第566話 戦いが終われば!
「アルティシアにまた、平穏が戻ったようですわね」
「あの巨大な樹はやはり、ナイトメアたちのものだったのだな」
戦いが終わり、メイたちのもとにやって来たのは『使徒』の二人。
「――見事な勝利」
どこかに衝突しただけで死に戻りになってしまうHPの雨涙も、そーっと歩いてやってきた。
うっかり死の可能性を、自分でも想像していたようだ。
「なんだい、この光景は」
「如月の知るアルティシアではない」
「植物の悪魔に乗っ取られたかのようでございます」
そこに、暗夜教団の三人もやってきた。
見れば空を世界樹に覆われ、足元には巨大な根が伸び、中心街の建物のほとんどが崩壊しているという状況。
観戦者たちも、どうにか生き残った壁の陰に隠れてメイたちの勝利を見届けた感じだ。
戦いは神殿側の勝利で終わり、アルティシアは守られた。
「街を闇に還そうなど、傲慢な振る舞いはこれきりにしておくのだな」
リズのそんな言葉にも、刹那はその顔に浮かべた薄い笑みを崩さない。
「大罪悪魔の中でもトップクラスの力を持つ『明けの明星』まで倒してしまうとはね。ふふ、さすがにボクも驚いたよ」
そう言って「やれやれ」と、その艶やかなショートカットを振ってみせる。
「これだけの力を経てもなお、勝てない。これが純粋に力だけを求め続けた者の強さというわけだ」
「ま、まあね」
「それに。こんな規格外の巨樹を生み出してしまうなんて、野生の王様はボクの想像の何十倍も上をいっているようだね」
「あ、あの! 野生ではないんですっ! すごく植樹が得意な普通の女の子なんですっ!」
「メイさん、植樹が得意な時点で普通の女の子ではないですよ」
「はうっ!?」
ブンブン首と尻尾を振って否定するメイと、ツッコミを入れるツバメ。
「ふふ、まあいいさ。アルティシアは生き残ったけど、彼方も悪魔を手に入れた。ボクたちの力を見せつけることはできたんだから、今回はそれで十分としておくよ」
「強くなり過ぎよ。スキルも……キャラも」
闇の使徒の創始者の一人、維月刹那・ルナティックの凄まじい『強力』さを思い出してレンは苦笑い。
「ルナティック、これからどうするつもりだ?」
「言っておきますが。これ以上の不埒はこの私が許しませんわよ」
リズはかつての仲間として刹那の今後を、白夜は新たな野望を気にかける。
「ボクたちはそうだね……力を求めるよ」
そう言って刹那はまた、薄く笑う。
「……ごめんなさい。急にいなくなるようなことをして」
レンはそう言ってから、刹那の肩をつかんだ。
「それと。そのうち色々と『気づく』時が来ると思うから、そうなったら必ず呼んで。絶対……力になるから」
『目が覚めたら絶対のたうち回る』からと、以前リズにも伝えた言葉を刹那にもちゃんと伝えておく。
今の時点では意味不明でも、目が覚めた時に『あの時レンが言ってたのはこれか……!』となるだろうと考えて。
――――しかし。
「……時が来たら力になる。なるほどね、そういうことか」
刹那は納得したようにほほ笑んだ。
「やはり力を求めていただけあるよ。すでに知っていたわけだね、この世界に眠る深き闇に。もしや、そもそもキミが力を求めているのはそのためか……?」
「……え?」
起きるすれ違い。
まるで予想しない流れに、レンは面食らう。
「――――瞬く星に、永遠の夜が来る」
刹那がつぶやいた。
「これは『ヤツ』が残した言葉。『黒枝篇』の一節さ」
「え? え?」
「普通『職業』にはそれを勧める『ギルド』のようなものがあって、その顔役がいるものだよね。だけど悪魔召喚士はそれが誰なのか分からない。悪魔召喚をボクに持ち掛けてきた人物の正体は今も分からず、そしてその者は常に旅を続けている。目的すら語らぬままね」
「え? どういうこと?」
「ただ悪魔召喚だけを勧めてきた謎の者。『アレ』が一体なんだったのか。それはボクたちにも分からない」
「ね、ねえ、それってどこまでが設定なの? 本当ならワクワクするけど……ねえ、どこまでなの!?」
「だからボクたちも力を付けておくのさ。来るべき日に備えてね。ナイトメアが力を求め続けるのであれば、必ずそこで再会することになるだろう。その時は敵か、それとも味方か……楽しみにしておくよ。ふふふふふ」
「ちょっと待って! どこまでが設定でどこまでが本当のやつか分からないのよ、貴方たちは!」
「はははははでございます。レクイエムもゆめゆめ、鍛錬を怠ることのなきよう」
「ふん、当然だ」
「如月もその時を楽しみしている。同期雨涙よ、また会おう」
「――再会を楽しみにしている」
踵を返し、立ち去って行く暗夜教団を追うレン。
「ちょっと待ちなさいよー! どこまでが本当なのかだけ説明してから行ってー!」
それが世界規模のとんでもないクエストへの道なのか、ただの設定なのか。
どっちでもおかしくない三人の態度に、結局振り回されてしまう。そして。
「またね、ナイトメア。やっぱりキミと遊ぶのは……すごく楽しいよ」
そう言って笑った刹那の満面の笑顔に、思わず「……もう」と息をつくのだった。
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