第872話 進めナイトメア海賊団!

 目的は仲間たちとの再会。

 そう告げると、骸骨船員たちは船体の横っ腹から突き出たオールで舟をこぎ出した。

 どうやら、ガレー船としての一面もあるようだ。


「なんだか、船内が騒がしくなってきたわね」


 しかし風が出てきたら、船の進行は帆に任せてしまう。

 船内ロビーに集まってきた骸骨船員たちは、楽器を持ち出し鳴らし始めた。

 乾杯を繰り返している船員の木製ジョッキは、中身が空。

 そんな賑やかな光景に、レンも楽しそうに手をあげてみる。

 すると船員たちが、それに合わせてジョッキを掲げた。


「あはははは、なによこれっ」


 海賊らしい陽気さで、進む船。

 レンも空のジョッキを取り、骸骨船員たちの音楽を楽しむ。

 すると突然、一人の骸骨船員がロビーに駆け込んできた。


「どうしたの?」


 船員は大慌てで、甲板の方を指さした。

 念のため、【常闇の眼帯】だけ装備。

 急な緊張感に背中を押されるようにして、レンは甲板に出る。

 そこにいたのは大型の海獣、大ダイオウイカ。

 ここで船と船員にHPゲージが現れた。

 霧の海の中、高々と上がった触手が振り下ろされる。


「っ!」


 レンはこれを回避。

 すると叩かれた船が揺れて、骸骨船員たちが体勢を崩した。

 さらに船のHPが、1割ほど減少。


「やっかいな距離からの攻撃ね、でも! 【魔砲術】【誘導弾】【フレアストライク】!」


 先手は打たれたが、先制したのはレン。

 炎砲弾は大ダイオウイカに直撃して炎を上げる。

 HPは2割弱ほど減少。

 やはり、炎には弱いようだ。

 すると反撃は、触手の三連打。

 叩きつける攻撃を、レンはしっかり引き付けて回避する。

 この間も船のゲージはさらに1割ほど減り、ゆっくり戦っている暇がないことを理解する。

 さらにここで甲板に飛び上がってきたのは、体長1メートル弱ほどの電気クラゲたち。


「小型の相手はお願いっ!」


 船員たちはしっかり、船長レンの命令に合わせて動く。

 手にした剣で、電気クラゲたちに攻撃を仕掛ける。


「くるっ!」


 レンは大ダイオウイカの【放水鉄砲】をかわして杖を構える。


「【魔砲術】【誘導弾】【フレアストライク】!」


 直撃し、上がる炎。


「今よ! 続いて!」


 すぐに指示を出す。

 すると骸骨砲撃手が、大砲を使っての追撃に成功。

 大ダイオウイカのHPを、6割近くのところまで持っていくことに成功した。


「そこ、任せて! 【悪魔の腕】!」


 飛び掛かる電気クラゲたちの【電撃体当たり】に、押される骸骨船員。

 すぐさま魔法で叩き潰し、攻撃を受けようとしていた骸骨船員をフォローしてみせる。

 すると大ダイオウイカが、突然海に沈んだ。

 そこから力強く海面に上がると、起きた波が船を大きく揺らす。


「ッ!!」


 これにはレンもさすがに体勢を崩し、ヒザを突いた。

 生まれた隙、大ダイオウイカは当然攻撃に入る。


「触手の払い……っ!」


【浮遊】でかわせば、レンにダメージはないだろう。

 だが間違いなく船員たちは高いダメージを受け、中には海に落ちる者も出るはずだ。


「そうはさせないわ! 【誘導弾】【フリーズストライク】!」


 ここでレンは、回避を捨てた。

 敵本体ではなく、あえて触手を狙って攻撃を放つ。

 外せば骸骨船員共々、海に弾き落とされる可能性もある危険な賭けだ。しかし。


「やった!」


 レンはこの難しい魔法攻撃を、見事に的中させる。

 触手の進路を変え、払いの一撃をそらすことに成功。

 これによって甲板上の骸骨船員たちは優位を取り、電気クラゲたちを片付けていく。


「……くるっ!」


