第175話 黒衣の戦い

 トカゲの集合場所を、先制攻撃で打ち崩したレン。

 しかし転移用の黄色結晶に触れようとしたその瞬間、攻撃を受けた。

 黒い炎をかわして振り返ると、そこには明らかな大物の姿。


「ずいぶんと派手なあいさつね……うっ」


 現れた大柄なトカゲを見て、レンの呼吸が止まる。

 そこにいたのは黒の鉄仮面に黒の鎧、鎖をつないだ黒い剣を持った闇のリザード騎士。


「中二病トカゲ……っ」


 同じく全身黒いレン、その姿に絶句する。


「闇の使徒同士のにらみ合いみたいになってるじゃない……」


 漆黒の剣を手にしたまま、リザード騎士は結晶の前に立ちふさがる。


「……悪いけど、ここまで来たら三人で一緒に駆け抜けたいの」


 そう言ってレンは【銀閃の杖】を構える。


「悪いけど、そこは退いてもらうわ」


 レンがそう宣言した瞬間、闇リザード騎士が突撃してきた。

 その攻撃速度は、なかなかのもの。

 しかし集中すればかわせないほどではない。

 振り下ろしからの薙ぎ払いを、無理せず回避に専念することで事なきを得る。

 輝く、スキルエフェクト。

 続く【突進突き】を避けたところで闇騎士リザードは止まり、剣を掲げた。


「今ッ!! 【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 放たれた四発の炎弾が直撃。


「全然減ってない……」


 しかしHPゲージの減りは僅少。

 どうやら剣を掲げた瞬間は、特殊な『アーマー』が付いているようだ。

 手にした剣が黒い炎を灯すと、闇騎士リザードは再び襲い掛かってくる。

 振り抜いた黒剣から放たれる、黒の炎。


「ッ!!」


 これを大きな真横への跳躍でかわすと、飛び掛かって来た闇騎士リザードが薙ぎ払いを放つ。


「あっぶな!」


 これをしゃがむことでかわそうするが、黒炎はレンの頭部をかすめHPゲージを削っていった。

 さらに闇騎士リザードは強く踏み込み、剣を掲げる。


「そんな大振りでッ!」


 これを回避するレン。

 しかし剣が地面を叩くと、闇の炎が爆発。


「きゃあっ!」


 レンを吹き飛ばした。

 すでに回避状態にあったおかげで、ダメージは3割ほどで済む。

 闇騎士リザードは追撃をかけてくる。

 剣を振ると、黒炎の弾丸が放たれた。


「ッ!!」


 これをレンが必死に転がり回避すると、闇の剣から炎が消えた。


「……なるほど。その剣は都度発動しないといけないってことね。とはいえ、発動時の隙は『アーマー』でフォローされてると」


 やっかいな戦闘方法。


「面倒な剣ね……ちょっとだけ、カッコいいけど」


 ここにきてレン、黒炎の剣にちょっと好感を覚える。


「でも、そういうことなら」


 そして同時に『糸口』も見つけ出す。

 再び襲い掛かってくる闇騎士リザード。

 ここでもレンは回避に専念。

 丁寧な挙動で、しっかり敵の攻撃をかわしていく。

 するとやがて、闇騎士リザードが暗黒の剣を掲げた。


「きたっ!」


 レンは杖を掲げ、魔法を発動する。


「【設置魔法】【フリーズストライク】!」


 この明確な隙の利用方法。

 それは攻撃ではなく『設置』だ。

 闇騎士リザードは剣の黒い炎が灯ると、当然レンに直接攻撃を仕掛けに来る。

 そして迷わぬ一直線の進攻で、狙い通りその足で魔法陣を踏んだ。

 輝く魔法陣、氷塊の一撃が直撃。

 2割ほど、HPゲージが減少した。


「【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 ノックバックしたところに、さらに攻撃魔法を放つレン。

