「ラディーヌ、その元気をあの化け物にぶつけてこい」
「はううぅ! さすがゼクレア様、その冷たい目が溜まらない!!」
くねくねと身体を動かす。
今さらだけど、よくゼクレア師団長こんな人を副長に置いてるなあ。
魔術師として実力はあるんだろうけど……。
ああ。そうか。他に置いておける師団がなかったのか。
「さて、役者は揃ったようだね」
そう言うと、ゼクレア師団長、アラン師団長、ボーラ師団長、ロブ師団長が一斉に膝を突く。
頭を真の総帥へと垂れた。
「総帥……。ご命令を」
「僕は総帥ではないのだけどね。今は君が総帥だろう、ゼクレア」
「問題ないでしょう」
「ゼクレアも頑張ってたけど、俺たちの総帥はあんたじゃねぇと」
集った師団長たちが苦笑する。
すると、ついにアーベルさんは腰の杖を握った。
「まあ、ちょうどいい。そろそろ私室に閉じ込められて身体が鈍ってきたところだ。勇者らしく国と世界を救いに行こうか」
アーベルさんは杖を掲げる。
ローデシア魔術師師団の力、とくと見せて上げようじゃないか!
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