 しかしそこに迫るのは、同時に放たれた六本の触手。

 船を貫きに来たその一撃に、レンは即座に【ヘクセンナハト】に持ち替え対応。


「【フリーズブラスト】!」


 杖の効果で範囲を広げた氷嵐が、迫る触手を押しとどめた。


「このまま、攻め切る――っ!!」


 HPを3割強まで減少させ、触手を押し返したレン。しかし。


「ッ!!」


 ここに迫るのは、電気クラゲの親玉個体。

 流れを断ち切る登場に、レンが唇を嚙んだところで――。

 リーダー骸骨船員が、【連続突き】で大型クラゲを斬り飛ばした。

 レンが骸骨船員たちを守ったことでやはり、戦いに余裕が生まれていたようだ。


「よくやってくれたわ! 最後は少しオマケさせてもらうわよ! ――――【魔眼開放】っ!」


 深い霧に包まれた船の上でも、その黄金の瞳は煌々と輝く。


「これで終わり! 【フレアバースト】!」


 魔力を上昇させ、さらに【色炎のお守り】を使用して放つ爆炎は、紫色の業火を巻き上げ敵を焼き尽くす。

 紫の火花を散らしながら、沈んでいく大ダイオウイカ。


「ふー、なんとかなったわね」


 レンは杖を、バトンのように回転させながら下ろす。

 船にもHPゲージがあるため、実はなかなか厳しいこのクエスト。

 見事な連携で、船どころか骸骨船員たちも欠けさせることなく完全勝利。

 早くも歓喜の演奏を始める海賊たちと、喜びのハイタッチ。

 楽しい音楽を響かせながら、幽霊海賊船は海を進んでいく。


「どうしよう。このクエスト、すっごく楽しいんだけど……っ!」



   ◆


「「「…………」」」


 たどり着いた島には、すでにツバメとまもり、そして迷子ちゃんがやって来ていた。

 現れた船の威容に、三人は言葉を失う。

 ボロボロの幽霊船から出てきたのはなんと――――レンだった。


「「レンさん!?」」


 その風体に、思わず声が重なるツバメとまもり。

 羽付き海賊帽に眼帯、そして曲剣を水着に提げる姿は、どう見てもやり手の海賊船長。

 しかも骸骨の船員たちを、引き連れる形で降りてきた。


「お待たせ。メイはまだなのね」


 別れた時と雰囲気が違い過ぎて、反応に困るツバメたち。


「紹介するわ、海賊船の仲間たちよ」


 ツバメたちのところまで進んだところで、レンは振り返って船員たちを紹介する。


「……どうしたの?」


 しかし仲間たちと再会したレンを見て、骸骨船員たちは足を止めて敬礼。

 そのまま船に戻って行く。


「ちょっと、どうしたのよ!?」

「……お別れのあいさつではないでしょうか」


 何となく察したツバメがそう言うと、レンは驚きとともに振り返る。


「え!? い、嫌よ! 私はこの船の船長なんだから!」


 しかし骸骨船員リーダーは深く一度頭を下げると、そのまま船員たちと共に船に乗り込んでしまった。

 そして、出航。


「待って! 私はこのまま海賊団を旗揚げするって決めたの!」


 レンは、去っていく幽霊船を追いかけ走り出す。


「ツバメとまもり、メイがいれば世界の海を制覇できるわ! デフォルメしたメイの顔をマークにした海賊旗だってイメージできてるの! 待って! 待ってー!!」

「レンさん! 無理やりついて行ったらどうなるのか気になりますが、このクエストはこれで終わりなんです……っ!」

「お、おちついてください……っ」


 去っていく幽霊船を追いかけようとするレンの腰に、飛びついて止めるツバメとまもり。

 意外な展開に驚く迷子ちゃん。

 ホラー展開が予想された、幽霊船クエスト。

 意外な形で、出会いと別れを満喫したレンなのだった。


「私の……私の海賊団がああああ――――っ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る