第931話 えくすとりーむカルタです!

 カルタ名人を名乗る、坂下村田麻呂。

 しかしその勝負は、『一人カルタ』名人ツバメの勝利に終わった。


「ほっほ、なんと見事な腕前じゃ! 気に入ったぞ!」


 村田麻呂はその目を輝かせ、さらなる勝負の誘いをかける。

 すると広い畳の部屋に駆け込んできた女中たちが、ポスターサイズの絵札をまき始めた。


「これは、もしや……」

「武器さえ持ち出さなければ何でもありの、『えくすとりーむカルタ』勝負じゃ!」


 畳の部屋に、あっという間にまかれた大判絵札。

 その光景は意外に雅だ。


「苛烈ゆえに、5枚先取した方が勝ちでおじゃる。さあ、麻呂と遊んでたもれ!」

「次は誰がいく?」

「この広さと、競技の方向性……メイさんが一番活きる感じでしょうか」

「いいのっ?」


 広い空間で行われるカルタに、ワクワクし始めるメイ。

 さっそく一歩前へ出る。


「今回は札を掲げ切ったところで手札となるでおじゃる。準備はいいかの?」

「いつでもおっけーですっ!」

「ならばゆくでおじゃる、『えくすとりーむカルタ』勝負開始じゃ!」

『――――紅葉降る』

「「っ!」」


 赤い絵札を発見したメイと村田麻呂は、同時に走り出す。


「速いです!」


 思わずツバメがあげる声。

 村田麻呂の動きは、思った以上に速い。


「はいっ!」


 先に絵札を取ったのはメイだが、その差は一呼吸分に過ぎなかった。

 すぐさま勝負は二枚目。


『――――富士見える』

「あれだっ!」


 メイは全体を見渡せる位置に立つ戦法で、すぐに『富士』の絵を確認。

 素晴らしい速さで先行する。

 そしてそのまま絵札の前にたどり着いたところで、流れが変わった。


「【空中回転蹴り】でおじゃるううう!」

「うわーっ!?」


 公家とは思えぬ早い跳躍から、放つ回し蹴り。

 メイが慌ててしゃがむと、その場に着地した村田麻呂が足元の絵札に手を伸ばす。


「そういうことならっ!」


『えくすとりーむ』の何たるかを理解したメイは、すぐさま反撃に入る。


「取ったでおじゃる!」


 そして今まさに絵札を掲げる瞬間の、村田麻呂に向けて跳躍。


「【カンガルーキック】!」

「ぬはっ!?」


 大きく後方へよろけたさせたところで、絵札を強奪。


「はいっ! 取りました!」


 そのまま高く掲げる。

 これでまたメイに、1枚加算。


『――――椿落ち』

「あっち!」

「あっちじゃ!」


 すぐに始まる3枚目の読み札。

 今回も先に見つけたメイが駆け出したところで、村田麻呂も動き出す。


「これならどうじゃっ! 【四扇連舞】!」

「本当に何でもありですね!」


 投じられた四つの扇が、弧を描きながらメイを狙う。

 しかしメイは振り返り、これにもすぐさま反応。


「【投石】! 【投石】【投石】【投石】っ!」


 飛んで来る扇を、ことごとく石で落として駆け出す。

 すると二人が絵札に手を突いたタイミングは、なんと同時。

 二人そろって持ち上げたところで、村田麻呂は手を離してスキルエフェクトを輝かせた。


「【大鎌蹴り】じゃあっ!」

「うわわっ!」


 足先を鎌のように曲げて放つ蹴りが、光を描いて迫り来る。

 メイも慌てて手を離すと、放り出された絵札が宙を舞う。

 迫る【大鎌蹴り】をしゃがんでかわしたメイは、すぐさま反撃。


「【キャットパンチ】!」


 しかし村田麻呂も右左と続けざまに突き出された猫パンチを首の移動でかわし、再び【大鎌蹴り】へ。

 メイがさらにこれをかわすと、今度は大きく足を引く。


「【大鎌空刃蹴り】じゃあああっ!」


 集まる風の力。

 蹴り出せば付近に風刃をまき散らす一撃を前に、メイも大きく息を吸う。


「がおおおおおお――――っ!」

「おじゃっ!?」


 スキルを放つ直前に【雄たけび】を喰らった村田麻呂を前に、メイは落ちてきた絵札をキャッチ。


「いただきましたっ!」


 勝負はメイに軍配。

 続けざまに絵札を入手してみせた。


