2分

有馬 千

2分

「お姉ちゃん、休憩しよ?」

「うーん、わかった」

 私は中三、お姉ちゃんは高三、二人揃って受験生。



 台所に移動し、電気ポットに水を足して沸騰ボタンを押す。

「お姉ちゃん、どっちにする?」

「いつもの」

 お姉ちゃんは緑のたぬき、私は赤いきつね、いつも通り。

 蓋をめくり、お湯を注ぐ。

「これでよし、あと5分」

「お姉ちゃん、5分待ってたら麺が伸びちゃうって」

「だって一緒に『いただきます』したいし」

「・・・じゃあ次から2分ずらしてお湯入れよっか」

「・・・そうだね」



「さあ、今夜は時間差でお湯を入れたよ」

「それじゃ蓋をめくって・・・いただきます」

「いただきますっと・・・熱っ!」

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「平気平気・・・でもないかな、ちょい猫舌だし」

 器をふうふう吹いている。

「・・・やっぱり一緒にお湯入れて、2分間冷ましたら?」

「・・・そうだね」



 そして今夜もお夜食タイム、いつもの赤と緑。

「「いただきます」」

 ふうふう、ずずーっ。

 お姉ちゃん、まだまだ熱いのかな?

「そういえばさぁ」

「何?」

「どうしていっつも緑のたぬきなのかなぁ、って。お姉ちゃん、外できつねうどん

 食べてたよね?」

「それは受験生だから!2分を笑う者は2分に泣くっ!」

「・・・あのぅ、私も受験生」

「あんたは大丈夫でしょ、我が家の希望の星だもん。私はもうちょい頑張らないと。

 一人で食べる時は3分待つ間も問題解いてるし」

「無理しないでね。でもそれじゃあ、こんなにだらだらしゃべってたら悪いかな?」

「・・・あんたはさ、第一志望受かったら家を出て寮暮らしじゃない。あと4ヶ月

 しか無いんだ・・・大切な時間だよ」

「お姉ちゃん・・・」



 あれから3年、私は大学受験の真っ只中。ちょっと背伸びをした志望校には、2分

どころか1分1秒すら惜しいくらい。

 でも寮の友達と、誰かの部屋に集まってのお夜食は、決して無駄な時間じゃない。

 みんな志望はバラバラ、一緒に過ごせるのはあとわずか。

 お姉ちゃんが言った通り、とても大切な時間だ。

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2分 有馬 千 @arimasen

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