第17話這い寄れ!グレイちゃん!
今日も今日とて『侵略活動朝の部』へ。
この町の朝は早い。
まるで空に昇る龍のように煙が畑から舞う。
どこからともなく聞こえる世間話。
何を言っているか分からないあたり、あのババアどもはもしかしたら宇宙人なのかもしれない。
・・・・・・・・まぁ私も宇宙人なんだけど。
言葉が分からないのは種族違い?
地球人にとっての宇宙人はどれもこれも変わりないと、特に日本ではそんな風潮があるがそんなわけはない。
地球人の中にアメリカ人、日本人、アフリカ人、サイヤ人があるように、宇宙にもそういった区別はある。
畑仕事をする
あれ気持ち悪くないのかなと私は詮無い事を考えてしまう。
「慣れって怖いな。」
閑話休題。
昨晩の事を思い出す。
・・・・ふつふつとこみ上げる負の感情。・・・・『ふ』を3回も言ってしまった。・・・・フフフ。
顔の中の顔に青筋が立つのが身をもって分かる。
強い羞恥心と怒りが鉛のようにドロドロと体中を巡る。
普段はこんな早朝に活動を始めない。
いつもなら朝ごはんを食べ、あいつが学校に行った後くらいに家を出る。
だから正直眠いしこの時間は少し肌寒い。
特段今日がヤル気ラックススーパーリッチだという訳ではない。
・・・・・・・・ただあいつの顔を見たくないだけ。
あいつは私に『死者蘇生』を言わせた。
それもあの原作の声真似を無言の圧で強要された。
私は千年パズルを解いたことも無いし、2重人格でもない。
SFという点では限りなく近いかもしれないが、ショットガンシャッフルに関して特に何とも思わない。
・・・・・・・・この屈辱は忘れないだろう。
チェーンで聖なるバリアを発動してやる。
しかもあいつは私が好きな事しかしてないだとか、嫌いなことから目を逸らすとかなんとか言っていた。
あいつが私の事を知ったかぶりしてくる。
私の事何も知らないくせに。
あの家にだって私の方が先に来たのに。
あいつはまだあの家に来て2週間も経っていないのに。
私は何者でもない『宇宙人』なのに。
あいつに私の事が理解できるはずがなかった。
おかしゃんは私の事を責めたりしない。もちろん怒りもしない。
こうして勝手に外出しても、私が家でだらだらしていても、エンプティカロリーを過剰摂取しても何も言わない。
いつもニコニコと私の方をあの狐の様な目で見つめる。
時折目が合ったら私の方へ駆け寄りぎゅってしてくれた。
豊満なおっぱいの温もりと、柔らかい香りが私の心の隙間を埋めてくれる。
その瞬間は灰燼になっても構わないくらい幸せに思えた。
私のコスチュー・・・・ゴホン、頭と体を作ってくれたのもおかしゃんだし。
ここに来てから私は自由を手に入れた。
格子状に絡められたような息苦しさの中から解放された。
何者にも縛られない、思いのままの生活。
身近に愛を感じ、その愛を独占できた。
それなのに・・・・・・・・それなのに。
あいつは私の手に入れた物を根こそぎ奪っていった。
自由も愛も。
私に向けられていた愛はあいつの方へも分散され、いつしかそのおこぼれすらも来なくなるんじゃないかと考えてしまうと、私の胸は不安で押しつぶされそうになる。
せっかく手に入れた愛。
1度手に入れたものが無くなるのはつらい。
それなら最初から知らない方が良かったとさえ思える。
侵略活動。
実はそれは私の就職に向かう勇往邁進である。
おかしゃんは私にアルバイトをさせてくれない。
理由は分からない。
私のすることをほとんど反対しないおかしゃんが唯一反対した。
その瞬間は私の中のおかしゃんがロンダートしたくらいだ。
朝、侵略活動と偽り畑のババアと交友を深める。
こちらに仕事を回してもらうように頼むのだが、あいつらは私の素顔を見ると途端に少し嫌な顔をする。
そんなに私の青い髪と青い目は怖いだろうか。
おかしゃんもあいつもそんな顔はしないのに。
私もポケットから未来の道具を出せば青くてもいいのかな?
昼には少し遠くの竹林へと向かう。
あそこにいる時は時間を感じない。
いついかなる時に行っても薄暗く、スピリチュアルな気分になる。
細く長い竹が風に揺られ、青臭い香りを充満させる。
この町のコンクリートよりもさらに歩きにくく疲れるその道は私の心を躍らせた。
初心者には危険な場所だが私にとっては垂涎のもの。
出来ることなら毎日行きたいが・・・・・・・・
いかんせん行き帰りに時間がかかるわけで。
しかし竹林には私の職場がある。
今は内容に関して秘密。
まぁ、まだ給料は出ないけど。
夜は学校の徘徊。
というのはもちろん建前。
実際は警備員の仕事をさせてもらうための徘徊。
私は見て覚えるタイプ。
私の乗ってきた円盤型の筐体だって見よう見まねで作った。
・・・・・・・・嘘じゃないもん!ほんとだもん!
