第520話 聖騎士の恩返し

「楽しかったーっ!」


『メイちゃんのメイド喫茶』最後の担当時間を終えたメイは、まだまだイベントで賑わうカフェを満面の笑みで後にする。

 ここからは、小さくなった召喚獣たちによる営業のスタート。

 すでに店の裏手には、目を見張るほどの行列ができている。


「それにしてもすごい客入りだったわねぇ。常に満席なんてことになるとは思わなかったわ」

「いろいろな方に会えました」

「それに、こんなに楽しくなるなんてね」

「本当に楽しかったよー!」

「素晴らしい時間でした」


 笑い合う三人。

 飲食システムには調薬のシステムをもとにした料理などもあるようで、色々とイベントを行いながら説明がされている。

 参加者は予想よりもかなり多く、新システムに興味を持ってもらうためにメイたちがカフェをやるという狙いは、最高の結果になったと言える。

 だが三人にとっては、楽しい時間になったということがイベント最高の成果だ。


「お疲れ様だな!」

「……お疲れ様」

「アルトちゃん、マリーカちゃん! お疲れ様ですっ!」


 そこにやって来たのは、メイたちの休憩時間に店を任されていたアルトリッテとマリーカの二人。

 シフトはメイたち、アルトリッテたち、またメイたちという流れになっていて、ここでも職場仲間のような雰囲気になっていた。


「まさかクエストを終えてもメイドになるとは思わなかったぞ」

「……イベントのスタッフ側になるとは思わなかった」


 そう言って、楽しそうに笑うアルトリッテとマリーカ。


「実は、メイたちを招待したいところがあってな」

「招待ですか?」

「……今回のクエストは、本当にメイたちに助けられた」

「そのおかげで私は【エクスカリバー】にたどり着き、マリーカも目当ての小型化アイテムの情報を得られたのだ」


 そう言ってアルトリッテは、【エクスカリバー】を高々と掲げる。


「……最近こればっかり。取り出してはニヤニヤして、ブンブンして」


 マリーカの言う通り、アルトリッテはブンブンと美しい剣を振って「うむ!」とご機嫌にうなずく。


「「鞘も見つけなくては!」」


 同じ流れを何百回と見させられたマリーカが、ピッタリと声を合わせた。


「……頭がおかしくなりそう」

「それを言うならマリーカだって、すでに可愛い装備をあれやこれやと見繕って――むぐ」


 マリーカ、顔を赤くしながらアルトリッテの口を塞ぐ。


「……そういうわけで、メイたちを招待しようと思う」

「どこに行くの?」

「私たちが使っている倉庫だ!」

「倉庫?」


 首を傾げるメイに、アルトリッテは笑いながらうなずいてみせた。



   ◆



「ハウジングもしてたのね」


 ポータルを使ってたどり着いたのは、エルダーブリテンの一角。

 一軒家が立つくらいの土地に、レンガ造りのガレージのようなものが建っている。


「【エクスカリバー】や『小さくなるアイテム』を求めて世界を回っていた時に、色々な物が手に入ったのだが……そんなアイテムをどこかに分かりやすく保管しようということになってな」

「……気分転換に作っていた部分もある」

「あまりにもきっかけが見つからなくて、おかしくなっていた時に建てたのだ!」

「……倉庫を造ることで気晴らしをしていた」

「だから、ハウジングというほどのものではないな!」


 そう言いながらアルトリッテが、倉庫の扉を開くと――。


「わあ……っ!」

「いいじゃない!」

「これはワクワクします!」


 魔法石灯が、橙の光を灯していく。

 そこにはこれまでアルトリッテたちがクエストをクリアした際にもらった武器や防具、スキルブックなどがズラリと並べられていた。

 それは6年に渡る探索の成果だ。


「良いものもたくさんあるのだが、『聖騎士』や『不動』としては使わないものなども多くてな」

「……今回はお礼として、好きな物を持っていって欲しい」

「これは……じっくり見たいところね」


 早くも目を輝かせるレン。

 並んだアイテムや装備品を、さっそく物色し始める。


「そうだ、今回は広報誌に加えて特別本も出ていたな」

「……エルダーブリテンとメイドの一冊は、とても良かった」

「私も夢中で読んでしまいました」

「今回の特別刊は良かったわね。すごく楽しい感じでまとまっていたわ」

「うんうん! わたしも何度も読み返しちゃったよー!」

「メイドクエストも楽しかったし、エクスカリバーも手に入り、小型化アイテムの情報まで。メイたちとの旅は最高だったぞ!」

「……次は小さい可愛いマリーカちゃんになって載りたい」


 早くも思い出話に花が咲くメイたち。


「おおーっ! これもカッコイイ! そう言えばアルトちゃん、剣は大丈夫だったの?」

「【エクスブレード】は鍛冶屋で修復しておいたぞ! 【エクスカリバー】も持ち歩きつつ、使い分ける感じだな!」

「よかったー!」

「んー、私はこれにしようかしら」

「それでは、私はこれにします」


 良さそうなものを見つけたレンとツバメは、さっそくお気に入りを取り出した。



【低空高速飛行】:浮遊などのスキルで低空限定で速い移動を可能にする。

【不可視】:投擲スキルの際、投じた武器を見えなくする。連投時にも効果は適用される。



「わたしはこれがいいかもっ!」



【世界樹の芽】:植えると育ち、実をつけて消えていく。一つ大きくステータスを向上させる【世界樹の実】は、アイテムとして使用可能。実がなるまで長い時間がかかる。



「うむ! 遠慮なく持っていってくれ!」

「……このまま置きなっぱなしにするより、使ってもらった方がいい」

「ねえ、これは使わなくていいの?」


 そう言ってレンが取り出したのは、偶然見つけた『体術スキルの威力を向上』する装備品。

 当然【ハードコンタクト】の威力も上がる。


「私は聖騎士だぞ! そんな物いらな……くはないな……」


 思い出してみれば、何かと『聖騎士タックル』に救われているアルトリッテ。

 一応受け取って、インベントリに入れておく。


「よし! 私たちはさっそくエルダーブリテン探索に戻るぞ!」

「……小さくなるアイテムと、鞘探し。まだ勝負はここから」

「そういうわけだ! また会おう!」

「……また」


 倉庫を出ると、アルトリッテたちは手を振りながら駆け出して――。


「ぬはーっ!」


 さっそく足を引っかけすっ転ぶ。


「……いつものこと」

「いつもではなーい!」


 どうやらまだまだ、二人はやる気十分なようだ。

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