第675話 運営の決断

「……大丈夫でしょうか?」


 星屑無双を担当する運営担当が、不安そうにつぶやく。


「何言ってんだ、この予定数なら問題ないだろ。7年で一度も到達してないんだから」

「参加人数は去年より少ないみたいだしね」

「敵の生成速度を上げると、プレイヤーが倒されて減っちゃうこともあるだろ。そうなると冷めちゃうしさぁ」

「でも……神槍ちゃんや聖剣ちゃんがきてますよ」

「すぐ準備し直そう」

「生成速度は三段階ほど上げて、様子を見つつさらに向上していく形にするぞ」

「そもそも神槍や聖剣ちゃんも来たのは、メイちゃんが参加してるからです」

「敵数から目を離すなああああ! 生成は最高速も視野にいれておくんだーッ!!」


 始まる北部草原での戦い。

 現れた無数の敵は、魔獣もいれば兵士も悪魔もいる。

 種族関係なしの、入り乱れ状態だ。


「それじゃあ先手を打たせてもらおうかしら」

「おねがいしますっ!」


 レンは【ヘクセンナハト】を取り出すと、迫り来る敵の大群に向ける。


「【魔砲術】【フレアバースト】!」

「「「ッ!?」」」


 杖による魔法範囲向上で、敵の一団が業火に吹き飛ばされ分断。


「【裂空一矢】【バーストアロー】!」


 爆炎の余波に止まる軍団を、さらにローランの遠距離『爆裂矢』で消し飛ばして、一気に敵数を減らす。


「レンちゃん、どうしたのその攻撃範囲?」

「新しい装備のおかげね」

「すごいね、このクエストにもってこいだよ!」


 新たな攻撃方法に驚くローラン。

 そんな二人に、飛び掛かる鳥型の魔獣。


「【ライトニングスラスト】!」


 次の瞬間には、白夜のレイピアが突き刺さっていた。


「お二人とも、よそ見は禁物ですわよ」


 三人は大きな部隊を見つけては魔法と矢の連携で分断し、レイピアでとどめを刺していく。


「すっげー! 攻めろ攻めろー!」


 こうなれば、前衛部隊も戦いやすくなる。

 散り散りに分かれた敵に対し、優位に戦うことが可能だ。


「【雷破斬】!」

「【暴風突き】!」

「【バスターシェル】!」


 近接組が斧で敵を叩き切り、槍で吹き飛ばす。

 HPを減らした個体たちは、放たれた魔法弾が一斉に炸裂するショットガンのようなスキルで一網打尽。


「いいぞいいぞ! ガンガン潰せーっ!」

「使徒長ちゃんの『崩し』はやっぱり優秀だな!」

「お、おいっ!」


 勢いづく前衛組。

 しかしそこに、ランダムゆえに現れる中ボス級モンスター。

 3メートルに及ぶ巨体に武骨な鉄剣を持ったオーガの【振り回し】は、暴風を起こしプレイヤーたちから転倒を奪う。


「「「うおおおっ!?」」」

「マリーカさん、お願いします! 【加速】【リブースト】!」

「……承った」


 倒れたプレイヤーに、オーガの鉄剣が降り下ろされようとしたところに駆け込んできたツバメ。

 華麗な短剣の二連撃でターゲットを奪い、鉄剣の振り払いをかわす。

 さらにもう一発斬撃を入れたところで、倒れていたプレイヤーたちが立ち上がって距離を取った。


「グオオオオオオ――――ッ!!」

「【スライディング】!」


 オーガ渾身の鉄剣振り降ろしを、ツバメは足元を潜って後方へ抜け回避。


「……【霊鳥乱舞】」


 すると隙だらけのオーガに、魔力で形作られた無数の鳥が突撃して爆散。

 一気にHPを削り切った。

 ツバメは剣を全力で振り下ろしたオーガの身体が盾となり、霊鳥に巻き込まれることなく無傷。

 ぺこりと頭を下げるツバメに、マリーカは無表情のままつぶやく。


「……やはり私には、ツバメのような可愛さが必要……ッ!?」

「お、おいっ!」


 そんなおとぼけ魔導士の背後に突然現れた巨大なモンスターは、グランワーム。

 それは地面を泳ぎ、その大きな口でプレイヤーを飲み込む恐ろしいモンスター。

 虚を突かれた形だが、ツバメもマリーカも慌てない。


「【アクセルスウィング】!」


 接近と同時に全力で振り上げた大型ハンマーが、グランワームの下あごを強烈に打ち付ける。


「【アクセルスウィング】【キャンセル】!」


 移動攻撃を強制停止することでさらに距離を詰めると、金糸雀は高々とハンマーを振り上げた。


「このままいくぜーッ!! 【ギガントハンマー】!!」


 炸裂する一撃は地を割り、天を突く派手なエネルギーエフェクトを噴き上げる。

 この一撃で、敵HPは残り1割強。


「今だ!【アイスジャベリン】!」

「【三連突衝】!」

「【クレイモアバスター】!」


 体勢を大きく崩した大物にすぐさま、参加者たちが連携を叩き込み勝利。


「これこれ! メイちゃんパーティの協力はやっぱりこれだよな!」

