第20話純粋な15歳なんてものはすでに絶滅している

 「あの警備員、トランシーバーが鳴った辺りから血の気が引いていたよなぁ。なんか急いで警備員の部屋?みたいなところに駆け込んでいったし・・・・・・・・ほんとどうしたんだろう。」

 まぁあいつが入れたからよかったけど。

 結局は僕の思い通りに事が進んだので本音は経過なんてどうでもよかった。

 『未知は未知のままに』・・・・・・・・最近はあまりにも都合のいい使い方をしているなぁと常々思う。

 「ねちねちうるさいにゃー。結果オーライ発射オーライ黒船往来ってことにゃ。」

 「そうよ渡辺君。ねちねち系男子はモテないわよ。やっぱり男は爽やかじゃないと。・・・・・・・・って!あんた!これ私の弁当よ!自分の食べなさいよ!・・・・・・・・キャァァァァァ!肉がぁ!肉がぁ!」

 ・・・・・・・・素直にありがとうが言えないのは恩人達があまりにも騒がしいからだろうか。

 でも・・・・・・・・素直になるって決めたからな。

 「そのぉありがとうな、2人とも。僕のわがままに付き合ってくれて、助けてくれて。」

 僕は痒くもない頭を掻きながら思いを伝える。

 すると思うままに弁当をのさばっていた彼女達の箸が止まり、僕に視線が向けられた。

 「た、たまたまそこにいただけにゃ。タマだけに。困っている人がいれば助けてあげる。こんなの幼児教育の時点で習う常識にゃ。アソパソマソ見てれば誰でもできるにゃ。」

 「ま、まぁ。私は特に何もできなかったけど。・・・・・・・・か、かか、勘違いしないでよね!私はただ面白そうだなぁって思ってついてきただけだから!」

 あまりにもしょうもないギャグとわかりやすいツンデレ要素をいまさら取り入れながら謙虚の姿勢を見せる2人。

 僕の顔の火照りは彼女たちにも伝染したのか、それとも春の日差しにやられたのか。

 これもまぁ僕のポリシーで処理するとしよう。

 「・・・・それでなんにゃけどぉ。」

 「なんだ?」

 「そのおっきいのくれにゃい?」

 僕の下半身のあたりにある・・・・・・・・すいません。

 僕の弁当箱の中にある鰆の照り焼きを箸で指しながら告げる。

 「あぁ。別にいいぞ。・・・・・・って!」「言質とったりにゃ!ありがとにゃ!」

 そういって猫はアンバー色の髪を、頭上についた猫耳を僕の腕に擦り付ける。

 その行動はまさに『猫』のようで。

 しかしその這いよるものの正体は『猫』ではなく、造形は明らかに人の割合が多いので。

 「ちょ・・・・・・・・色々当たってるから。」

 僕は身を引き、接触を非接触にしようと試みる・・・・・・・・ふりをした。

 本気で離れようとすればもちろん離れられる。

 しかし・・・・しぃかぁぁぁぁしぃ!

