第176話 アサシンツバメ

「ここは……」


 転移結晶によってとばされたツバメの行き着いた先は、26階。

 そこは大結晶地帯だった。

 岩から突き出した無数の結晶が、不思議な輝きを放っている。


「ッ!」


 そんな中、リザードマンたちの影を見つけて慌てて身を隠すツバメ。

 リザードマンの一団は、結晶を荷車に乗せてどこかへと進んで行く。


「……後をつけてみましょう」


 ツバメは少し距離を取りつつ、結晶運びの一団の後をつけていく。

 たどり着いたのは、いくつかの転移結晶の前。

 正しい結晶を起動すると、リザードマンたちの後を追えるようだ。

 しかしツバメの位置からは、どの結晶を起動したのかは把握できなかった。


「おそらく、間違えれば罰を受けることになりますね」


 それはすなわち……罠。


「と、いうことは【罠解除】を使って反応がないものが正しい転移装置」


 ツバメは淡々とスキルによる罠の解除を行い、正しい転移装置を発見。


「……移動した先が、敵のど真ん中ではありませんように……」


 前に追いつかないよう念のため少し時間を置き、祈りながら転移を開始する。

 たどり着いたのは、洞穴の一端の広い空間。

 ツバメはその光景に圧倒される。

 卵が置かれていたフロアのような紋様入りの四角いブロックが並んだその部屋。

 そこでは結晶を火で溶かし、新たな装置を作り出しているようだ。


「……敵の数が多いですね」


 広い部屋の奥には、転移結晶が見える。

 そしてその前には、見るからにこの場を仕切っている感じの大型リザードマン。


「まずはあの大型の排除ですね……【隠密】」


 ツバメはスキルで存在を消し、トカゲたちの間をそっと歩き出す。

 この空間内にも、ところどころに結晶が配置されている。

 それらを【罠解除】で無力化しながら、少しずつ前へ。


「これは残しておきましょう」


『見覚えのある罠』を一つだけ残して、ツバメは【壁走り】を発動。

 しかし急がず、小走りで天井を進む。

 そして指示を出している大型リザードマンの上で、【壁張り付き】に切り替えジッと待つ。

 しばらくすると、大型はその動きを止めた。


「……今です」


 ツバメはここで『壁張り付き状態』を解除。

 音もなく、大型リザードのもとに落ちていく。

 そして【グランブルー】を手にしたまま、敵の頭上まで来たところで――。


「【アサシンピアス】」


 一撃必殺。

 着地の瞬間まで一切気づかれることなく、大型リザードを葬り去った。

 これぞまさに暗殺という一撃。

 しかし当然こうなれば、その姿は目視されるようになる。

 リザードマンたちは慌てて付近の結晶罠を起動しようとするが……それらは解除済み。

 そしてツバメはすでに動き出していた。

 駆け出すリザードマンたちのど真ん中に、【加速】で飛び込むと――。


「【紫電】」


 密集したリザードマンたちの間を駆け抜けて行く電流。


「【加速】【投擲】」


 動きの停まった敵の間をすり抜け、左手に用意していた【黒曜石のダガー】を設置結晶に投げる。

 ツバメは知っている。

 一つだけ残しておいたその結晶は、『卵のフロア』にあった豪火を燃え上がらせるもの。

 発動した炎の結晶は猛烈な炎をあげ、リザードマンたちを焼き尽くす。

 こうして敵の罠を利用した見事な戦術で、敵を一気に全滅へと追い込んだ。


「うまくいきました」


 敵ボスの一撃必殺から、罠を逆利用した敵の排除。

 アサシンらしい動きで敵を片付けたツバメが息をつく。すると。


「ッ!!」


 ブロックの陰から出て来た一体のリザードマンが走り出した。

 その手には、分かりやすい結晶製のベル。


「援軍は呼ばせませんっ! 【加速】!」


 ツバメはいやらしい位置に隠れていたリザードマンを追いかける。

 しかし、距離的に加速だけでは間に合わない。


「【電光石火】!」


 続け様の高速移動攻撃スキルで移動距離を稼ぐも、まだ足りない。

 リザードマンが、手にした鐘にハンマーを叩きつける。


「【アクアエッジ】!」


 まさにその瞬間、放った水刃が体勢を崩した。


「【加速】」


 再び鐘を叩きにいくリザードマンに、一気に距離を詰めるツバメ。


「【四連剣舞】!」


 放つは最大威力の連撃。


「なんとか……なりました」


 こうして増援用に置かれた個体も見事に打倒。そして。


「……なるほど、どうやら最後は影の薄い者同士の戦いになるようです」


 転移結晶の影から生えるように出て来た黒装のリザードマンを前に、そっと【黒曜石のダガー】を回収した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る