第713話 状態異常祭
「どう? 【方向感覚異常】は治りそう?」
「まだ視界がめちゃくちゃに揺れています」
レンの肩を借りながら、状態異常の森を進むツバメ。
暗い森を、辺りに気を使いながら進む四人。
先頭はメイ、最後尾はまもりという隊列だ。
「【魔力低下】もすぐには治らないみたいだし、敵の動きには気をつけたいわね」
ゲームによってまちまちの『状態異常の重複』だが、『星屑』ではそこそこある。
よって痺れて動けないのに毒を喰らって、HPが減少していくなんていうこともありうる。
そのため『状態異常の森』は、恐ろしい死の区域と言えるだろう。
「あれ?」
メイたちが道なき道を進んで行くと、道端に落ちている何かが見えた。
「なんでしょう」
ツバメが目を細める。
そこにいたのは、伏した一羽のウサギだった。
「わあ、大丈夫ーっ!?」
倒れ込んだまま震えるウサギのもとに、慌てて駆けつけるメイ。
そしてそのままウサギのもとに駆けつけしゃがんだところで、突然謎の霧に包まれた。
「うわはーっ!?」
「まさかあのウサギ、プレイヤーを釣るための罠!?」
足元から吹きつけられたのは、麻痺の霧。
ここからさらに【猛毒】のトゲを持つ根が肌を切り、破裂した芽から【フラつき】を引き起こす粉末までかけられてしまう。
そしてここに出てくるのは、状態異常に苦しむプレイヤーを潰すための魔獣ポイズンリザード。
もしもパーティでウサギを助けに向かっていれば、酷い苦戦もしくは無抵抗での全滅となる最悪の事態だ。
ポイズンリザードは連続状態異常攻撃を喰らったばかりのメイに、毒トゲ付きの尾を振り回してくる。
「【ラビットジャンプ】!」
しかし今、メイには全ての状態異常攻撃が通じない。
普通であれば三つの状態異常をまとめて喰らい、最悪の窮地になるはずが、いつものままだ。
体高1メートル強、体長3メートル。
中型の毒トカゲは飛び掛かりからの爪攻撃を放つが、これをメイは軽くかわしてみせる。
すると毒トカゲは、喰らいつきから再び尾撃に移行。
「もう一回! 【ラビットジャンプ】!」
これを大縄跳びのようにかわしたメイは、トカゲの頭を蹴って後方へのバク宙で着地。
毒トカゲは毒霧を吐き出し間を取ろうとするが、なんとメイはそのまま走り出して毒霧の中を駆け抜ける。
そして敵の懐へ。
「【フルスイング】だああああーっ!」
本来であれば、足止めになるはずの毒霧の中を走る。
そんな無謀への対応はできておらず、ポイズンリザードは一撃のもとに消し飛ばされた。
この難しいマップも、野生の力で免疫力を大きく上げたメイには問題なさそうだ。
一方ウサギをエサに状態異常攻撃を叩き込んだ植物は、ここで狙いをレンたちに変える。
伸ばした猛毒持ちの根が、地面から伸び上がって迫りくる。
「まもり、お願い」
やはりまだ、自分から前に出るなどおこがましいという思いのまもりにかける声。
「は、ははははひっ! 【クイックガード】【地壁の盾】ッ!」
大慌てしているのに、その視線はしっかり五本全ての毒根を捉えている。
二度の防御で、見事に攻撃を防御。
「【天雲の盾】!」
さらに痺れの実の炸裂からも、ツバメとレンを完璧に守り抜く。
「ありがとう! 【低空高速飛行】!」
レンは一気に加速し、地上に姿を現した根の塊のもとへ向かう。
「【スタッフストライク】! からの【スタッフストライク】!」
【銀閃の杖】の振り払いを叩き込んで敵の体勢を崩し、そのまま振り降ろしを決める。
「【連続投擲】!」
ここでツバメの投じたブレードは、しっかり全て明後日の方向へ。
「まもりさん、お願いします」
「は、はいっ! 【シールドバッシュ】!」
「「ッ!?」」
走ってきたまもりが、叩きつける右の盾。
【耐久】が飛び抜けて高いまもりの一撃が、暴風を巻き起こす。
盾での攻撃は火力も侮れないが、何より『弾く』効果が非常に高い。
今までに見たこともないような【シールドバッシュ】が、敵を派手にバウンドさせた。
敵は地に潜ったままのたくさんの根を、引きちぎられて地を転がる。
「ここだわ! 【誘導弾】【連続魔法】【フレアアロー】!」
もちろんこの隙を逃すレンではない。
ここで放つのは、炎の矢。
「「「…………」」」
いつもの感じで放ってはみたものの、見た目は大きく減衰して『箸』くらい。
根の塊に直撃した炎の弱さに、思わず言葉を失う。
「メイ……お願いしていい?」
「おまかせくださいっ! 【バンビステップ】!」
一方、元気いっぱいのメイ。
接近に気づいた根の塊が、五本の根を一気に伸ばす。
しかし植物が放つ連続刺突など、見慣れた攻撃だ。
右に左にわずかな足の運びでこれをかわしつつ進み、最後の一撃は首の傾けで回避。
一度たりとも足を止めることなく、敵の前へ。
「【フルスイング】!」
そしてそのまま粉々に消し飛ばした。
すると痺れが解けたのか、倒れていたウサギは慌てて逃げ出していく。
「動物を使ってプレイヤー釣りをする魔物って……とんでもないわね。ありがとうまもり、助かったわ。やっぱり貴方の盾スキルはいい軸になっているわね」
「い、いえいえ私なんかっ!」
「メイもありがとう。状態異常無効は最高の活き方をしてるわ」
「うんっ」
いつもの感じで笑い合う二人。
「ですが、やはり状態異常はあなどれませんね」
「ツバメ、私はこっちよ」
【方向感覚異常】で身体が完全に明後日の方に向かっているツバメに、レンが呼びかける。
「そしてまもりさんとメイさんの戦いも、見事としか言いようがありませんでした」
「ツバメちゃん、こっちこっち」
あらためて振り返った先にも、誰もいない。
こんな会話にはずっと緊張下にあるまもりも、さすがに頬を緩めたのだった。
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