第569話 次の目的地はどうしましょう!
「今日はどれにしようかなーっ?」
学校帰り。
いつものように、街のスーパーで買い物中のさつき。
定番クッキーにするか、季節限定のものをリピートするか。
そんな事を悩んでいると、不意に止まる足。
「むむむ」
果物コーナーを見つけて、ちょっと近づいてみる。
「世界樹バナナも、おいしかったなぁ」
ステータス上げの果実も、飲食システムのおかげですごく美味しくなっていた。
食べて使用か、食べずに使用か。
これはまた悩みどころになりそうだ。
「あれ? あのバナナを手にしてる子って……?」
するとそんなさつきを見た客の少年たちが、こちらを見て視線を留めた。
「はうっ!?」
見ればその少年の手には、『星屑』の広報誌。
どうやら彼らは『ゲーム仲間』のようだ。
「こ、このままだと現実でもバナナに目がない野生児ちゃんになっちゃうかも……っ!」
さつきは広報誌が写真週刊誌のように『星屑の野生児、現実でも野生児だった!』という見出しで、目線黒塗りのメイを載せている絵を想像して、そそくさと売り場を離れる。
そしてしばらくしばらく店内を回った後、しれっとコーヒーのコーナーへ。
「ほほー、なるほどぉ」
全然知らない豆を眺めながら『知ってます』感を出してみる。
今日は『星屑』プレイヤーの姿もあったため、いつもよりちょっと大げさだ。
結局「どっちも買っちゃおう!」という決断を下したさつきは、二つのクッキーを手に帰宅の途に就く。
「今日もツバメちゃんとレンちゃんが一緒! どこに行くのか楽しみだなぁ」
今時めったに見られない、ウキウキのスキップを披露しながら自宅へ。
「ただいまーっ! お母さん、今夜のご飯は何っ?」
そしてものすごく気軽な感じで、玄関で鉢合わせた母やよいに問いかける。
「何だと思うっ?」
「麻婆豆腐かなっ?」
「せいかいっ」
「「…………」」
見事な正解にまた、二人して息を飲む。
どうやらまた、当たってしまったようだ。
「やっぱり点心とか、意外性のあるものの方が良かったかしら……いえ、蒸籠があるのに中身カップ麺のパターンとかも……」
もうオリジナルの創作料理でしか、さつきの予想を外すことができないのではないか。
そんな空気が漂い出す。
「本当にすごいわね……さつきの野生の勘」
「つ、ついに『野生』が我が家にまでっ!? そんなことない……これはただの偶然だよ……っ!」
やよいの口から出てきた『野生』という言葉。
さつきは部屋に駆け込むと、逃げるように『星屑』の世界へと向かうのだった。
◆
「メイは一番見つかりやすいかもしれないわね」
さっそく集まった三人は、メイの話を聞いて笑う。
「実は私も書店で指差されてビクッとしちゃったのよ。でもこっちでは銀髪に黒装備。現実では学校も私服も制服だからまだバレにくい方かも」
「ま、まだ公私共に制服を着続けているのですね」
「ツバメはどう?」
「一度もありません。クラスに広報誌を持ってきている同級生がいて、そこに写っていたけど気づかれませんでした」
「それはそれですごいわね……」
ツバメは相変わらず。
大活躍中のアサシンを知っていて、そのうえ同級生に同名の子がいるのに、なお気づかれないという絶技を披露中のようだ。
「次に向かう場所は、これまでとは少し世界観を変えてもいいかもしれないわね」
神殿都市と暗夜教団は少し雰囲気がありすぎたと、苦笑いのレン。
そう言いながら広報誌を取り出す。
そこには、レンが『妖しく黄金の林檎』を手に妖しく笑う姿。
そこに『闇に染まれ』と、これまた雰囲気のあるフォントで書かれている。
こうなると手にした林檎はもう『知恵の実』にしか見えず、世界観の出方が尋常ではない。
実際このシーンの雰囲気がすごすぎて、マネをするプレイヤーが激増しているほどだ。
「今回CM映像にも使われていて驚きました。レンさんのカッコよさに何度も見返してしまいました」
「わたしには悪夢なんだけどね……さっそく香菜に『まだ卒業してないじゃない!』って問い詰められたし。もう画像、映像、広報誌をまとめて焼き尽くしたいくらいよ」
白目のまま、レンはため息を吐く。
「でも何より、これのせいで新たに『ハマっちゃう』プレイヤーに申し訳ないわ……」
「……わあ、レンちゃんカッコいいなぁ」
メイはレンの全開モードに、感嘆しながらページをめくり――。
「うわはーっ!?」
耳と尻尾をビン! と立てて硬直した。
そこには、最後の戦いで黄金バナナを頬張るメイの姿が。
「同じ金色の果物を食べるシーンなのに、全然違うよーっ!?」
耳と尻尾はもちろん背後に世界樹があるせいで、メイが金のバナナを食べるシーンは、野生児がとっておきの好物を頬張っているようにしか見えない。
「バナナの出す野生感と、ちょっと能天気な感じはすさまじいですね」
神殿の街で行われた夜戦でも見事な野生ぶりを見せるメイに、「可愛いです」とツバメはご満悦。
「ね? 一度これまでとは違う雰囲気の街とかに行ってみるのもありでしょう?」
「うんうん! それがいいよっ!」
「どこがいいのでしょうか」
なんだかんだ、いろんな場所に足を運んできたメイたち。
三人して「んー」と、悩む。
「そうだ! 点心を食べに行ってみるっていうのはどうかな?」
そんな中、メイが思いついたのは母やよいとした夕食話。
「いいわね。武侠や仙術の街とか楽しそう。確か漢方なんかのクエストもあったと思うわ」
「世界観がグッと変わってきますね。飲食系のシステムが実装されてどうなっているのかも興味あります」
「楽しそう……っ!」
早くもワクワクで、尻尾をブンブン振るメイ。
「分かりやすいところだと『ファン』かしらね」
「ふぁん?」
「鳳凰の『ホウ』とかいてファンですね」
「おおーっ!」
「次の目的地はファン国。それじゃいつも通り、アルティシアのクエスト報酬をもらってから向かうことにしましょうか」
「りょうかいですっ!」
「はいっ」
こうして新たな目的地は、煌びやかな『鳳』の街に決定。
三人はどんな冒険が待ち受け浮ているのかにワクワクしながら、ポータルへと向かうのだった。
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