無論、仕事はとっくに覚えた。
警備のルートも、職員室のお菓子の場所も。
・・・・・・・・そしてあいつの教室もあいつの席も。
しかし、相変わらず社会というのは堅苦しいもので何度懇願しても働かしてくれることは無かった。
というよりも話にならなかった。
Kevinには私の言葉がほとんど通じていない。
『ここで働かせてください!』
『Ha-Ha!』
『ここで働きたいんです!』
『YAHMAN!』
・・・・・・・・・・・・・・・・ねっ!
そのくせニコニコと、まるで伝わっているかのような反応をしやがる。
何度倒錯しそうになったことか。
だから私は・・・・・・・・英会話本なんて物を買う(おかしゃんに買ってもらった)羽目になった。
「ただいまぁ。」
引き戸を引き森閑した家に声を入れる。
やまびこのように繰り返されることは無いが、ここでは別の言葉が返ってくる。
「おかえりぃぃぃぃぃ!グレイたぁぁぁん!」
眼前に迫ったと思えば、それを視認した刹那にはもう時すでに遅し。
目の前が真っ暗になる。
しかし目の前が真っ暗になったからと言って所持金が奪われるわけでもなく、その圧迫感と温もりは驚きから幸せへと即座に変わり全ての物事が些末なことに思えるほど。
疲れが一気に解け、トリップする。
これこそが1番の安全安心脱法ドラッグなのかもしれない。
効果はアヘンも覚せい剤も大麻も敵わない。
ニコチン、タールの様に体に害は一切ない。
もし宇宙に帰ることがあるとするならばこの麻薬だけは是非とも御一緒したい所存である。
「今日はずいぶん早く活動開始だったのね。なに?早朝限定クエスト的な?」
「ううん。そんなんじゃない。今日はこの地球に私と同じく潜伏している他種族宇宙人との定期交信を。」
「へぇー。なんてしゅぞくなの?」
「え・・・・・・・・えっーと・・・・・・・・『シースルートゥース族』て、的な?」
「的なぁ?」
おかしゃんが訝しむような目でこちらを見始めた。
私の返答があまりにも曖昧模糊だったからだろう。
それもそのはずだ。
なんだよ。『シースルートゥース族』って。
でも・・・・・・・・大いなる自信(虚勢)は時に確信に変わる!
そう、地球を平面だと思い込んでいた古代の学者のように!
「そう!『シースルートゥース族』!特性はブラックホール。あの隙間は何度見ても誘蛾灯のように私の視線を奪う。しかもあいつらは鼻の穴を閉じ、口をイーっとしても息ができるという人間・・・・・・・・宇宙人離れした行為も可能。まさに唯一無二の存在である。まぁワレワレグレイマンとの相性は微妙といった所だが、無論侵略済みだ。私が敵の本拠地に肉薄したからな!」
私は熱弁する。
嘘を嘘と思われないために自信たっぷりに。
嘘を嘘と見破られないためには少しの本当を混ぜることが大切だと聞いたことがある。
だから少しの本当を混ぜた。
背中に伝う汗を無視し、悪人の帳を覗くように。
「す、すごいわね。近所にそんな族がいるなんて。いつか私も会ってみたいわ。」
おかしゃんは感心したように『ほへー』といった感じで頷きながらそう語る。
私の波濤のように揺らめく心が落ち着きを取り戻した瞬間だった。
「おかしゃんにはまだ早い。まずは宇宙CQCから。何もない背中から突如として名状しがたいバールの様な物を取り出す所から。」
うんうんと細い狐の様な瞳をさらに細め頷く。
ミッションコンプリート。
私の嘘がおかしゃんの心に這いよることが成功した。
それじゃ、と言わんばかりに私はコスチューム、もとい下半身を脱ごうとしたその刹那、おかしゃんの口が開く。
「なぁぁぁんだ。良かった。」
「・・・・・・・・へぇ?」
ついつい変な声が漏れた。
なんせおかしゃんの目がさっきよりも細く、口角が下に凸の放物線を描いたからだ。
「グレイちゃんが早朝に出かけたのはてっきりミッキーと気まずくなったからだと思ってたのよねぇ。なぁんだなぁんだ。心配したじゃない。ならこれよろしくね。」
「え・・・・・・・・あ、う・・・・・・・・ん。」
おかしゃんは背中から風呂敷に包まれた包みを出した。
大きさは私の両手にギリギリ収まらないくらい。
・・・・・・・・おかしゃんの背中にそんな物が収納できる空間は見当たらなかった。
どうやら宇宙CQCは既に習得済み。
実は惑星保護機構に所属してたり?
なら私と争う日もそう遠くない未来かもしれない。
「今!『うん』って言ったわね!言質とったり!さぁ、それじゃあよろしくね。ミッキーの忘れ物の配達!」
そう言っておかしゃんは私の胸元にずいっとその包みを預ける。
私にはそれを受け取るしか出来なかった。
宇宙CQC『
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