「このままどんどんいっちゃいます!」


 見事な連続勝利に、勢いに乗るメイ。しかし。


『――――ギヤマンの』

「…………えっ?」


 まるで絵の想像がつかない読み札に、思わず悲鳴を上げる。


「ほっほ、知識の差が出たようじゃな!」


 駆け出す村田麻呂に、「あわわ」と慌てるメイ。


「メイさん! ギヤマンはガラス細工です! 絵具で刻んだような模様が入っています!」


 ツバメの一言で、メイの頭にようやく浮かぶイメージ。

 しかしすでに、村田麻呂は絵札の直前だ。


「……メイ、絵札を動かしちゃえば取り合いはゼロからよ」


 そんなレンのボソッとアドバイスに、メイは「そっか!」と手を打った。


「お願い、いーちゃん!」

「おじゃっ!?」


 直後、吹き荒れる風が村田麻呂ごと絵札を吹き飛ばす。

 こうなれば後は、壁際に集まった絵札から探すだけだ。


「【裸足の女神】っ!」


 メイは一気に駆け出して、重なり合った絵札の中から正解を取り出し掲げる。


「はいっ!」


 これで早くも4連勝。

 女中がせっせと絵札を並べ直す中、メイはツバメとレンに「ありがとーっ!」と札をブンブン振って笑う。


『――――吹雪鳴る』


 5枚先取の勝負。

 読みが入った瞬間、即座に絵札を見つける二人。

 追い込まれ始めた村田麻呂は、ここで新たなスキルを発動する。


「【兎走烏飛】」


『時の経過が慌ただしく早いこと』を意味する、そのスキル。


「本当に速いです……っ!」


 ごくごく短距離ではあるが、直線移動スキルとしてはツバメが思わず目を見張るレベル。

 メイのパーフェクト勝利を阻む村田麻呂の最終奥義は、圧倒的だ。

 二人は再び、一枚の絵札をめぐって向かい合う。


「【キャットパンチ】!」


 放たれるメイの拳の一撃を回避。


「【キャットパンチ】!」


 続く一撃も、肩の傾けで避ける。


「【キャットパンチ】からの【カンガルーキック】!」


 そしてパンチからの前蹴りも、雷光のごとき身のこなしで完全回避。


「「「ッ!!」」」


 これには三人、思わず息を飲む。

 そしてそのまま絵札をつかみ、高らかに掲げて――。


「えいっ」


【兎走烏飛】が切れた瞬間、メイは【尾撃】を発動しつつ一回転。

 猫の尾がぺちっと下から叩き上げると、村田麻呂の手を離れた絵札は大きく飛んだ。


「【兎走烏飛】!」

「【裸足の女神】っ!」


 最後は二人、競い合うように走り跳躍。

 ヘッドスライディングのような形で、そのまま絵札に飛びかかる。

 先につかんだのはメイ。

 そのまま一度転がり、女中に振り向く形で絵札を掲げようとするが、村田麻呂が札の反対側をつかんでそれを阻止。

 二人は互いに両手で札をつかんだまま、拮抗。


「こうなってしまった以上、仕方ないでおじゃる……! 【天手力】(アメノタヂカラ)!」


 日本神話では、その怪力で知られる神の名を冠したスキル。

 その発動と同時に、村田麻呂の着物の袖が破け飛び、腕が丸太のように変化する。


「あはははは! 何よあれ!」

「着物がノースリーブに……! 最後にとんでもないスキルをもってきました!」


「オオオジャアアアアアア――――ッ!!」


 その剛腕と獣のような咆哮に、笑うレンと驚くツバメ。

 村田麻呂はそのまま、メイごと強引に絵札を掲げようとするが――。


「はいっ!」

「おじゃっ!?」


 メイの【腕力】の前に、剛腕の村田麻呂は普通に振り上げられた。

 両手で絵札をつかんだままメイの頭上を越え、弧を描く形で宙を舞い、手が離れる。

 そして腰から着地すると、ゴロゴロ転がり襖を突き破っていった。


「……ま、参ったでおじゃる」


 見事5枚連続奪取。

『えくすとりーむカルタ』も、メイの勝利となった。


「や、やはり【腕力】……! 【腕力】は全てを解決します……っ!」


 これにはまもりも、ゴクリとノドを鳴らしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る