第514話 エクスカリバー
「お見事でした」
「これだけの強さを持つ者は、他にいないだろう」
恐ろしい強さを見せた湖の乙女と騎士の二人は、足をフラつかせながら立ち上がる。
「その覚悟、そして類まれなる力、確かに見届けました」
「それだけの腕前があれば、王の剣の力や、その強さが引き寄せる運命にも負けないだろう」
そう言って湖の乙女と騎士は、静かに道を開いた。
「メイ! アルトリッテ! やったのね!」
「みんなーっ!」
聞こえた声に、ブンブンと手を振るメイ。
そこにやって来たのは、空から必死にメイたちの居場所を探したレンと、その後を追ってきたツバメとマリーカ。
大きなマリーカは、小さなツバメに背負われて恥ずかしそうだ。
「あれが【エクスカリバー】なのね」
「すごいですね……見るからに特別な剣といった感じです」
「……よかった」
長らく追い続けてきた美しい剣を、ただ見つめるアルトリッテ。
「……アルト」
「アルトちゃん」
マリーカとメイがそっと肩に触れると、アルトリッテはゆっくり振り返る。
「あわわわわ」
「あ、緊張してたのね」
待望の【エクスカリバー】を目前にしてブルブル震えているアルトリッテに、くすくすと笑うレン。
「いよいよですね」
「う、うむっ!」
アルトリッテが浅い湖の上に歩を進めると、沈むことなく水面に足が乗る。
そのままゆっくりと歩く。
静まり返った湖の上に、足を置く度に広がっていく波紋。
木々の隙間から入り込む陽光が水面をキラキラと輝かせる光景は、新たな伝説の幕開けにふさわしい。
たどり着いた、剣の前。
手を伸ばし、しっかりと柄を握る。
「―――いくぞ」
そしてアルトリッテは静かに、ゆっくりと【エクスカリバー】を引き抜いた。
まばゆい光が広がり、風が吹き抜けていく。
「間違いない。ずっと探し続けてきた剣だ……やった……」
アルトリッテはそのまま【エクスカリバー】を高く突き上げる。
「やったぞー! みんなぁぁぁぁーっ!!」
「おめでとうございますっ!」
頭の上で盛大に拍手するメイにつられるように、皆拍手を送る。
美しい剣を手に、湖を駆け戻ってくるアルトリッテ。
「ありがとう! ありがとうメイ! レン! ツバメ! マリーカ! ありがとうっ!」
飛びついてきたアルトリッテにレンは「よかったわね」と頭を撫で、ツバメは「よ、よかったです」と恥ずかしそうにし、メイは「やったー!」とブンブン尻尾を振りながら、同じ温度でよろこぶ。
そしてマリーカは「……よかった」と満足そうにほほ笑んだ。
「……今回の旅は、特に楽しかった」
「ああ! 今回の冒険は最高だったぞ!」
「……ありがとう。アルトの求める物、そして私が探していた情報も得ることができた。これはメイたちのおかげ」
「いえいえっ、こちらこそ! メイドさんから始まった冒険、楽しかったですっ!」
「これは誘ってもらえなかったら、なかなかたどり着かないクエストだったわね」
「お屋敷でのメイドクエストは、もう一度文化祭をしたかのようでとても楽しかったです。皆さんと同じクラスにいるような気持ちでした」
展示の受付を一人でしていた現実の文化祭との差に、思わず笑みがこぼれるツバメ。
そんな三人を見て、アルトリッテはつぶやく。
「長い旅になったが……一番の宝はメイたちと共に楽しく進むことができたことかもしれないな」
「……確かに」
笑い合う二人。
アルトリッテは、手にした剣をあらためて掲げる。
「メイたちも助力が必要な時はいつでも言ってくれ! 私たちはいつでも力を貸すぞ! そしてその時にはすでに、真の聖騎士になっているだろう!」
「……私もその時には、小さい可愛いマリーカちゃんになっている」
「小さい可愛いマリーカちゃんになりたいのね……」
『不動のマリーカ』という二つ名で呼ばれるほどの魔導士。
「強い」とか「カッコイイ」みたいな要素を一切求めてないことに、レンは笑いをこぼす。
一方のマリーカは「それでいい」と、こくこくとうなずく。
幻想的な風景の中で、笑い合う五人
「そう言えば、一つ気になってる事があるんだけど」
「なんだ?」
思い出したように言うレンの言葉に、【エクスカリバー】をブンブンさせて上機嫌のアルトリッテが首を傾げる。
「【エクスカリバー】って、『星屑』ではどんな存在なの?」
ゲームによって、その出自や強さなどの設定は違ってくるだろう。
その辺り、やはりレンはどうしても興味を引かれてしまう。
「うむ! こんな感じだ!」
さっそく、手にしたエクスカリバーの説明文を読み上げるアルトリッテ。
「役目を終えて、湖の乙女のもとに帰って来た剣ということになっているようだな」
「かつてエクスカリバーを『王』に与えた湖の乙女のもとに、新たな剣士がたどり着いて――っていう流れのクエストだったのね」
「その美しい剣は、もちろん攻撃力も高く……ん?」
「どうしたのー?」
突然止まったアルトリッテに、首を傾げるメイ。
「だが伝説の剣にふさわしい力を持ったその『鞘』は――――悪しき魔女が持ち逃げたままだという!?」
「「「「…………」」」」
説明文の最後にあった文言に、【エクスカリバー】を手にしたまま完全硬直するアルトリッテ。
「ああこれ、『鞘』も見つけないとダメなパターンね」
「……おかしいと思った。これだけの装備品なのに、常に抜き身のままだった」
「ぬ、ぬ……」
【エクスカリバー】を完全体とするには、鞘の発見も必要。
そしてもちろん、そのための情報は特になし。
「ぬっはあああああああ――――っ!!」
新たに始まる【エクスカリバー】の鞘探し。
思わず出た聖騎士の叫びは、アヴァロニアの森に響き渡ったのだった。
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