 闇騎士リザードはこれをかわし、わずかに距離を取る。

 すると剣から黒い炎が消えた。時間切れだ。

 こうなればレンに死角なし。

 今度は炎、氷の【連続魔法】でけん制しつつ、時間を稼ぐ。

 程よい距離に敵を抑えつつ、剣に黒い炎を灯したところで――。


「【設置魔法】【フレアストライク】!」


 すぐさま魔法を設置する。


「さあ来なさい!」


 しかし黒炎をまとわせた剣を持ち、接近してくるトカゲはここで跳躍。

 レンの張った【設置魔法】の陣を、なんなく飛び越えてくる。


「さすがボス級ね。でも、そのやり方はもう覚えがあるの【誘導弾】【フリーズストライク】!」


 大きな跳躍がアダとなる。

 空中にいる相手は【誘導弾】を使うことで、いい的になる。

 放たれた氷塊は見事に直撃し、闇騎士リザードは吹き飛んだ。

 これだけでは終わらない。

 吹き飛ばされた闇騎士リザードの落下点に、魔法陣。

 発動した【フレアストライク】が、続けざまに炎を噴き上げる。


「やった!」


 思わず杖を振り上げて喜ぶレン。

 闇騎士リザードのHPゲージは、残り3割を切った。


「さあ、ここからよ」


 レンは気合を入れ直す。

 いよいよHPの減った闇騎士リザードは、怒りに満ちた表情で黒剣を掲げた。

 すると今度は、これまで以上に大きな黒炎が刀身に宿る。

 走るエフェクト。

 次の瞬間、炎のなぎ払いが付近一帯を駆け抜けていく。


「ッ!!」


 剣筋に合わせて走る黒炎。

 これを大慌てでかわすと、すでに闇騎士リザードは目前にいた。


「速度が上がってる……っ!」


 放たれる強引な振り回しの剣撃は、辺りかまわず黒炎爆破を巻き起こす。

 全ての攻撃が範囲を広げ、威力も上昇しているようだ。


「これ……マズいわ」


 かすめた炎がHPゲージを削っていく。

 近接職の全力攻撃には反撃も狙えず、もはや回避よりも逃避に近い状況だ。

 続く怒涛の攻勢の中、輝くライトエフェクト。


「ッ!!」


 放たれる五連撃は、その全てが爆発を巻き起こす。


「きゃああああっ!」


 直撃こそ避けたものの、爆発に巻き込まれたレンのHPは1/4ほどまで減少。

 闇騎士リザードは、とどめを刺しに来る。

 喰らえば死に戻り確定だ。


「くっ! 【ファイアウォール】!」


 とっさに放つ炎の壁。

 燃え上がる炎に、闇騎士リザードが弾かれた。


「【フリーズブラスト】!」


 レンは【魔剣の御柄】に冷気を宿して走り出し、敵の懐に突撃。

 対して闇騎士リザードは、黒炎の剣を振り払いにいく。

 交差する両者。

 黒炎の剣が頭部に迫るが、レンは止まらない。

 一呼吸早く敵腹部に魔剣を叩き込み、冷気の刃で敵リザードマンを貫いた。


「……悪いわね、メイたちのところに帰らないといけないの――――解放」


 そうつぶやいて、背を向けるレン。

 指を鳴らすと、氷結した闇騎士リザードは粉々に砕け散った。


「自分が近接型じゃないってことを、忘れちゃダメねぇ」


 間一髪の勝利に、思わず苦笑い。

 結晶の背後に置かれていた宝箱を開いて、『黒の宝珠』を拾い上げる。


「これも、リスポーンしたらダンジョンギルドに没収されるアイテムね」


 こうして謎の集会所を殲滅したレンは、ようやく転移結晶のもとに。


「これで行き先が敵のど真ん中なんてオチじゃなければいいけど……」


 そうつぶやきながら結晶を発動。


「早くメイやツバメと会いたいわね。やっぱり、三人一緒が楽しいわ」


 祈るようにしながら、転移の光に身を任せた。

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