第570話 成果報酬の時間です!

「聖教都市っていうより、世界樹都市アルティシアね」


 ポータルを使い、いつもの港町ラフテリアからアルティシアにやって来ると、到着と同時にレンがそう言った。

【世界樹の芽】から生えた世界樹は、植える際に指定した実をつけ芽を残すと、原状復帰に寄って消えていく。

 本来はそこそこ長い期間をかけて育ち、ようやくなった実を手に入れ、また芽が手に入るのを待つといった気の長いアイテムだ。

 しかしメイの【密林の巫女】のスキルを使えば、ボス戦などでは前半に使用すれば後半には実をつけている。


「これも結構反則よねぇ……」


 早い回転で世界樹を生やすメイには、笑う他ない。


「あれがメイちゃんの木かぁ……」

「今回は一帯が木々に飲まれる感じじゃないんだな」

「ヤマトも和と樹木の街感がすごかったし、王都の木々に飲まれた文明感も良かったけど、神殿と巨大樹の風景も最高だな」


 すっかりメイの聖地巡礼者になっているプレイヤーも、楽しそうに世界樹を眺める。

 そして世界樹の前は当然、人だかり状態。

 メイたちが大きな戦いをした場所は、直後に観光地化するのが最近の定番になっている。


「世界樹にも【密林の巫女】の声が届くというのはすごいですね」

「おそらく一緒に戦うなんてことも可能なんじゃないかしら……そう考えると本当にすごいわ」


 そんなことを話ながら、街の中心部にある神殿に向かう。

 神殿にはすでに、聖女エルステラがメイたちの到着を待っていた。


「アルティシアを救いし英雄の皆さま、お待ちしておりました」


 聖女の周りにはさらに、従者や神殿騎士たちも集合。

 うやうやしくメイたちを招き入れる。


「神殿の街におとずれた未曽有の危機。私の占術には、アルティシアが死の街に変わるという恐ろしいお告げがありました。そんな中、光を掲げる者たちが見事に魔を退けてくれた。ここに御礼を」


 そう言って聖女が頭を下げると、神殿騎士たちまで一斉に敬礼。


「すごいんだけど……なんかやりづらいわね」


 その仰々しさに、苦笑いのレン。

 一方のメイは、神殿騎士たちに「こちらこそでありますっ」と敬礼で応えている。

 そしてそんなメイの独特な緊張の仕方に、一人癒されるツバメ。

 こちらもなかなかにクセが強めだ。


「皆さまの素晴らしい偉業に対して、僭越ながらお礼を用意させていただきました」


 聖女がそう言って手を上げると、神殿騎士が宝箱を持ってメイたちの前に。


「中身はどこでもそんなに変わらないけど、宝箱っていう入れ物は何度見ても気分が高まるわね」

「本当だねっ!」

「さっそく中身を見てみましょう」


 三人は豪華な作りの宝箱を、ワクワクと共に開く。


「何が入ってるのかなーっ」



【友達バングル】:これまで出会った動物や魔獣、モンスターの中から、友好的なものがふらっとやってくる。



「おおーっ! 楽しそうなブレスレットだぁ! 今までに出会った色んな子たちにまた会えるんだねっ!」

「……面白そうなものが出てきたわね。メイの場合は基本動物魔獣と仲がいいから、色々出てきそう」


 古代の紋様が刻まれたそのバングル。

 召喚とは別枠の『呼び出し』というシステムに、さっそくレンは一つ可能性を見出す。


「次は私が」



【隠し腕】:闇の錬金術師の秘術。武器を持たせての追加攻撃か、盾を持たせて防御補助か。どちらかをさせることが可能。



「これは検証が楽しくなりそうなスキルね! 何ができるのかしら……!」

「はい、とても楽しみです」

「それじゃ最後は私ね」



【ヘクセンナハト】:魔女たちの守護により、使用魔法の攻撃範囲を上昇させる杖。



「装備品は久しぶりだけど……範囲を大きく広げることができるって、言葉通りなら威力そのままに魔法を広範囲化して撃てるってことかしら」

「【魔砲術】と一緒に使えれば面白そうですね。上級魔法でも使用可能であれば高火力広範囲、大型のドラゴンが放つブレスのような攻撃ができそうです」

「【知力】値の向上は少ないから、これも使いどころで取り出す形ね。ていうか聖教都市の主たる聖女が『闇の雰囲気ある魔導士だし、これで』って感じで選んだのかしら……別に光の杖とかでもいいのよ?」


 黒き闇の杖の先端に、黄金の光が輝く。

 そんなデザインに、いかにもな名称。

 光の街の聖女にまで中二病な装備を渡されて、レンは苦笑いする。


「さて。面白そうな報酬をもらったし、このままポータル乗り継いで『鳳』に向かいましょうか」

「りょうかいですっ!」

「いきましょう!」


   ◆


「わあーっ! すごーい! 雰囲気が全然違うねー!」


 ポータルを使って『鳳』にたどり着くや否や、メイは大喜びで駆け出した。


「やはり木材を使った建物は趣がありますね」


 これまでとは違う木造の橋を駆けて小川を渡り、メイはさっそく建物の屋根に飛び乗った。

 見渡す街は木と漆喰の建物が並び、ドアには幾何学的な木枠がはめ込まれている。

 各所に吊るされた提灯や、置かれた灯篭。

 そして何より、いたる所に朱色が多く使われているのが特徴だ。

 大きな建物の屋根には緑の瓦が使われていて、その色使いが目に鮮やか。

 広がる青空によく映えている。

 街を警備している兵士たちも、兜ではなく色あせた赤の笠を頭に乗せ、鎧も鱗を重ねたような造りをしている。


「あっちはいろんなお店が並んでるみたいだよー!」


 メイは見事な前方宙返りで着地すると、さっそく中央通りへ。


「あっ! あれって点心のお店かな!? レンちゃんツバメちゃん! 早く早くーっ!」


 すぐにその眼を輝かせながら戻って来て、レンとツバメの手を取った。


「いきましょうか!」

「はいっ」


 そしてそんなメイに乗せられた二人も、思わず新たな鳳の街にかけ出していくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る