第714話 毒食草

 メイたちは再び、方向の定まらないツバメを連れ森を行く。

 進んだ先には、わずかに開けた浅い池。

 そこに密生しているのは、場違いなほどに鮮やかな緑の下草。


「あれが毒食草ね」


 地面からわずかにもれ出す毒液のたまりを、囲むように生える毒食草。

 さっそく近寄ると毒液が泡立ち、水あめのように大きく伸び上がった。


「全身が毒液でできた、スライム系の魔物ってところかしら?」

「……動けそうです」


 ここでようやくツバメが【方向感覚異常】から解放され、安堵の息をついたところで――。


「「「ッ!!」」」


 大きな毒液スライムが突然、爆発四散した。


「これでいきなり毒!?」


 ダメージこそないものの、ほぼ回避不可能な飛沫でメイ以外の三人は皆【猛毒】となる。


「【バンビステップ】!」

「【加速】!」


 即座に形状を戻した毒液スライムに対し、駆け出すメイとツバメ。


「うわわわわっ!!」

「これは!」


 しかし急ブレーキ。

 毒液スライムは、その形をハリネズミのように変化させた。

 そしてそのまま激しく転がって、突撃を仕掛けてくる。


「うわはーっ!」

「なっ!?」


 慌ててこれを、左右に分かれることで回避。


「大きくなーれ!」


 転がりが止まったところで、メイは【密林の巫女】で【蒼樹の白剣】を伸ばして振り払う。

 これを毒液スライムは、『薄っぺらく』なることで回避した。

 レンたちは慌てて【毒消し】を使用し、【猛毒】を解除。

 すると今度は、毒液スライムが厳つい『手』のような形状になった。

【叩きつけスプラッシュ】によって、弾き飛ぶ無数の毒液。


「また毒ですか……っ!」


 付近一帯に弾け飛んだ毒液の飛沫に、回避の余地はなし。

 まもりは盾によって防御に成功したが、こちらも足元が毒液に浸かっている以上、遠くないうちに再発するだろう。

 続く攻撃は『つかみ』

 手の形のまま、前に前にと飛び掛かってくる。

 しかし相手はメイ。


「よっ、ほっ、それっ!」


 敵の三連続飛び掛かりに対して、きっちり三度のバックステップでかわす。

 この隙にレンとツバメは【毒消し】で【猛毒】を回復。

 すると毒液スライムは『手』の状態のまま、手刀で溜まった毒だまりを払う。

【払いスプラッシュ】によって広がる毒液は、再びレンとツバメを【猛毒】に。


「ああもうっ!」

「またまた毒ですか!」


 しかしこの一撃も、状態異常耐性を持ったメイに意味はなし。


「いまだーっ! 【フルスイング】!」


 駆け抜けたメイの振り降ろしが、派手なエフェクトと共に毒液スライムを叩き――。


「うわああああーっ!」


 バイーンと弾かれて、メイは空中で後方回転。

 綺麗な着地をするも、与えたダメージはゼロ。


「しかも物理耐性付きの防御アリ……やっかいね!」


 液状のため、打撃への耐性が非常に高いスライム。

 さらに形状変化による攻守と、短時間で何度もプレイヤーを【猛毒】にする範囲攻撃。

【劇毒】ほどではないが、とにかくやっかいだ。


「もう少しだけ時間をちょうだい! 【魔力低下】の効果がそろそろ消えるわ!」


 しかしここでレンにかけられた【魔力低下】の効果が切れ始める。


「【加速】」


 駆け出したツバメに対し、毒液スライムは飛び掛かりでカウンターを取りにきた。


「【スライディング】!」


 しかしこれを『下』をすり抜けることで回避。

 振り返る両者。


「【瞬剣殺】!」


 いくつもの空刃を受けたスライムは、形をゆがませるがダメージはほぼなし。

 しかし指定通り、ツバメは時間を稼いでみせた。

 すると毒液スライムは、身体の色を変色させ黄色くなる。


「「「ッ!?」」」


 再びの爆発四散は、黄色の液体をまき散らす。

 ツバメは【猛毒】に加えて【麻痺】まで喰らうことになった。


「【天雲の盾】!」


 しかしこの戦いのカギとなるレンはまもりが盾防御で守り、見事に時間を稼ぎ切った。


「【魔力低下】の効果が切れたわ!」

「まもりちゃんないすーっ! いきますっ!」


 メイは拳を突き上げ走り出す。


「がおおおおおお――――っ!!」


 そのまま【雄たけび】で、毒スライムを硬直に追い込んだ。


「【フレアバースト】!」


 即座にレンが魔法で続き、三割を超えるダメージを叩き出す。


「【投擲】!」


 ここで【痺れ治し】を使ったツバメが、【雷ブレード】で毒液スライムを再び硬直させる。


「もう一回! 【フレアバースト】!」


 二発目の爆炎に転がるスライム。

 体勢を立て直し怒涛の勢いで突き進むと、剣山のように変化する攻撃でレンを狙う。


「【地壁の盾】!」


 これを弾かれると、続くのは破れかぶれの特攻だ。


「まもり、もう一回お願い!」

「はひっ! 【地壁の盾】っ!」


 しかしこれも、しっかりとまもりが防御。


「今度は魔法防御をお願いっ!」

「【天雲の盾】!」


 そして魔法系の攻撃を防ぐスキルを再使用したところで、レンは手をまもりの背中に手を伸ばす。


「これで最後よ! 【ペネトレーション】【フレアバースト】!」


 三度目の爆炎はまもりを抜ける形で放たれ、そのまま毒液スライムを焼き尽くす。


「やったー!」


 見事な勝利。

 集まった三人は、いつも通りのハイタッチ。


「まもりちゃんもないすーっ!」

「ッ!?」


 そして一歩引いてるまもりに、メイはそのまま抱き着いた。

 まもりは「ああああありがとうございますっ」と、顔から煙を上げるのだった。



   ◆



 無事【毒食草】を摘んだメイたちは、植物学者のもとに帰ってきた。


「お見事です。これだけあれば、ここのプランターで改良を加え増加した【毒食草の種】を作成することが可能になるでしょう」

「やりましたね」

「次はエルフのところに行く感じでいいかしら」


 目的は大地の汚れを清める【清地薬】で、緑の毒を消すことだ。


「場所は北部山林地帯ですが、エルフはまず『見つける』ところからになるので、くれぐれも無理はしないようにしてくださいね」


 さっそく【毒食草】の栽培を始める植物学者。

 メイたちは続けてエルフ探しに動く。


「先に、お肉を焼いておきましょう」

「それがいいわね」

「そ、そうだね……」


 メイは骨付き肉と台座を取り出すと、焼き加減を見ながら骨の部分をグルグル回していく。

 植物学者宅前で行っているせいか、猫たちも興味深そうに寄ってくる。


「やっぱりどう見ても原始人だよーっ!」

「「「…………」」」


 肉自体が大きいせいか、肉焼き機と一緒に並ぶともう原始時代にしか見えない。

 街はずれとはいえ一応、街行くプレイヤーが『肉焼きメイちゃん』の姿を見つけないよう、並んで壁になる三人。

 その姿はなんだかおかしく、またも頬を緩めてしまうまもりなのだった。


「うまく焼けたよー!」


 そしてメイは見事に【原始肉】を追加で焼き上げ、今度こそ北部山林地帯へと向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る