第663話 星屑フェス始まりですっ!
「賑やかだねー!」
メイはワクワクに足取りが軽くなり、尻尾もぴょこぴょこ揺れ動く。
港町ラフテリアは、いつも以上の大きな賑わいを見せていた。
わずかに北上したところに広がるなだらかな平原が、今回の星屑フェスのメインステージなっているからだ。
「ラフテリアが最寄り駅みたいな存在になるから、人通りも増える。そうなれば商人なんかは商機求めて集まってくる。そんな感じね」
「三年ほど前にはフェスのクエストにとあるアイテムが有効と分かり、価格が高騰したなんてこともありましたね」
「そうなんだー! ワクワクしちゃうよー!」
露店を開いている商人が多数見られる中、メイたちはメイン通りを進んでいく。
各所に張られたポスターや、今回のフェスのイメージカラーである明るい緑の衣装を身に付けたNPCも、雰囲気を盛り上げている。
ラフテリアはいつも通りの、気持ち良い晴天。
間違いなくフェス日和だ。
そして続く北部には、ゴルフ場を思わせるなだらかな平原が広がっている。
「あっメイちゃんだ!」
「メイですっ!」
詰めかけたプレイヤーたちに手を振られ、元気に振り返す。
それを見て「メイちゃんたちだ!」と、さらに盛り上がる参加者たち。
始まるフェスにメイたちのパーティが見えたとなれば、自然と熱もあがっていく。
「ドキドキしてきたねーっ」
「本当ね」
「オープニングからメインステージにいることなんて今までなかったので、なんだか不思議です」
三人、自分たちの位置取りを確認するように付近を見渡しながら笑い合う。
そして大勢のプレイヤーたちが今や遅しとそわそわし出した頃、突然空が深い紺色に変わった。
「おおっ! 始まったぞ!」
草原の中央に現れた魔法陣。
生まれた金色の輝きからゆっくりと浮き上がってくるのは、黒のローブをまとった怪しい魔導士。
「なんだあいつ?」
「どこから現れたんだ?」
突然参加者たちの前に現れた謎の魔導士に、困惑の声が上がり始める。
「……祭と聞いて来てみたが、正解だったな。これだけの人間がいれば、我が神の復活も容易であろう……フフフフフ」
魔導士の不吉な笑いと共に、一気に広がっていく魔法陣。
どこか禍々しい雰囲気を感じさせる光が、その輝きを強めていく。
「お、おい、なんだこれっ?」
「光に触れると、動けなくなるぞ!」
「マジじゃねーか! どうなってんだ!?」
巨大な蜘蛛の巣のように広がった魔法陣は、集まっていたプレイヤーたちの脚を縫い付けたかのように留める。
これまでのフェスにはなかった予想外の展開に、驚きふためく参加者たち。
「これで生贄の準備は整った。世界は血にまみれ、闇に飲まれる。さあ、我が神の復活を祝う祭を始めるのだぁぁぁぁ!」
「――――そうはさせませんっ!」
そんな中、妖しい魔導士を指さし声を上げたのはメイ。
「何者だ! 我が神の復活を阻もうというのであれば、容赦はせぬ!」
魔導士が右手を突き上げると、空間に現れた金光の魔法陣から二頭の大型魔獣が飛び出してきた。
猛然と駆け出す『四足獣』の迫力に、身動きの取れないプレイヤーたちが思わず息を飲む。
「【加速】【跳躍】!」
その前に飛び出してきたのはツバメ。
「【四連剣舞】!」
四連続の剣撃が決まり、大きくのけ反る『四足獣』
「【加速】【リブースト】【アサシンピアス】」
そのまま一瞬で懐に潜り込んだツバメが放つ刺突に、四足獣が倒れる。
しかしツバメは、明らかに気づいていない。
一緒に飛び出してきた紫色の巨鳥は、紺色の空を大きく一回転。
そのままこちらに向けて、猛烈な勢いで突っ込んでくる。
「お、おい! 危ないぞ!」
「上! 上から来てる!」
「【魔砲術】【誘導弾】【フレアバースト】!」
危機を知らせる声に応えたのはレン。
【コンセントレイト】によって『溜め』状態にあった爆炎が空に放たれ魔獣に直撃、猛烈な爆発を巻き起こした。
「な、にっ!?」
落ちていく巨鳥。
舞い落ちる火の粉の中、二頭の魔獣を失った魔導士は驚愕の表情を浮かべる。
「いいだろう。ならばこの私が、貴様らを塵にしてくれる!」
そう叫んで魔導士は、杖をメイに向ける。
「【アグニ・フルクトゥルス】!」
放たれる灼熱の炎が、地を駆ける。
荒々しい紅蓮の炎は、対象を左右から『高波』で挟み込むような軌道で噴き上がった。
「【バンビステップ】!」
しかし走り出したメイは、その中を猛烈な勢いで一直線に駆け抜けていく。
「ッ!?」
そしてあっという間に魔導士の懐へ。
「いきますっ! 【フルスイング】!」
「ぐああああああっ!
放つ強烈な振り払いに、弾き飛ばされた魔導士は派手に地を転がった。
「チィッ! ならば……こいつで勝負だァァァァ!!」
それでもどうにか立ち上がった魔導士は、巨大な金の魔法陣を生み出すと、すさまじい速度で魔力を充填していく。
「これで終わりだ……! 【エクスキターウィト・マグヌム・インケンディウム】!」
放たれる盛大な豪炎。
対してメイは、手にした剣を高く掲げた。
そして迫り来る炎を前に、全力で降り下ろす。
「いきますっ! 必殺の【ソードバッシュ】だあああああ――っ!」
放たれる強烈な衝撃波が黄金の炎とぶつかり爆発、大量の火の粉が飛び散る。
しかし駆ける衝撃波は止まらない。
炎を消し飛ばして突き進むと、そのまま魔導士ごと金色の魔法陣を打ち破った。
キラキラと輝く黄金の粒子が降り注ぐ中、消えていく魔導士。
紺色の空が、少しずついつもの青空に戻っていく。
するとメイは静かに、右手を高くつき上げた。
「これでもう大丈夫……! 星屑フェス――――スタートですっ!!」
「「「おおおおおおおおおお――――っ!!」」」
大きな拍手と共に、わき上がる歓声。
オープニングセレモニーを任されていたメイはたちは見事にその責務を果たし、星屑フェスは最高のスタートを切ったのだった。
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