「今回も見事にメイちゃんたちと同じクエストに参加することに成功できた、俺のマウントが火を噴くぜ」


 決まった派手な連携に、拳を突き上げる参加者たち。

 トッププレイヤーと共に大物に勝利する気分は、やはり最高だ。

 こうして戦いは、盛り上がりを見せていく。


「【ペガサス】!」


【天馬靴】から生える光の翼で、地上を滑るような動きで突き進む聖騎士少女。

 敵陣の真ん中に特攻し、そのまま手にした【エクスブレード】で豪快に一回転。


「【ホーリーロール】!」


 そこからさらに連続で二回転。

 聖なる光の輪が荒々しく広がり、魔物の群れをまとめて消し飛ばす。


「むはははは! これが聖騎士の力だ!」

「【ソニックドライブ】!」


 剣を掲げて決めるアルトリッテ。

 そこに高速移動スキルで飛び込んできたのはグラム。


「【斬空閃】!」


 目にも止まらぬ踏み込みから放つ薙ぎ払いが、敵陣に穴を開ける。


「どうやらなかなかやるようだが、プレイヤー軍最終兵器グラム・クインロードの前ではそれも前座にすぎぬ! 【ソニックドライブ】【グングニル】!」


 跳躍から放つは、重い破裂音を鳴り響かせての投擲。

 地面に突き刺さり、走る閃光。

 巻き起こった盛大な爆発が、暴風を巻き起こす。

 戻ってきた槍を払うように受け取ったグラムは、「ふん」と決めてみせる。


「はっはっは! 雑魚が何万いようと関係ない!」

「それはこちらとて同じこと! 聖騎士アルトリッテの実力はこんなものではないぞ!」


「どうだ?」とばかりにドヤ顔を披露してきたグラムに、アルトリッテも腕を組み不敵な笑みで対抗。


「うおおおおっ!? ここ敵多すぎだろっ!」


 聞こえてきた声に、さっそくグラムが動き出す。


「ならば次は神槍とメイの連携の恐ろしさを見せてやる! 『星屑』を震撼させた『最強のコンビネーション』がどういうものかを教えてやろう! いくぞメイ!」

「りょうかいですっ! 【バンビステップ】!」

「【ソニックドライブ】!」


 駆け出したメイとグラムは、そのまま大型の中ボスと魔獣が密集するポイントを見つけそこへ特攻。


「【フルスイング】!」


 一瞬で懐へ踏み込んだメイが、一撃でオークキングを消し飛ばす。


「【クインビー・アサルト】!」


 そんなメイを追い越すようにして飛び出してきたのはグラム。

 砂煙を上げながら放つシンプルな突きは、先端から放たれた閃光と共に猛烈な衝撃を放つ。


「「「おおおおおおっ!!」」」


 消し飛ぶ敵部隊。

 あがる歓声に、グラムは余裕の笑みを見せる。

 だがこうなれば、アルトリッテも負けてはいられない。


「メイ! 今度はこちらも頼むぞ! 共に敵陣を打ち破ってみせようではないか! 【ペガサス】!」

「りょうかいですっ! 【バンビステップ】!」


 アルトリッテがオーガを斬り倒し、できた道に駆け込んだメイがゴブリンロードを斬り飛ばす。

 さらにアルトリッテが巨狼を斬り飛ばし、メイが怪鳥の飛び掛かりを消し飛ばしたところで、再びアルトリッテが剣を掲げる。


「解放剣技、【エクスクルセイド】!」


 黄金の輝きをまといながら、聖なる光刃を振り下ろす。

 地面から突き上がった輝きが大きな爆発を巻き起こしたところで、さらにメイが続く。


「【装備変更】からの……【ソードバッシュ】だああああ――っ!」


 付近にいた魔物の群れが二人のスキルで消し飛び、草原に大きなクレーターが生まれた。


「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」


 再びあがる歓声。

 一撃ごとに、冗談のような数のモンスターたちが粒子になって消えていく。

 その勢いは、星屑史上でも類を見ないほどだ。そして。


「ここここれはマズいですよ!」


 イベントクエストの状況をモニターしている運営のお姉さんが、慌てて声を上げる。


「この生成の速さでも、敵の減りの方が早いです!」

「もっと生成速度を上げて、とにかく出し続けるんだ!」

「なあ、これ……記録が出るんじゃないか?」

「……録画は?」

「してあります」


 お姉さんが短く答えると、この『星屑無双』の現場代表は大きくうなずいた。


「よし……それなら狙ってみるか! ワールドレコードの更新を! 最高生成でいくぞ!」

「いいですね! いきましょう!」


 メイたちを中心にすることで参加プレイヤーに余裕ができ、それによって自分の集中すべきことも分かる。

 敵の数は、驚異的な速さで減っていく。

 見事な連携を見せる参加者たちを前に、運営の面々は大きく一度うなずき合った。

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