第383話 メイvs青バラのお嬢様
「思ったよりは、できるようですね」
ホウキレースは、レンとツバメで二連勝。
青バラのお嬢様は、おざなりな拍手をしてみせた。
「最後はこの私がお相手して差し上げましょう。名家の力、とくとご覧になってください」
余裕と高慢が混ざった笑みのまま、ホウキに跨る青バラのお嬢様。
「……メイ、必要なら合図をちょうだい。注意を引くから」
「うんっ! おねがいしますっ!」
レンと軽く打ち合わせをした後、両者が並び立つ。
「いよいよ青バラ戦か……」
「こいつはガチだからなぁ」
サービス開始から挑戦者たちをことごとく返り討ちにしてきた青バラのお嬢様に、ため息を吐く魔法学校住人たち。
なかなか『プレイヤー側が勝つ』イメージをできないようだ。
「それではいきます」
銀髪お嬢様が、杖を空へ向ける。
「よーい、スタート!」
放たれた小規模爆破魔法を合図に、メイと青バラお嬢のレースが始まった。
勢いよく飛び出す両者。
青バラお嬢はこれまでの二人より、さらに速い。
「【バンビステップ】!」
高速移動で一気に魔法動物塔へ向かったメイは、そのまま大きく【ラビットジャンプ】で跳躍。
「【モンキークライム】!」
縁を蹴り上がり、程よい出っ張りを見つけたところで――。
「【ターザンロープ】!」
ロープを引っ掛け、一気に自身を引き上げる。
「なんだあれ!? たった一回で看板のところまで上がったぞ!?」
その移動方法に、驚きの声を上げる住人たち。
メイは難なく看板にタッチして、そのまま落下。
ロープが伸び切ったところで手を放し、着地もきれいに決めてみせた。
魔法薬塔目指して猛ダッシュをかけるメイは、見事に青バラお嬢に先行。
さらにここで、右手を突き上げる。
「それでは――――何卒よろしくお願いいたします!」
そして再び【ターザンロープ】を使った速い上昇で魔法薬塔の看板に触れたところで、空に身を投げた。
すると空に現れた魔法陣から降りてきたケツァールが、そのままメイを背中でキャッチ。
高い分、登るのに時間のかかる中央塔へ一気に空から向かう。
鐘のある階は、柱のみで壁はなし。
中央塔に飛び込んだメイは、鐘にタッチしてそのままフロアを駆け抜けると、外を滑空していくケツァールの背に再び飛び乗った。
「「「おおーっ! すっげー!」」」
「すごいー……」
思わず歓声をあげる魔法学校住人たち。
「ありがとうっ!」
大型鳥の背に乗ったまま、看板へタッチするのはさすがに難しい。
アイテム塔の目前に来たところで、メイは看板目がけて落下。
青バラお嬢に大きな差を付けたところで、ケツァールは空へと帰っていく。
「なんだあの移動力……!」
「今まで見たことないくらい、青バラに差をつけてるぞ!」
「こんなの初めて見たー」
そのすさまじい速度に、思わず熱くなり始める魔法学校住人たち。
メルーナも目を奪われる。
メイはアイテム塔の看板にタッチすると、続く旧研究塔を目指して動き出す。
すると大きな差を付けられた青バラお嬢は速度を上げ、杖を持った手を掲げた。
空中に輝く、無数の魔力光。
その全てが、メイ目がけて飛来する。
「うわっと! 【ラビットジャンプ】!」
一斉に迫ってきた魔力弾に、思わずジャンプ。
「おい! なんだよあれっ!」
「差がついた場合は魔法攻撃までしてくんのかよ……っ!」
「【バンビステップ】!」
次々に打ち出される魔弾は速く、さらに誘導までかかっている。
メイは後方からの連射を避けるため、どうしても速度を落とさざるを得ない。
「【エーテルストライク】!」
さらにここで放つのは、喰らえば大きく吹き飛ばされること請け合いの魔力砲弾。
「【アクロバット】!」
これもメイは問題なくかわすが、追いかけながら魔法攻撃を放てる青バラお嬢は圧倒的有利な状況だ。
メイとの距離を、一気に詰めていく。
「……負けるなーっ!」
「いけいけーっ! その回避力ならいけるぞ!」
「「「がんばれーっ!」」」
白熱していく戦いに、メルーナと魔法学校住人は夢中でメイを応援し始める。
「【ミラージュ】! 【マジックミサイル】!」
しかし青バラお嬢はさらに出力を上げ、怒涛の魔力弾でメイを狙い撃つ。
するとメイは、ここで手を振った。
「きたっ!」
メイの動向に意識を集中していたレン。
その合図に応える形で、杖を真上に向ける。そして。
「【フレアバースト】!」
「「「ッ!?」」」
突然空中に巻き起こった爆炎に、誰もがその視線を奪われたところで――。
「――――【装備変更】【裸足の女神】からの……【四足歩行】っ!」
【鹿角】に頭装備を換えたメイが、一気に速度を上げる。
こうなればもう、青バラお嬢の魔法攻撃を避ける必要など全くない。
旧研究塔へと続く石橋を駆けるメイの驚異的加速は、魔法の弾丸を置き去りにする。
放たれる全ての魔法攻撃は、メイの通り過ぎた後の地にむなしく着弾するだけだ。