 こんなチャンスめったにないだろう。

 寂寞とした高校生活を華やかなものにするべく四苦八苦する男。

 ハリのある肌、風に乗って香る甘い香り、そして腕の辺りに感じるほのかな膨らみ。

 それはおねさんの物よりもダイナマイトさでは劣るものの、圧倒的若さと希少価値を感じる逸品だった。

 あぁ。昇天してしまいそう。

 「クンクン。やっぱりにゃんか良い匂いす」「・・・・・・・・おい。貴様はいつからポルノカメラマンに転職したんだ。」

 近隣から剣呑な雰囲気を漂わせるお方の一声に僕の昇天は危うく他殺された後に行われるものになりそうだったので・・・・・・・・ 

 「ほら、食えよ。」

 と僕はやや強引に猫の方へ弁当を差し出した。

 「ありがとにゃ!大好きにゃ!」

 「・・・・・・・・・・・・」

 僕のドギマギはよそに、猫は水を得た魚のようにむしゃむしゃと僕の最後のおかずを頬張っていた。

 僕の頭も弁当箱も今この瞬間、その一言のおかげで真っ白になった。



 「ねぇ。あんたそろそろ脱がないの?それ。」

 ひとしきり弁当を食べ終えた(1人を除いて)後、黒髪ロング少女が口を開く。

 それは同時にややこしやの門を開いたわけで。

 猫ほどの図々しさをもってしても開けなかった門を開く彼女の強さにあっぱれだが。

 正直説明がめんどくさいので出来ればスルーしてほしかったが・・・・・・・・まぁ無理だろう。

 「・・・・・・・・おいうちゅうじん。お前、僕がおにぎりをあげたときは頭は脱いでただろ。なんで今は被ったまま他人様の肉食ってんだ?」

 ギクっという効果音が聞こえそうなほどに肩が瞬間的に上がる。

 黒髪ロング少女の弁当に無我夢中だった体が、まるで機械のようにギギギっと僕の方へ向く。

 「・・・・・・・・お前、まさかだけど。初対面の人がいっぱいいるからって最近弛緩してきたうちゅうじん設定をより濃いものにしようとしてないか?」

 「ち、ちゃうもん!」

 音速を超えて光速。

 その反応の速さこそが僕の疑惑を確信へと昇華させた。

 「ご、ゴホン。今からせつめ・・・・うっ・・・・ゲホッゲホッ。ち、ちょい待ち!・・・・・・・・幹人、みずぅぅぅぅ。」

 僕は無言で喉に何かを詰まらせ、悶え苦しむうちゅうじんに水筒を手渡した。

 ありがとうと消えそうな声でお礼を言い受け取るうちゅうじんは成長したといえるのだろうか。

 閑話休題。

 「落ち着いたか?」

 「う、うん。」

 今回は水被らなかったんだな・・・・・・・・はやめてあげよう。

 本当に苦しそうだったし。

 胡乱な存在をまじまじと眺めていた猫と黒髪ロング少女の目が、明らかにかわいそうな子を見る目に変わっていた。

 そんな様子を第三者の視線で見ている僕はいったいどういう立ち位置なんだろう。

 するとうちゅうじんはおもむろに立ち上がり、そして・・・・・・・・

 「ワレワレは火星から降臨せし者。この地球の侵略を目論んでいる者でもある。ワレワレは大いなる存在故、韜晦することなどなにもない。さぁ、ワレワレの降臨を言祝げ!そして崇めよぉ!」

