第205話 アサシンと魔法のランプ

 石柱の並ぶ神官ミイラの部屋。

 その最奥には、転移結晶が置かれていた。

 メイたちは再度その輝きを使い、新たな場所へとたどり着く。

 サンドベージュ色の石壁が続く路。


「少し先に進んだ感じがするね」


 尻尾をフリフリ、メイが先を行く。


「神官ミイラは結構大物だったっぽいわね」


 新ピラミッドでさっそく出会ったボスは強く、新スキルも得られた。


「さっそく試してみたいところですが……メイさん?」


 動くメイの耳。

 するとその直後、どこからからか悲鳴が聞こえてきて――。


「うおおおおーっ!」

「きゃああああー!」

「ぐふっ」


 天井の穴から、三人組の男女が転がり落ちてきた。


「ここは……?」


 重装剣士が起き上がる。


「落とし穴で終了かと思いきや、落ちた先に路があるなんてラッキーかも」


 どうやらピラミッドの罠に落ちたが、運よく『先に進める罠』だった者たちのようだ。


「おや、しかもすでに先人が。君たちも落とし穴に?」

「転移結晶から」


 レンが応えると、落下パーティは「そんなルートもあるのか……」と感心する。

 そのままメイたちと落下パーティは、続く一本道をなんとなく並んで進むことに。


「いやーワクワクするなぁ」

「まったくだね」

「その通りだな」


 やはり気分は皆同じ。

 メイも「うんうん」と、うなずきながら歩を進める。

 すると六人の前に見えたのは、大きな扉。

 落下組の重装剣士が開くと、中は照明宝珠の光に照らされた部屋だった。

 足元には深紅のじゅうたんが敷かれ、奥に石造りの台座がある。


 「綺麗な部屋だねぇ」


 高貴な雰囲気を感じさせる部屋の作りに、感心するメイ。

 しかし六人は同時に足を止め、息をひそめる。


「……やっぱりこのピラミッドに、関係がある組織だったのね」


 レンの視線の先には、台座の前に立つアサシンの背。


「この場所にいるってことは、別のルートもあるのでしょうか」

「王宮でアサシンに逃げられた場合、地下からここに来るみたいな感じだったんじゃないかしら」


 ほぼ正解の予想で返して、レンはじっとアサシンを観察する。


「この先に進むには、やはりこいつが欲しいところだ。そしてルナイルを手中に収めるためにも有用な武器となる」


 目立つ柄のクロスが敷かれた台座の上にあったのは、装飾の施されたランプ。

 アサシンは笑いをこぼしながら手を伸ばしたところで――。


「……誰だっ!!」


 メイたちの存在に感づいて振り返った。

 アサシンは即座に短めの曲刀を引き抜く。


「いきます」


 そう言って一歩前に出たのはツバメ。

 相手は一人、まさに新スキルを試すのにちょうど良い相手だ。

 なかなかの早さで飛び込んでくるアサシン、それをしっかり引き付けてから――。


「【加速】」


 後方への高速移動で回避。


「【リブースト】」


 その直後に、切り返すようなターンで敵の側部へ。

 左右の武器で二連撃を叩き込む。さらに。


「【電光石火】!」


 敵を斬り抜けていく。

 ツバメは止まらない。

 振り返るのと同時に、再びスキルを使用する。


「【加速】! 【リブースト】!」

「「「速っ!?」」」


 その速度に、驚く落下パーティ。

 同一方向への加速は、そのスピードを上昇させる。

 ツバメは一瞬でアサシンの懐に。

 まだ敵のHPは5割ほど残っている。

 ここでツバメは、一気に勝負をかけにいく。


「【サクリファイス】【アサシンピアス】」


 ここでは自身のHPを2割消費して放つ高速の刺突がさく裂し、見事敵HPを全損。


「チッ」


 するとアサシンは煙幕を放ち、この場から逃げ去って行った。


「ツバメちゃん……カッコいい――っ!!」

「あ、ありがとうございます」


 飛びついてきたメイに、思わず照れてしまうツバメ。


「いいじゃない! 【電光石火】へつなぐ形は、攻撃にも回避にも応用できそうね!」


 敵を前後に翻弄するように駆け回り、放つ一撃。

 そんなアサシンらしい攻撃に、レンも興奮気味。


「と、とんでもない速さだったな……」

「ええ。すごい連続攻撃だった」

「本物のアサシンって感じだ」


 完全に見学に回っていた落下パーティも、感嘆しきりだ。


「さて、問題はこのランプね」


 台座の上に残されたランプは、どう見ても特殊アイテム。


「あれってやっぱり……っ」


 そしてその形状に、メイの尻尾がブンブンと左右に振れ始める。


「そうでしょうね。この先に進むのに使えそうってアサシンが言ってたし、使ってみましょうか」


 そう言ってレンが、ランプを使用すると――。


「わ、わああああーっ! 本物だーっ!!」


 メイは目を輝かせながら歓喜する。

 白い煙と共に現れたのは、腕組みの姿でほほ笑むランプの精だった。

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