「【ターザンロープ】!」
魔法に当たらないよう塔の裏側から一気に登り、看板にタッチしてそのまま落下。
学生寮塔への最後の石橋も、メイは疾風のように駆け抜けていく。
「ごめんなさい、少し熱くなっちゃって」
「お、おう……」
しれっとそんなことを言ってほほ笑むレンに、首を傾げながらレースに視線を戻す住人たち。
「「「ッ!?」」」
あり得ない事態に驚愕する。
わずかな時間の間に、メイは青バラお嬢の魔法が届かない距離にまで差を広げていた。
「なにが……あったんだ?」
瞬間移動でもしたかのような感覚に、住人たちは目を疑う。
「【ターザンロープ】!」
一方メイも、しれっと【四足歩行】と【裸足の女神】を解除して学生寮塔のガーゴイル像にタッチ。
そのまま【ターザンロープ】を握ったまま落下して、最後の直線を駆けるだけの状態へ。しかし。
「……お、おい! なんかもう一発来るぞ!!」
あがった悲鳴に、皆の視線が集まる。
旧研究塔の縁に立った青バラお嬢はメイに狙いを定め、上級クラスの魔法を発動していた。
「そこまですんのかよっ!」
「もうゴールに逃げ込んじまえ!」
「今なら行けるはずだーっ!!」
意地でもプレイヤーを勝たせない青バラお嬢の姿勢に、叫び出す住人たち。
「……最後だし、少しくらい反撃してもいいかもね」
そんなレンのつぶやきを聞いたメイは、「りょうかいですっ!」とうなずいた。
「くらいなさい! ――――【コメットストライク】!」
それは本来、被弾すれば大きく吹き飛ばされるだけでなく、大ダメージまで受けるほどの高火力魔法。
空から落ちてくる魔力の彗星は、光の尾を引きながらメイに向けて一直線。
……しかし。
高い位置から真っすぐに飛んでくる大型の魔法弾など、『打ってくれ』と言っているようなものだ。
「【装備変更】っ!」
その手に現れる【魔断の棍棒】
「いきますっ! 【フルスイング】だああああーっ!」
豪快な風切り音と共に打ち返された魔力の隕石は、そのまま真っすぐ旧研究塔に飛び大爆発。
崩壊こそしなかったものの上部に大きな穴が開き、想定外の事態に青バラお嬢は完全硬直。
速さ、そして魔法による攻撃。
青バラお嬢の全てを攻略したメイはそのまま余裕を持って、軽やかにゴールへと駆け込んだ。
「……な、なんだこれ、すっげえ」
「青バラに……勝った」
「やりやがったぁぁぁぁ! ついに青バラに土がついたぞォォォォー!!」
「最高だぜぇぇぇぇ!!」
「ホウキを使わずにクリアとか、まさかの展開だなっ!!」
「す、すごいー」
散々苦汁をなめさせられ、小馬鹿にされてきた住人たちは歓喜の小躍りを始める。
「レンちゃんありがとー!」
皆の視線をそらすことで【四足歩行】を見事に隠ぺいしたレンに、とびつくメイ。
他パーティではありえない連携に、ツバメも「お見事でした」と拍手を送る。
「……この私が、破れるなんて」
そんな中を戻ってきた青バラお嬢は、「信じられない」といった表情で肩を震わせていた。
「私はリリーネ・グレイシア。魔法名家グレイシアの息女にして、栄えあるクインフォードの首席を務める者……貴方、名前は?」
「メイです! 普通の女の子をやらせていただいておりますっ!」
「メイ……」
その名をつぶやき、短杖をメイに向けたリリーネは――。
「貴方に、対決を申し込みます!」
「ええっ!?」
「学生寮塔、三階ラウンジで待っています」
そう言い残して、二人のお嬢様を連れて立ち去って行った。
「あのクエストー、ホウキレースからつながるパターンもあったんだ……」
そのクエストにも覚えがあるのか、メルーナは驚いたように息をつく。
「……メイ、レン、ツバメ」
「なんでしょうっ」
「私も連れて行って欲しい……。リリーネに名前を聞かれるプレイヤーなんてー、初めて見た……っ」
「もちろんですっ! 一緒に行きましょう!」
「よろしくお願いします」
「その対決クエストって、ここではもう出てるものなの?」
レンが聞くと、メルーナはブンブンと大きくうなずいた。
「ホウキレースと並んでー、クインフォード名物の一つかもしれない!」
「なるほどね、それならとりあえず学生寮塔に行ってみましょうか」
「案内するからー、ついてきて!」
メイの快挙にすっかりテンションの上がったメルーナを先頭に、四人は学生寮塔へ向けて歩き出す。
「お、俺たちも見に行こう!」
「でも、あのクエストもホウキレースに負けないくらい……」
「高難度だな。でもレースに勝ったあの子たちなら、もしかしたら……っ!」
慌ててあとに続く魔法学校住人たち。
それはホウキレースに続いて、7年クリア者が出てない有名クエスト。
どうやらこれも、かなりの難易度を誇っているようだ。
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