第348話 中ボスのつもりが超強敵
「【ばんびすてっぷ】」
銀の雫から生まれたニセメイは、早い移動で距離を詰めてくる。
そのまま真っ直ぐメイのもとに向かうと、跳躍から前方回転。
「【そーどばっしゅ】」
そのまま叩きつけるように、スキルを発動。
「【ラビットジャンプ】!」
「【加速】【跳躍】!」
吹き荒れる衝撃波を、前衛二人はジャンプでかわすが、駆ける衝撃波はレンのもとに。
「あぶなっ!?」
わずかにかすめた一撃。
自分のHPを見て、レンは衝撃を受ける。
「直撃8割じゃなくて、薄くかすめただけで8割なの……っ!?」
その容赦ない威力に、身体を震わせる。
するとそんなレンに、ニセメイは照準を合わせた。
「【はだしのめがみ】」
爆発的な速度で、一気に距離を詰めてくる。
「こんな速さで迫って……ッ!? 【連続魔法】【ファイアボルト】!」
放つ四連の炎弾。
しかしニセメイは、その全てを当たり前のようにかわしてレンの懐に入り込む。
それは『気づいたら目の前で剣を振り上げている』そんな感覚。
ニセメイはそのまま、隙だらけのレンに剣撃を叩き込む。
「ごめんねレンちゃんっ! 【ゴリラアーム】!」
飛び込んできたのはメイ。
レンをつかんでそのまま放り出し、ギリギリのところでニセメイの剣をかわす。
床をゴロゴロと転がることで助かったレンは、さすがに息を飲む。
するとニセメイは、【はだしのめがみ】の勢いのままに、ターゲットをツバメに変更。
ツバメはムリな戦闘を挑むことなく、とにかく回避に専念しようとその動きに注目するが――。
「ガオオオオ――――ッ!」
「そう……きますかっ!!」
放たれた【おたけび】に硬直を取られた。
そして動けずにいるツバメに向けて放たれるのは――。
「そーどばっ」
「ツバメごめんっ! 高速【連続魔法】【フレアアロー】!」
レンの放った魔法がニセメイとツバメの両者に同時ヒットして、【そーどばっしゅ】の発生を防いだ。
慌てて逃げるように距離を取るツバメ。
しかしニセメイはすぐさまその後を追い、新たにスキルを発動する。
「【ごりらあーむ】」
「っ!?」
絶対に剣でくると確信していたツバメ、伸ばした手に捕まれる。
そのまま、全力投擲。
「ああああーっ!」
ニセメイは、猛烈な勢いで転がるツバメに向けて追撃をかけにいく。
「【やせい――】」
「それはダメぇぇぇぇ――――っ!! 【裸足の女神】ッ!」
メイが放つ、全力疾走からの横なぎ。
「【らびっとじゃんぷ】」
ニセメイはこれを、後方への跳躍でかわす。
「これ以上の【野生回帰】は、禁止となっておりますっ!」
他にプレイヤーはいないが、PVとして大々的にその姿をさらしたメイは全力で【野生回帰】の使用を阻止したのだった。
「……あらためて分かるメイの凄まじさ……しいて言えば、偽物のメイは【ソードバッシュ】を飛び道具として使わない分まだマシかしら」
「どういうことですか?」
「NPCだからメイ特有の『そんなのあり!?』がないのよ……それに」
「それに……?」
「一人なら、少なくとも連携はないわっ!」
「はいっ!」
レンの掛け声にツバメが応える。
するとニセメイも、それに対抗するように走り出し――。
「【ばんびすてっぷ】【らびっとじゃんぷ】【そうびへんこう】」
高く飛び上がり、その手につかんだのは【大地の石斧】
「「ッ!!」」
レンとツバメ、さすがに青ざめる。
「た、た、退避ぃぃぃぃ――――っ!!」
「【裸足の女神】! 【バンビステップ】!」
「【疾風迅雷】! 【加速】【加速】【加速】ッ!!」
「【浮遊】ッ!!」
メイとツバメはとにかくニセメイから距離を取り、レンは一目散に空中高くへ。
とにかく一センチでも離れようと、大慌てで【大地の石斧】による一撃から距離を取る。
「【ちれつげき】」
直後、ひび割れた地面が一気に大陥没。
「【ぐれーと・きゃにおん】」
続けて猛烈な勢いで地盤が突き上がり、ホールに巨大な岩山が突き立った。