 と、ひとしきり跋扈した後へたりと座り込んだ。

 またしても新たな情報が解禁されたらしい。

 うちゅうじんの大演説を聞いた2人の反応はというと・・・・・・・・

 パチパチパチとまるで娘のお遊戯会を見る母のようだった。

 「むぅぅぅぅぅ・・・・・・・・みきとぉ。なんか思ってたのと違うぅぅぅ。」

 「ぐれいまん。この反応はまだ良い方だぞ。世間様の目はもっと冷たいし、拍手なんかしてくれないからな。」

 僕は励ますでもなく、同情してやるでもなくうちゅうじんを諭すことに決めたみたいだった。

 「かわいらしいわね。渡辺君の妹さん?」

 「そんな大それたものじゃないよ。」

 「妹が大それたもの?大げさね・・・・・・・・はっ!ま、まさかっ!渡辺君ってシスコンとかいう変態?」

 「ちっげぇから!って!なに後ずさりしてんだ!言葉の綾だろ。」

 「まぁまぁ落ち着くにゃ2人とも。別にいいじゃない。タマはいつでもどんな時でも味方にゃ。」

 「やめろぉぉぉぉぉ!その優しさのかけられ方は逆に凹むから!」

 まるで思春期を理解する母のような眼差しで僕に相槌を打つ猫。

 僕の頬は紛れもなく羞恥で真っ赤に染まった。

 「ふぅぅぅぅ。あちぃぃぃ。」

 なんというか本当に自由な奴だ。

 僕たちのやり取りには興味がないといったところだろうか。

 なんにせよ今じゃない。

 ついさっき『脱がないの?』と聞かれたときがベストタイミングだったはずだ。

 「ぷはぁ。」

 「「・・・・・・・・えっ?」」

 わいわいと騒ぐ2人の視線は釘付けに、行動は些末な事、日常的とまではいかないが。

 ただ、着ぐるみを脱いだだけ。

 もう僕たちは15歳。

 理想と現実の区別はつく。

 空が飛べたらいいのにという理想は叶わない。

 お金がなければ生きていけないという現実は知っている。

 それなのに、あいつを見てしまうとどうしても一瞬理想と現実の区別がつかなくなる気がした。

 湿気でべたつく水灰色の髪、水星のような透き通った青い目、整った顔立ち。

 その全てが特別で、それでいて魅力的。

 前世の行いが気になるレベル。

 ・・・・・・・・まぁ外見の良さを中身が中和してくれているんだけど。

 しかし、それを知る僕ですら時々・・・・・・・・こう環境が変わるとどうしてもドキッとしてしまう。

 女騎士ではないが『くっころ』を言ってしまいたくもなる。

 見慣れた僕ですらこんなにも衝撃を受けたんだ。

 初めて見る彼女たちには刺激が強すぎたかもしれない。

 2人とも開いた口がふさがらないといった様子だ。

 「ち、ちち・・・・・・・・ちょっと待ちなさい。なによこれ。反則・・・・・・・・反則じゃない!ありえない。ありえないわ!」 

 わなわなと震えつつ、その開ききった口で叫ぶ黒髪ロング少女。

 しかしそんなこと知ったこっちゃないといわんばかりのいつもの無表情で佇むグレイマン。

 「そ、そのぉ・・・・・・・・お弁当おいしかった。面と向かってお礼が言いたくて。」

 「ふんっ!別にいいわよ。豚のようにばかばか食って猪突猛進しかできない体になればいいのよ。そうすれば」

 「私、食べても太らない・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ありえないんですけど!なんなのあんた!食べたら食べた分だけ太るのよ!それは地球が青いのと同じくらいに常識なんだから。」

 「あなたもうちゅうに興味があるのね!仕方ないなぁ。幹人の次に偉い人にしてあげる。」

 「わ、私は1番じゃなきゃいけないのに。この町では1番だと思っていたのに。ま、また・・・・・・・」

 グレイマンの勧誘は残念ながら彼女の耳には届かず。

 黒髪ロング少女はまさに不倶戴天。

 そしてぶつぶつと呪文のように何かを唱えていた。

 そんな様子を先ほどと同じく第三者の視点で見つめていると肩にトントンと軽く2度触れられる感触があった。

 「なんだ?」

 僕はその方へ振り向くと、そこにはまるで人生の愁嘆場を見たかのように青ざめた、そして唇を震わせる猫がいた。

 「ど、どうしたんだ?」

 思わず僕は猫の肩を揺すった。

 さっきまでは元気だったのに。

 「だ、大丈夫にゃ。問題ないにゃ。」

 猫は僕の手を払い、ぎこちない笑顔を作る。

 少し落ち着いたのか、深く深呼吸。

 「幹人。この子とは一体どういう関係にゃ?」 

 「え・・・・・・・・えーっ」

 『キーンコーンカーンコーン・・・・・・・・』

 予鈴が鳴った。

 「わ、私もう帰るね。」

 そう言ってグレイちゃんはグレイマンに変身し、風のように学校を後にした。

 「そ、それじゃあ僕たちも戻ろうか。」

 僕は弁当片手にその場から立ち、教室へと向かった。

 「見間違うはずがにゃい。でも・・・・・・・・」

 『未知は未知のままに』それが僕のポリシーだ。

 

 

 

 

 

 

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