第695話 やくそく
「はあーっ、楽しかったぁ」
夕食後、再びフェスを歩き回って遊んださつきたち。
つばめ兄のお土産スイーツを食べ、寝る準備も完了。
三人、さつきの部屋でくつろいでいた。
「……お母さん、本当にうれしそうだったなぁ」
母やよいの言動に、そんな一面が垣間見えていたことを思い出す。
「本当にどこに行っても、歓迎してもらえたわね」
「はい。私の場合は常に個人行動の傾向があったので、余計にだと思います」
「ツバメは一緒にいると面白いのに、なかなか気づかれてこなかったのね」
「面白い……のでしょうか」
「8回連続で泥沼に飛び込むアサシンが、面白くないわけないじゃない」
つばめは自覚していないようだが、さつきもこれにはこくこくとうなずく。
「家族が喜んでいるのは、私が楽しそうにしているところを見て。やはり心配をかけていたのですね。姿の見えない私を見つけてくれたメイさんには感謝です」
「【隠密】中のツバメを見つけたのもメイの【聴覚向上】があってのことだし、私の時もオレンジの匂いを追ってきたんでしょう」
「そう考えると、メイさんの野生力のおかげなのですね」
「うっ! それはその通りです……っ!」
野生のおかげで今がある。
そんな事実に、つい感謝してしまうさつき。
「本当、あの時ラフテリアの隅っこにいなかったら……今ごろ私はどうしてたのかしら」
「『星屑』を続けること、選んでよかった!」
様々な理由で一度は大きなショックを受けたものの、『星屑』を続けて良かった。
さつきと可憐は笑い合う。
「まあ、楽しすぎて『出かけてもすぐ帰宅』『家でゲームしてる時間が一番楽しい』の流れで、買い物にまるで行けてないっていう問題もあるんだけどね」
もはや私服と共用になっている制服を見て、苦笑い。
「それでもそんな黒歴史が今につながってると考えると、私にとっては大事なことでもあるのよね……まあそれはそれとして、闇の使徒を超える者みたいなイメージは何とかしないといけないけど!」
「わたしもですっ!」
あとはこのイメージさえ変わってくれればと、燃える二人。
「私も親子クマさんのクエストを見つけられて、本当に良かったです……」
つばめも出会いのきっかけになったクエストを思い出し、噛みしめるようにつぶやいた。
「こんなに楽しかったフェスも、いよいよ明日で終わりなんだね。思い出作りに大きなクエストとかに参加したいなぁ……」
「それならレイド戦はどう? かなり大きなものが最後にあるの。フェスを締めるクエストっていう事で参加者も多いし、毎年かなりの強敵みたいなのよ」
「おおーっ! いいとおもいますっ!」
「フェス中はスキルのクールタイムがクエストをまたがないし、最後のアトラクションだから全開でいけそうよ」
「それは楽しみだねっ!」
「いいですね。最後、全力でいきましょう!」
三人は最後に、大型クエストに参加することでフェスの締めにしようと約束した。
「確かメイはその前に個人で請け負ったアトラクションがあるから、それが終わってから集まって参加するっていう形になりそうね」
「レンちゃんたちとは、現地で待ち合わせかな!」
「そうしましょうか」
「はい」
「それじゃ、明日に備えてそろそろ寝ましょう」
「良いのですか? 私がベッドを使ってしまって」
「もちろんだよーっ」
先日は可憐、今夜はつばめ。
さつきはベッドを譲ることにしていた。
「そ、それでは失礼いたします」
「うれしそうね」
「そ、そんなことは……っ!」
そう言いながら、さつきのベッドに入るつばめ。
「…………」
即堪能。
さつきが電気を消すと、三人静かに目を閉じる。
「今日も楽しかったね」
「ええ、明日も暴れてやりましょう」
「もちろんです」
「うんっ、明日も楽しみだーっ!」
◆
太陽の光を感じて目を開ける。
「……ッ!?」
そしてつばめは息を飲んだ。
目の前にあるのは、眠るさつきの顔。
一度先に起きたさつきは各部屋の雨戸を開けて戻ってきたところで、いつも通りベッドに倒れ込んだようだ。
さつきはぬいぐるみを抱きしめるような感覚で、つばめを抱きしめる。
「ッ!!」
起こしてしまったら、この時間が終わる。
いよいよ呼吸を最小限にして、アサシンや忍者のように動きを止めるつばめ。
「……ん?」
「ッ!?」
さつき、目を開く。
「えへへ」
そして、笑う。
「fン3位F部位pmxkふぉmwf!?」
間近で向けられた無防備な笑顔に、いよいよ訳が分からなくなる。
「ふあーあ」
そんな中、起き出したのは可憐。
グッと伸びをして何度か瞬きをした後、さつきが布団で寝ていないことに気づいて視線をベッドへ。
そこには再び目を閉じたさつきと、耳を赤くしながら呼吸を必死に止めているつばめの姿。
「……なにやってんの?」
「す、すみません。こんなに運を立て続けてに使ってしまって、私のスティールはもう……一生成功しないかもしれません……っ!」
「なんでよ」
朝のまばゆい光の中、とりあえず寝起きのツッコミを入れる可憐なのだった。
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