第164話 リザードマン

「ワクワクしちゃうねぇ」

「本当ね」

「足も弾んでしまいます」


 グランダリア史上、初めて発見された隠し通路を行くメイたち。

 階段を下り、地下16階の洞穴を進んで行く。


「ッ!!」


 メイが手を伸ばし、ツバメの進攻を制止する。

 するとその直後、炎の付いた矢が足元に突き刺さった。


「敵の攻撃だ! 身を隠せ!」


 続く矢での攻撃を想定して、商人たちは近場の岩陰に身を隠す。


「なっ!?」


 そして足元に描かれた魔法陣から走るオレンジの輝きに、身体を縛られた。


「しまった! 動けねえッ!」


 バインド罠にかかり、動きを止められる採掘商人たち。


「来やがった! リザードマンだ!」


 すると次の瞬間、向かいの岩陰から一体の重装リザードマンが飛び出して来た。


「……ト、トカゲだぁー!」


 二足方向になったトカゲに、思わず大きな声を上げるメイ。


「罠は私が解除します」


 ツバメがバインドの解除に動き出す。


「ここは分かりやすく壁や足元に『ヒビ』を入れてるわ! 攻撃には気をつけて!」

「りょ、りょうかいですっ! 【アクロバット】!」


 突撃して来た重装トカゲの大剣薙ぎ払いをバク転でかわす。

 すると重装トカゲはスキルを発動、残像を残すほどの勢いでタックルをかましてきた。

 メイはこれも足の引き一歩で避け、反撃に入る。


「ッ!?」


 そこに駆け込んで来たのは、魔法剣士型のリザードマン。

 早い振りの片手剣をメイがかわすと、そのまま空いた方の手で魔法を放つ。


「うわっと!」


 これを慌てて避けるメイ。

 そこへ再び火矢が。


「うわっととと! 敵もパーティなのっ!?」

「はいストップ! 【連続魔法】【フリーズボルト】】!」


 特攻してくる重装トカゲは、レンが足止め。

 メイが魔法剣士型の早い連撃をかわすと、再度敵の手中に輝く魔法の光。


「がおおおおーっ!」


 これを【雄たけび】で強制停止。


「【フルスイング】!」


 強い踏み込みから放つ大きな一撃で、粒子に変える。


「【誘導弾】【フリーズボルト】!」


 レンはここで、わずかに岩陰から身体を出した弓トカゲをけん制。

 この隙を重装型は見逃さず、すぐさま突撃を仕掛けてきた。

 しかしレンは慌てない。

 ここで戦闘の開始と同時に仕掛けた【設置魔法】【フリーズボルト】が発動。

 その足が再び止まったところで――。


「せーのっ! 【フルスイング】!」


 背後から飛んできたメイの一撃が決まり、そのまま消え去った。


「罠解除、終わりました!」

「助かった!」

「これであとは弓使いだけだなぁ!」


 残された弓使いの選択は、意外にも後退だった。

 燃える矢でけん制しながら、ダンジョン内を逃げていく。


「俺たちの勢いに押されたかぁ!?」


 その姿に意気込む商人たち。

 再び狙撃を受けないよう、ここで追討することを決める。

 すると弓リザードマンは、逃げ込んだ一本道の最奥で足を止めた。

 そこにあるのは、少し広い円形の空間と横穴。

 そして、古井戸のポンプを思わせる大きなレバー。

 あらためて見ればこれまでのリザードマンより一回り大きなその個体が、レバーを引く。

 震え出す岩場、なり出す重い音。


「何の音だ……?」


 聞こえてきた音に、メイが顔を上げる。


「これ、水の音だよっ!」


 奥の壁に空いた穴から、水が一気に流れ出す。


「お、おい、ウソだろっ!?」

「地底湖の水には、こういう使い方もあるのね……っ」

「水計とは……軍師の様です」


 ここは一本道の途中。

 強い水流が足を止め、前にまったく進めない。


「これマズいぞ! 身動きの一つも取れねえッ!」

「お、おい見ろ……あいつこの状態で一人ずつ狙い撃つ気だ……っ!」


 その場にとどまるだけで限界の状況下。

 見ればリザードマンは、こちらに弓を向けていた。


「流されても、とどまってもリスポーンってわけか……!」


 いよいよ慌てふためく商人たち。


「ここは、わたしにお任せくださいっ!」


 そんな最悪の状況下で、動き出したのはメイ。


「【アメンボステップ】!」


 強くなっていく水流の表面を、強く蹴って走り出す。


「ッ!!」


 気づいたリザードマンは、水流を駆け上がって来るメイを狙い撃ちにするが――――当たらない。

 後は一人ずつ狙い打っていくだけのはずだった弓手の矢は、次々にかわされていく。


「な……なんだあれ……」

「すっげえ……!!」


 感嘆の声をもらす商人たち。

 水面を自在に駆けるメイは、勢いのままに跳躍する。

 突き付けられる弓。

 しかしそれが放たれる前に――。


「大きくなーれ!」


【蒼樹の白剣】で放った突きが、【密林の巫女】によって大きく伸長。

 そのまま弓リザードマンを貫いた。

 メイは消えていくリザードマンの横を駆け抜け、レバーを引く。

 すると水流は停止。

 水はすぐに引いていった。


「みなさーんっ、大丈夫ですかーっ!?」

「助かったー!」

「ありがとよー!」


 ブンブン手を振るメイに、商人たちも手を振って応える。


「よかったあ」


 パーティによる戦闘、罠を使った攻撃。

 恐ろしいリザードマンたちの攻勢とまさかの危機も、全員無事に突破した。


「…………」

「メイ、どうしたの?」

「うん……トカゲたちも進化してるんだなぁと思って……」


 感慨深そうに虚空を見つめるメイ。

 レバーの隣に空いた横穴に入り、16階を進む。

 しばらく進んだ先でたどり着いたのは、半球状の空間。


「きれい……」

「すごいわね……」

「こんな光景初めて見ました……」


 壁全体が鈍い金の輝きを放つ、マーブル模様の採掘場。

 その光景に、思わず呆気にとられるメイたち。


「見たことねえ輝きだ……っ」

「ああ。グランダリアでは初めて見る場所、初めて見る鉱石だ」


 一方採掘商人たちは、ギラギラとその目を輝かせていた。


「行くぞお前ら……採掘の時間だァァァァ――――!!」

「「「おお――ッ!!」」」


 まだ見ぬ鉱石を前に、全員が一斉に駆け出した。

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