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私の言葉に先生は合点がいったような否なような奇妙な顔をした。たぶん気づいた。
それにしては時間が経ちすぎているから、それだけではないことに。
私は突っ込まれないよう、早口で閑話休題する。
「ところで先生、お姉ちゃんの気持ち知ってました?」
完全に油断していたと言わんばかりに、先生はたくさん目を瞬いて、
「あの日初めて知った。それまではまったく知らんかった」
私よりずっと早口で捲し立てた。
「まぁ、知ってたら家にあげませんよね。生徒なんて。たとえ困ってても」
私は肩で息をつく。
本当に苦しそうな顔をする。
こんな不器用でバカに素直でどうしようもないほど優しい人に女子高生を襲うなんてリスキーな真似、出来ないなって、今なら思う。
思うけど、やっぱちょっとムカつくな。
「お姉ちゃん、先生に迫ったでしょう?」
核心を正面からついてやった。精一杯のイジワルな顔を作って。
案の定、先生は目を大きく見開いて耳の先まで赤くした。
「……ああ、びっくりした。いつもすごい大人しい子だから。スカート丈だって膝よりちょっと下くらいで髪も地毛だしちゃんと校則も守って」
そう。お姉ちゃんは私と違って清楚で純粋で。
膝上15センチが基準の私とは全然違う。
「でも、俺と向井とは生徒だから。だから、すげぇ……が、我慢した」
急に砕けた言い方になる。それがなんだかすごく、お姉ちゃんと対等に感じられて。
心のどこかで波音が聴こえたような気がした。
さざ波。誰にも聴こえない。私だけの小さな小さな、変化。
雨はいつの間にか上がっていた。
「菊池、あの、こんなこと言っても信じてはもらえないかもしれないが、俺は」
「先生」
食い気味に言葉を遮る。それ以上聞くのはちょっと、ちょっとだよ先生。
にこっと精一杯の笑顔を作って、虚をつかれた先生に向かって唇を開く。
「質問いいですか? 鉱物だったら何好きですか?」
さらに先生の目が丸くなる。私は覗き込むようにして先生の返答を待った。
たぶん、探してる。思い出してる。この質問の意図を。
ややあって先生の眉が跳ねた。
「……アクアマリン。アクアマリンが今でも好きだし、これからも変わらない」
その返答に、眩しいものを見るみたいに私は目を細めた。
お姉ちゃんはどこまでもお姉ちゃんだ。かないっこない。
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