第186話 合宿の終わり

「本当に帰っちゃうのー?」


星城家の玄関。

レンの妹、香菜は残念そうに息をつく。

見事グランダリア大洞窟を踏破し、その地図を譲ったメイたちは祝福と歓声の中ログアウト。

夕方のひと時を、紅茶とクッキーを楽しみながら過ごした。

3日に渡るグランダリア合宿も、これにて終了だ。


「今度は私とも遊んでね」

「もちろんだよっ!」


 腕に抱き着きキャッキャと声をあげる香菜に、さつきも笑い返す。


「みんなが帰ったら寂しくなっちゃうなぁ」

「本当ねぇ」


 レンの母も、寂しそうに息をつく。


「可愛い娘が二人も増えて、そのうえ可憐も儀式を始めない。最高の3日間だったわぁ」

「ちょっと! 儀式は最近ずっとやってなかったでしょう!」


 母にしっかりとツッコミを入れてから、レンがドアを開ける。


「それじゃ、メイとツバメを駅まで送ってくるから」

「とっても楽しかったです! ありがとうございましたっ!」

「おせわになりました」


 大きく頭を下げるメイと、控えめにお辞儀するツバメ。

 並んで手を振る香菜とレン母に見送られて星城家を出た三人は、そのまま夕景の街を進む。


「さすがに、遊び過ぎちゃったかもしれないわねぇ」


 しっかりと三食おやつタイム付きだったとはいえ、その間はずっとグランダリア攻略に集中。

 そんな合宿を振り返って、思わず笑うレン。


「2日目の夜なんか特にそうだったわね。一度寝ようとしたのに起き出して再開した時なんか、一番やり込んでた時のことを思い出したわ」

「分かります」


 ツバメもこくこくとうなずく。


「あの時のツバメちゃんのひらめきが、あの大きな鳥の卵を取り返すきっかけになったんだよね」

「もう少し早く思いつくと良かったのですが……」


 完全に寝に入ったあとだったうえに、そのまま少し続けて遊んでしまったことを思い出して、ツバメは苦笑い。


「転がって来る大岩をメイさんが力づくで割ったのを見ていたあのパーティ、武器で岩に挑んだりしてないといいですね」

「とにかく左側通行だけ守れば問題ないのよね、あの場所」

「倒木の振り回しにも驚きました」

「あれはすごかったわね……テイマーの子も唖然としてたもの」

「あれって、飛んで来るものなんでも打ち返せるのかなぁ……」

「メ、メイならできそうね……」


 飛んできた砲弾を撃ち返して敵に当てる。

 そんな画を想像して、笑い合うレンとツバメ。


「……いい合宿になりましたね。とても、とても楽しかったです」

「そうね。こんなに夢中で遊ぶことになるなんて思いもしなかったわ」

「最っ高に楽しかったよ! またやろうね!」

「もちろん」

「はい、ぜひまたやりましょう」


 3日間の連休を一緒に過ごしたさつきたち。

 待ち合わせをした駅前にたどり着いたところで、思い出話をまた少し。

「それじゃまた明日」

「はい」

「またあしたーっ!」

 やがて名残惜しい感覚に引かれながら、三人は互いに手を振り合う。


「はぁ、本当に楽しかったなぁ……えへへ」


 夕焼けの綺麗な街並みを、ステップを踏むようにして進むメイ。

 友達の家に集まって、泊りで攻略。

 それはジャングル時代には、考えもしなかったことだ。

 思わず笑みがこぼれる。

 こうして三人の住所が偶然近かったことで始まったグランダリア大洞窟合宿は、無事幕を下ろしたのだった。


   ◆


「…………さすがに早くない?」

「まったくですね……」

「あはははは」


 夕食時を終えて一段落。

 時刻が22時を越えた頃。

 約束をしたわけでもなく『星屑』内で再会を果たした3人は、さすがに笑い出す。

 あれだけ遊び尽くしたばかりなのに、その夜にまた『星屑』の中で向かい合うメイたち。


「次はどこに行こうかしらね」

「どこでも、絶対に楽しくなります」

「うんっ! 二人が一緒なら楽しいよ。いつだって、どこだって!」


 笑い合いながら、早くも次の目的地をどうするかで盛り上がるのだった。

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