第206話 ランプの精

「ランプの精だーっ!」


 魔法のランプから出てきたのは、誰もが想像するランプの精。

 その身体は大きく、なんだか憎めない笑みを浮かべている。


「付いてきてくれるってことか?」

「面白いじゃないの」

「ああ、良さそうだな」


 落下してきたプレイヤーたちも楽しそうにランプの精に注目している。


「それじゃさっそく聞いてみようかしら……ここから先に進むにはどうすればいいの?」


 レンがたずねると、ランプの精は台座の裏にあった鉄板を軽々と持ち上げてみせた。

 床に隠し通路があったようだ。

 出てきた階段を六人で降りていくと、ランプの精も身体をぎゅうぎゅう伸縮させながら後をついてくる。

 一つ下の階に降りたところで、再び石壁の路が始まった。


「【ラビットジャンプ】」


 路の先にあったのは、床のない部屋。

 メイはその底に着地できる場所がないか、一応下方を【遠視】で確認してから向こう側へ。

 付近を念入りに調べてみる。


「んー、道が出てくる仕掛けとはないみたい」

「マジかよ……」


 そうなると、全員で渡ることはできない。

 ツバメには【加速】からの【跳躍】、レンには【浮遊】がある。

 だが落下パーティの重装剣士には、さすがにこの距離を渡るすべがない。


「……アサシンの言葉では、ここから先に進むのにランプの精が有効って言ってたけど、私たちを向こうに運んだりできる?」


 レンが問いかけると、ランプの精はひょいひょいと五人を肩に乗せた。

 そのまま浮遊状態で、大穴の上を渡り始める。


「わあ! いいなー!」


 その姿に、思わず声を上げるメイ。

 ランプの精が大穴を渡り終えると、さっそく聞いてみる。


「わたしも乗せてもらえますかっ?」


 五人を降ろしたランプの精は、一度得意そうにうなずくと今度はメイを肩に乗せた。


「やったー!」


 うれしそうに尻尾を振るメイ。


「かわいいなぁ」


 落下パーティの女性魔術師が、歓喜のメイを眺めながらつぶやく。


「ああ、癒される」


 仲間の武闘家も感慨深そうにうなずく。

 楽しそうなメイに癒されながら進んで行くと、そこには黄色い宝珠の埋め込まれた石扉。


「これはなんでしょうか」


 ツバメが宝珠に触れてみるが、今回はそれだけでは開かない。


「どうすればいいか分かる?」


 レンが問いかけると、ランプの精がビシッと宝珠を指さした。

 するとその指先から走った雷光が宝珠に吸い込まれ、石扉が動き出す。


「わあ! すごいすごーい!」


 メイはパチパチと盛大に拍手する。


「おっと!」


 しかしその先から現れたのは、十数体のミイラたち。


「【フレアストライク】!」


 一本道に並んだミイラたちは的でしかない。

 レンが放った魔法は、ミイラたちに着弾。


「……あら」


 しかし、耐えきった。

 見ればミイラたちは大盾を手に、ハニカム型の防御スキルを発動している。


「なるほど、こういう攻め方をしてくるのね」


 一本道を使ったやっかいな攻防戦。

 早くもメイは、期待の目を向ける。

 するとそれに応えるように、ランプの精が大きく息を吸い込んだ。


「うわっ!」


 吐き出された突風は、迫る盾ミイラの一団をまとめて転がした。


「すごーい!」


 メイはランプの精の肩の上で、拍手喝采。

 こうなってしまえば、あとは簡単。


「今だ!」


 重装剣士が突撃し、放つハルバードの突き。


「【アサルトブロー】」


 猛烈な突きから、わずかな間を置いて放たれる衝撃。

 隙だらけになった盾ミイラたちを、まとめて吹き飛ばした。


「なるほど、あのアサシンの言っていた通りね」

「ランプの精が、とても役に立ってくれています」


 面倒な仕掛けの続く路を、ランプの精に助けてもらいながら進む。

 それがこのルートの基軸のようだ。しかし。

 進んだ先の部屋で、閉じる扉。

 閉じ込められた部屋に現れたのは、二匹の巨大なサソリ。

 砂煙をあげながら迫るサソリは、そのまま先頭にいたランプの精を狙い撃ちにきた。

 その勢いの前には、押される一方だ。


「なるほど、ここは自分たちの力も試されるってわけだな!」


 武器を取り出す重装騎士たち。


「ランプの精さんっ! 【バンビステップ】!」


 しかし最初に動き出したのはメイ。

 剣を手に取ると、片方のサソリの前に立ちふさがる。


「こっちはわたしにお任せくださいっ!」


 迫るサソリの尾をかわし、大きく一歩踏み込んでいく。


「【フルスイング】!」


 叩きつける一撃で、即座に打倒。


「【装備変更】」


 そして頭装備を【狐耳】に換える。


「【投石】からの【投石】!」


 【狐火】によって燃える石が二連発、サソリの体勢を大きく崩す。


「それでは、最後はお願いしますっ!」


 するとランプの精は炎を吐き、倒れた二匹目のサソリを焼き尽くした。


「やったー!」


 こうして見事、二匹の大サソリも攻略。

 ランプの精と共に、腕組みポーズを決めるメイ。


「……なあ」


 そんな両者の戦いを眺めていた、重装剣士が問いかける。


「最終的には、ランプの精の方が助けられてたな」

「ああ、こんなこともあるんだな……」

「ていうか【投石】で敵のバランスを崩したりできるものなの……? あれが一番とんでもない気がするんだけど」


 最終的にはランプの精のために、燃える【投石】でサソリを弾き飛ばしたメイに、落下パーティは感嘆する。


「こういう時に、やっぱりメイはすごいんだってあらためて実感するわねぇ」

「本当です」


 助っ人のランプの精を助けるメイ。

 それに驚く落下パーティ。

 そんな光景を前に、レンとツバメはうなずき合うのだった。

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