レンは足元ギリギリにまで迫ってきた岩塊に、目を丸くする。
「あ、あらためて、とんでもない攻撃ね……」
「は、はい」
「……でも」
砕け、散っていく岩盤の中。
広範囲、高威力の一撃を叩き込んだばかりのニセメイがとっさに顔を上げた。
「いきますっ!」
そこには岩盤を跳び越えて来るメイの姿。
もちろん【大地の石斧】の使用後に生まれる隙は把握済みだ。
「【フルスイング】だああああーっ!」
直撃を喰らい、ニセメイが大きく弾き飛ばされる。
「ツバメ! おねがいっ!」
「【加速】【リブースト】【電光石火】【紫電】!」
これを見たツバメは、高速の詰めで動きを止めた。
「【フレアバースト】!」
即座にレンが追撃の魔法を放ち、吹き飛んだ先にあるのは魔法陣。
「解放っ!」
【設置魔法】【フリーズブラスト】によって吹き荒れる氷嵐。
「さすがの耐久力、HPも半端じゃないわね……っ」
これでもニセメイのHPは6割強も残っているところに、メイのすごさをあらためて思い知る。
「下手を打てば一気に戦況が崩壊するわ! ここで一気に押し切りましょうっ!!」
「りょうかいですっ!」
飛び込んで行ったのはメイ。
ニセメイの攻撃をかわし、懐に入ったところで剣で一撃。
「がおおおお――――っ!!」
続く【雄たけびで】さらにその動きを止める。
「【装備変更】!」
ここでメイの耳が【猫】から【狐】に変わる。
「【キャットパンチ】パンチパンチパンチパンチッ!」
青い炎を巻き上げながら放つ拳打を、連続で叩き込んだところで――。
「【ゴリラアーム】!」
そのままニセメイをつかむ。
「わあ! 本当にわたしにそっくりだー! それでは――――上に参ります!」
あらためて自分に瓜二つなことを実感しつつ、そのまま三回転してニセメイを空中へ放り投げる。
「それーっ!」
「【加速】【リブースト】【跳躍】!」
そこへ飛び込んで行くのはツバメ。
「【エアリアル】【アクアエッジ】【四連剣舞】!」
連続の水刃でダメージを奪うと――。
「【フリーズブラスト】!」
レンが即座に凍結を取る。
「【バンビステップ】!」
ニセメイが落ちてきたところに駆け込んできたメイは、剣撃を三連発。
「高速【連続魔法】【フレアアロー】!」
さらに援護射撃の炎矢が直撃。
「【ラビットジャンプ】!」
爆炎によって弾き飛ばされたニセメイのもとに、メイは再び飛び込んで行く。
「いくよぉぉぉぉっ! 必殺の【ソードバッシュ】……エクスプロードだあああああ――――っ!!」
吹き荒れる衝撃波がニセメイを消し飛ばし、燃え上がった青い炎がとどめを刺す。
倒れたニセメイはまた銀色の液体に戻ると、そのまま蒸発するように消えていった。
「な、なんとか……」
「なりました……」
その場に座り込んで、苦笑いを向け合うツバメとレン。
「緊張感が半端なかったわね……」
「……本当です」
「【野生回帰】の瞬間は、ヒヤッとしちゃったねぇ」
どこからでも一撃死という恐怖、さらに【蓄食】や【野生回帰】による強化を怖れたツバメとレン。
インナー猫耳装備で駆け回る自分の姿を、目の当たりにさせられることを怖れたメイ。
両者の緊張はまるで別物だったが、本来『若干面倒』くらいの中ボスを全力で相手にするはめになったメイたちは、ようやく安堵の息をついたのだった。
「本物のメイはもっと隙を上手について【蓄食】を使って、木々を生やして攻防を有利にするのね」
「そしてその合間に、召喚獣が出てくるわけです」
「…………」
もはや引きつり笑いになってしまうレン。
「もしニセメイ側に勝機があるとしたら、何度も【野生回帰】を使いかけてメイを焦らせる戦い方くらいかしらね」
「そ、そんなことされたら勝てる気がしないよお……っ!」
そしてニセメイよりも、レンの恐ろしい作戦に震えるメイだった。
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