第281話 イベントを終えたら

「さて、それじゃウェーデンイベントの報酬をもらいに行きましょうか」

「おーっ!」

「はいっ」


 オーロラ鑑賞を終えたメイたち。

 いつもの街ラフテリアへ帰る前に立ち寄ったのは、ウェーデンのギルド館。

 ここではイベントのポイントに応じた様々なアイテムやスキルが、仕事の報酬という形で授与される。


「おお、最高の冒険者たち! どうぞこちらへ!」


 メイたちがギルド館に入ると、すぐにヒゲのオーナーNPCが奥の部屋へと案内してくれた。

 絨毯敷きの廊下を進み、たどり着いた木製の両開きドアを開けると、そこは貴賓室を思わせる落ち着いた空間。

 そしてギルド嬢の衣装をまとったチュートリアルAI少女、【HMX-18b・ベータ】が立っていた。


「お久しぶりでございます」

「はいっ! お久しぶりですっ!」


 丁寧に頭を下げるベータに、メイも元気に頭を下げる。


「『ウェーデンギルドは大忙し』にご参加いただきありがとうございました。見事に大仕事を成し遂げ、フィンマルクを救った皆さまは、ポイントでもトップのパーティになりました」


 ベータがゆっくりと手を広げる。


「そんな皆様にふさわしい報酬を用意させていただております」


 現れたのは、三つの装飾付き宝箱。


「わあ! 豪華だねぇ!」

「これは中身にも期待しちゃうわね」

「さっそく見てみましょう」

「ホムンクルスちゃんたちが着てた戦闘用のドレスみたいなのが出ないかなぁ。そうすれば毛皮のマントも野生っていうよりおしゃれな感じに見えそう!」


 ワクワクのメイたちはさっそく、並んだ宝箱を開けてみる。


「これは……スキルブックですか」


 ツバメが手にしたのは、新たなスキルを得られる豪華な装丁の書物。



【疾風迅雷】:発動後は時間限定で『移動系スキル』のクールタイムを大幅に減少し【敏捷】を10%向上する。ただしその間【腕力】30%減【耐久】50%減となる。



「結構とんでもないスキルね……回避orダイって感じじゃない。でも、間違いなく強力なスキルだわ」


 跳弾の様な動きで敵を翻弄し、斬り、刺す。

 そんなツバメの攻撃スタイルをさらに大きく底上げするようなスキルに、レンは感嘆する。


「レンさんの宝箱には何が入っていましたか?」



【魔法蝶】:スキルレベルに合わせた数の魔力蝶を周辺に飛ばすことができる。蝶は生み出す際に使った魔法を発射する移動砲台となる。



「これは……宙を舞いながら魔法を撃って敵を攻撃してくれる、使い魔みたいな感じでしょうか」

「おそらくね。私の場合、魔法蝶に射撃を任せて、回避させたところに魔力剣を刺しに行くって使い方もできそう……これで合ってる?」

「はい、そのような使い方も可能です……そして、魔力蝶自体を多数飛ばして攻撃するという派生スキルもあるようです」

「なるほどね……絶対ピカピカ光るんだろうし、魔力の蝶はちょっと中二病感強いけど……いいスキルっぽいわね」


 黒衣の魔導士のそばを、魔力の蝶が飛ぶ。

 そんな絵面を想像して、苦笑いを浮かべるレン。


「さて、また戦い方が進化するようなスキルが二つ続いたけど、メイの方はどんな感じかしら」

「メイさん、どうでしたか?」

「…………」


 ジッと、宝箱をのぞいているメイ。

 レンとツバメも、期待の面持ちでのぞき込む。



【大地の石斧】:原始的な作りの石斧。チャージ型のスキル【地烈撃】と派生攻撃が使用可能。その威力は主に【腕力】に依存する。攻撃力55。



「どこからどう見ても、石斧だあーっ!」


 毛皮で作られた【王者のマント】と一緒に持ったら大変なことになりそうなアイテムに、メイは思わず頭を抱える。


「棍棒と石斧を振り回す毛皮マントの猫耳少女なんて、もう隠しきれないよおーっ!」


 さらに追加された野生要素に、悲鳴を上げるメイ。

 しかしレンは、説明に書かれていた一文を見て息を飲んでいた。


「この【地烈撃】って、間違いなく強力なスキルだと思う。おそらく地面を割って体勢を崩したり、攻撃するっていう感じだと思うんだけど……【腕力】に依存させちゃったのね……」

「【腕力】依存ですか……」


 見つけた不穏な一文に、二人は何とも言えない予感を働かせる。


「レンちゃんツバメちゃん、これ……どう思う?」

「大変なことになりそう」

「大変なことになりそうです」

「そうだよね! 獣耳に毛皮のマントで、石斧を振り回しちゃったらもう原始人だよね! これじゃもっと野生の印象が強くなっちゃうよーっ!」


 武骨な石斧の野性味に頭を抱えるメイ。

 スキルの【腕力】依存表記に何かを察するレンとツバメ。

『大変なことになる』の意味が、大きくすれ違う三人だった。

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