第191話 召喚します!

 商隊を襲うブラックアリゲーターの群れ。

 三度目の増援は、キャラバンに向けて一気にはい寄っていく。


「さあ、次はメイの番ね」

「はいっ! 行ってきますっ! 【バンビステップ】!」


 笑顔の敬礼から駆け出すメイ。

 まずは防衛対象であるキャラバンの手前に向かう。

 群がってくる増援ワニは――。


「よいしょっ!」


 ワニたちの背中を踏み台にして、一気に駆けていく。


「っ!」


 そんな中、一頭のワニが跳躍。

 大きな口を開いて、メイに飛び掛かる。


「【ラビットジャンプ】!」


 大きな跳躍で、飛び掛かりを回避。


「【アクロバット】!」


 余裕の空中回転と共に、ラクダの前に着地した。

 当然、足場にされたブラックアリゲーターたちの全てがメイをターゲットに動き出す。

 猛然と迫りくるワニの大群に、悲鳴を上げる商隊NPCたち。

 メイはその距離が程よいところに来るのを待ってから――。


「がおおおお――っ!」


【雄たけび】で対応。

 メイの強烈な咆哮が、ワニたちをひっくり返す。

 そして程よい距離と隙ができたところで、右手を高く突き上げた。


「何卒――――よろしくお願いいたしますっ!」


 その手には【召喚の指輪】

 大きな輝きと共に空中に描かれる魔法陣。

 それを突き破るように降ってきたのは、青緑から橙、そして黄色のグラデーションをした彩色の巨鳥。

 長い尾羽を揺らしながら滞空し、敵ブラックアリゲーターたちをその視界にとらえる。

 そして、大きな翼を猛然と羽ばたかせた。


「「ッ!!」」


 巻き起こる猛烈な突風に吹き飛ばされ、転がるワニたち。

 その中から、中ボス級の大型個体に向けてケツァールは急降下する。

 鋭いカギ爪でその身体をつかむと、今度は一気に急上昇。

 大きな縦回転からの滑空で勢いをつけ、そのまま転倒中のワニたちに叩きつけた。


「こ、これもまた派手ねぇ。相手の大きさにもよるんだろうけど、空が使える状態だとこんなにすごい攻撃が見られるのね」

「……目つきが可愛いです」


 舞い散る大量の水飛沫が、陽光に照らされてキラキラと輝く。

 増援のブラックアリゲーターたちは、一撃で全て消え去った。

 その凄まじい威力と勢いに、感心するレン。


「ありがとーっ!」


 メイは消えていくケツァールに、ブンブンと大きく手を振り見送った。


「た、助かった……」


 商隊の代表者が、大きく息をつく。


「劇場の支配人に頼まれて助けに来たのよ」


「そうだったのか……ありがとう。しかも誰一人欠けることなく荷物も無事とは……かなりの冒険者と見受けた」


 キャラバンの面々も、安堵の表情を見せる。


「全滅もありうる状況だった。さすがあの支配人に認められただけのことはあるな……こいつは礼だ。受け取ってくれ」

「ありがとうございますっ!」


【魔断の棍棒】:魔法攻撃を弾き飛ばすことが可能。武器としては使えない。


「棍棒……」

「武器としては使えない。わりとコレクション系の『お遊びアイテム』っぽいけど……一応どんな感じか確認してみたら」


 メイは嫌な予感に震えながら、インベントリから取り出してみる。


「か、完全に原始人的棍棒だーっ!」


 ジャンルとしてはメイスに属するのだろうが、形状は完全に原始人のそれ。

 雰囲気のある古木で作られた棍棒には、紋様が刻まれている。

 その見た目は魔術の雰囲気があり、『お遊びアイテム』『コレクション』感が強い。

 ただ、インナー装備に獣耳でこの棍棒を持ったら、もう言い訳のしようがない感じだ。


「魔法が弾けるというのは、どの程度なのでしょうか」

「せっかくだし、やってみる?」

「そうだね……」


 メイは複雑そうな表情で、手にした棍棒を構える。


「いくわよ【ファイアボルト】!」

「それっ!」


 見事的中。

 火球はそのまま砂の上に落ちて消えた。


「ふふ、いいじゃない。それならこれはどう【連続魔法】【ファイアボルト】」

「それそれそれっ!」


 メイ、三連発バージョンの【連続魔法】も難なく全部を弾く。


「すごいじゃない! それなら今度は中級魔法で……【フレアアロー】!」


 飛来する炎の矢。


「えいっ!」


 これも問題なし。

 弾き飛ばされた炎の矢は、川に落ちて消えた。


「……それなら上級魔法ならどうかしら。いくわよ! 【フレアストライク】!」

「そーれえっ!」


 飛来する巨大な炎砲弾。

 しかしこれも派手な火花をまき散らしながら打ち返され、飛んで行った先で爆ぜて消えた。


「メイさんの高い【技量】と、パリィ慣れの成果ですね……」


 あまりに普通に弾いてみせるその姿に、感心するツバメ。


「…………ねえレンちゃん。少し試したいことがあるんだけどいいかな?」

「いいわよ。正直私も『見てみたい』し」


 そんな中、同じ想像をしたメイにレンが【銀閃の杖】を向ける。


「行くわよ……【フレアアロー】!」

「ここだあっ!」

「ッ!?」


 鋭いスイングによる一撃。

 メイの打ち返した炎の矢は、なんとそのままレンのもとへ。

 狙い通りとはいえ、慌てて回避するレン。

 その身に、炎がかすめていく。


「…………ちゃんとHPゲージ、減ってるわ」

「本当ですか……?」


 まさかの事態に、ツバメも驚きの声を上げる。


「弾くこと自体は本人の『タイミングを取る能力』次第。打ち返す方向は【技量】によって補正がかかる。そのうえで飛距離は【腕力】も絡んでるみたいな感じかしらね。でも武器としては使えない……これ、基本的には魔法を飛ばしてくる罠への対策だったり、仲間内での『遊び』だったりに使う装備品なんだと思うわ」

「でも、メイさんなら普通に使えるかもしれませんね」


 長いジャングル暮らしで、タイミングを取るのは大の得意。

 そのレベルの高さゆえ、技量値は高レベルの弓術師を超えるほど。

 もちろん【腕力】は、十二分に高い。


「武器としては使えなくても、【フルスイング】には『オブジェクト振り回し』効果がある。魔法を弾き返しつつ、敵を転がして衝突ダメージを与えるなんてことまで可能かも……」

「ま、また、とんでもない事態になってしまいましたね」


 新たな召喚に、新たな装備。

 その威力に、レンとツバメは思わず息をのむ。

 そしてそんな二人を前に、メイは「棍棒かぁ……」と目を虚ろにするのだった。

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