第694話 一緒に夕食を作ります!

「何を作りましょうか」


 サバイバルレースを終えた後、現実に戻ってきたさつきたちは相談を始めた。

 母やよいが父の仕事の手伝いに行ったため、今夜は三人で夕食作りをすることになっている。


「何ができるかな」


 冷蔵庫を開き、中にあるもので何かできないかと思案するさつき。


「これだったらシンプルですがパスタにスープ、サラダなんかがいいかもしれませんね」


 すると中身を確認したつばめが、そんな提案をした。


「いいじゃない」

「いいと思いますっ」

「飲み物には、少しおしゃれなグラスでカフェオレを入れるというのはいかがでしょうか」

「すっごくいいと思いますっ!」


 素敵なお姉さんの夕食を想像して、目を輝かせるさつき。

 青山家のキッチンは広く、洗った食器を置いておくカゴをどかせば、まな板用スペースが二面取れる。

 さっそくつばめはレシピをササッと書いて、パスタソース作りをさつきたちに任せる。

 つばめが作るのは、ほうれん草とサーモンのクリームスープだ。

 ほうれんそうを熱湯で1分半茹でて冷水にとり、水気をよく絞って切る。

 そして鮭の切り身を2cm角に切って塩こしょうをふり、薄力粉でをまぶしていく。


「わあ……つばめちゃん、手際がいいねぇ」

「本当ね。大したものだわ」

「い、いえ、手伝いをすることが多かったので」


 感嘆する二人に少し照れながら、つばめは調理を続ける。

 誰かと遊ぶこと自体が少なかったつばめは手伝いをすることが多く、それが今こうして役に立っていることに少しよろこびながら。


「メイも上手ね」


 可憐はややおっかなビックリ。

 そんな中、上手にトマトを切るさつきの動きに目を留める。


「調理実習の時も、真剣だったからね!」


 補習にでもなろうものなら、村が危ない。

 全て真剣だったさつきの包丁さばきは、そのおかげでレベルアップしたのだった。


「あっ」


 前衛組の見事な包丁さばき。

 さつきはミートソース作りのためにトマトをカットしていたが、不意に思い出す。


「粉チーズがないかもっ」


 冷蔵庫に残っていたものは、中身がごくわずか。

 これでは三人分とはいかないだろう。


「そういう事なら私が買いに行ってくるわ。家の事を知るメイと、料理のできるツバメが残る方がいいでしょう?」


 サラダ用の野菜を洗っていた可憐は、そう言って買い出しに名乗り出た。


「それに往復の時間を考えると、出るのは早い方がいいものね」

「よろしくお願いします」

「お願いしますっ!」


 二人に見送られて、可憐はすぐに青山家を出る。


「……あれ?」


 すると駅近くのスーパーまで向かうつもりが、途中の通りに真新しいコンビニがあるのを発見。

 買い物をすぐに済ませることに成功した。


「これは運が良かったわね」


 徒歩わずか三分のところで粉チーズを手に入れた可憐は、弾む足取りで青山家へ戻る。

 そして廊下を進み、キッチンに入ろうとすると――。


「レンちゃんは、いつも色々決めてくれてすごいねぇ」

「本当ですね。とても頼りになります」

「ツバメちゃんと一緒に前で敵の攻撃を決めて、振り返った時に見えるレンちゃんが大好きなんだー」

「分かります。いつもここというところで決めてくれる魔法がカッコいいです」


 そう言って二人が知る、連携の最後になる魔法を放つレンのポーズを取るさつきとつばめ。

 足を前後に開き、杖を突き出し放つ魔法。

 その光景は前衛の二人がよく見る光景だ。


「…………」


 可憐、まさかの展開にうっかり足を止めてしまう。


「7年も『星屑』で遊んでたのにゲームの常識を知らないから、レンちゃんが教えてくれて助かるよー」

「レンさんは面倒見も良いですね」

「こんなに楽しく遊べてるのは、レンちゃんあってこそだよ」

「まったくです」


 そう言ってほほ笑むさつきに、つばめもうなずく。

 なんだか褒められ過ぎていて、いよいよ戻りづらい空気だ。


「私たちもいつか、レンさんのように黒の一式でパーティを組みたいですね」

「うんうんっ! きっとカッコよくなるね!」

「それだけはやめておきなさ――――いっ!!」


 しかしさすがにこの流れだけだけは絶対に止めなければならない可憐、力強くキッチンに突入。


「また新たな闇の使徒が結成されたと思われるでしょう!」

「真・闇の使徒ですね」

「カッコいいかも!」

「だからいらないっての!」


 即座に二人の『使徒化』を阻止したのだった。


「ほら、これでいいのよね」


 可憐は大きく息を吐くと、買ってきた粉チーズを取り出す。


「はい、ありがとうございます」

「ありがとーっ」


 こうして三人は、食事作りに戻る。


「……レンちゃん」

「なに?」

「なんか、顔が赤い?」

「本当です。大丈夫ですか?」

「だ、だ、大丈夫よ! 早く帰ろうと思って走ったから、きっとそれが原因ね! そうに違いないわ!」

「そっか! それならお水を飲んだ方がいいかもっ」

「気づかずに申し訳ありませんでした」


 そう言ってさっそく、冷たい水を差し出す。


「そうね、一杯いただこうかしらげふぐふごふーっ!」

「わあ! レンちゃん大丈夫ー!?」


 何ともない感を出すために、余裕を見せながら飲んだ水でむせ返る可憐の背中を、さするつばめ。

 さつきも心配そうにのぞき込む。


「……あははははっ」


 すると可憐は、意外にも笑い出した。


「レンちゃん……?」

「突然笑い出すこの感じ、これはもしや……」

「もしや?」

「新たな人格が目覚めたのでは……っ」

「どんなタイミングで目覚めさせてるのよ!」


 予想外の言葉に、可憐はしっかりとツッコミを入れる。


「こんな姿、一昔前だったら絶対に見られるべきでない恥ずかしいものって思ってたわね」


 今の自分の状況と首を傾げる二人を見て、思わず笑ってしまう。


「そうだ。せっかくだし作った料理と一緒に写真も撮りましょうか」

「いいとおもいますっ!」

「はいっ!」


 青山家は食器も色どり鮮やかなものが多く、できた料理はどれも見事に大成功。

 三人はそのまま食卓へ。


「とても上手にできていますね」

「うんっ」

「ていうかつばめ、このスープをあんなに簡単そうに作っちゃうのね。やるじゃない」

「お恥ずかしい限りです」

「それでは」


 そう言ってメイは、両手を元気に合わせる。


「「「いただきまーす!」」」


 記念写真を撮った三人はこうして、楽しい夕食の時間を過ごすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る