第131話 抜け出せ妖気町!

「確実に姫を殺しに来てるわね……」


 ヌエの一団を打倒し、植物のツルで拘束しておいた姫を開放する。

 付近の仕掛けを使い尽くしたのか、姫はせわしなく辺りを見回してはいるだけで動きなし。


「大忙しだったねぇ」

「早いところ姫を連れて裏ヤマトを出たいところだけど……出口はあの、あからさまに光ってる大鳥居かしら」


 妖気町の東西南北に置かれた光る鳥居。

 温かな光の感じは、元の世界へ戻るゲートで間違いない。

 さっそくメイたちは、光る大鳥居目指して歩き出す。すると。


「あら、なんでしょう……」


 姫の胸元にさげられた首飾りが、突然光出した。


「まあ、当然本番はここからよね」


 家紋が刻まれたその首飾りを目印にするかのように、現れる上半身のみの骸骨。

 妖気を放ちながら浮遊する、その大きな化物の名は。


「ガシャドクロだわ」


 メイたちは姫を中心にして、四人で囲むような陣形を取る。


「【電光石火】!」


 ツバメはさっそく、ガシャドクロに先制攻撃を仕掛ける。


「ッ!?」


 しかし武器がすり抜けるような形になり、ダメージはなし。


「【フレアアロー】!」


 続くレンの魔法を喰らうと、霧散して消えた。


「物理攻撃では倒せないのね。メイは【狐火】ツバメは【アクアエッジ】を使ってみて」

「りょうかいですっ!」

「分かりました」

「私は身体を張って姫を守ります!」


 妖気が新たに密集し、現れる三体のガシャドクロ。

 低空飛行で、一気に姫へと襲い掛かる。


「【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 これを早い連続魔法で対処。

 しかしその隙を突き、背後から現れた二体がレンに喰らいつきに来た。


「【アクアエッジ】!」


 助けに入ったのはツバメ。

 二体を一撃で撃破したものの、新たに生まれた個体に腕をつかまれた。

 次の瞬間、ガシャドクロが異常な光に包まれる。


「ッ!!」

「【ソードバッシュ】エクスプロード!」


 放たれる青炎の一撃。

 残った最後の一体は、メイが撃破した。


「メイさん、ありがとうございます」

「いえいえー」

「最後のは【自爆】っぽいわね。突然現れる上に単純な物理攻撃は通じないって、やっかいな敵ねぇ」

「……まだまだ、来そうですよ」


 再び現れたガシャドクロたちを見ながら、構えるマーちゃん。

 するとここで、突然姫が一歩前に出た。


「わたくしも加勢いたします!」


 その手を掲げると、首に掛けた紋章が強く輝き出す。


「えっ、ここからは姫も参戦するの!?」

「意外な能力を持っている可能性が?」

「いきます!」


 姫は気合十分で、ガシャドクロへ走り出す。

 その手には、分かりやすいおもちゃの刀。


「やっぱりもう一回縛ってーっ!」

「大きくなーれっ!」


 即、姫を拘束。


「【アクアエッジ】【四連剣舞】!」


 姫狙いで飛び込んで来た個体を、慌ててツバメが水刃で迎撃。


「ファイアボム!」


 皆の視線をかいくぐるようにしてやって来ていた個体も、気づいたマーちゃんがアイテムで攻撃。


「威力がないので、足止め程度にしかなりませんが」

「助かったわ! 【ファイアボルト】!」


 最後はレンのファイアボルトで、危機を回避した。


「……もしかしてこれ、姫がいる限り無限に湧くのかしら」


 即座に新たな個体が生まれるのを見て、レンがこぼす。


「私はそう思います」

「それなら一気に出口を目指しましょう! ここにいたらMPがもたないわ」

「はいっ!」


 いい返事のメイを先頭に、光る鳥居を目指して走り出す。

 しかし姫を連れてひたすらに逃げを打つ作戦は、『勝敗』をつけさせたい運営が一番嫌う形。


「ヌエが来ますよ!」

「こっちからもです!」


 右から、そして左からもヌエの軍勢が迫り来る。

 追手のガシャドクロも次々に数を増やし、追手は立派な一団になっていく。

 運営、『逃げるヤツは殺す』意向を表明。


「それでも……このまま逃げ切りさえすればっ!」


 幸い姫の足は遅くなく、残る距離もそう長くない。

 このまま大鳥居までたどり着ければクリアは間違いなしだ。しかし。


「閉じ込められてるわ!」


 大鳥居へと続く路に置かれた鉄の門。

 追って来る妖怪たちに捕まれば、パーティはともかく姫は助かりそうにない。


「レンさん、これ!」


 門を押し開けようとしたツバメが指を差す。

 そこにあったのはHPゲージ。


「やったわ! お願いメイ! ここは攻撃力が鍵になるみたい!」

「りょうかいですっ! 【ソードバッシュ】!」


 放つ一撃が、大きく門のゲージを減らす。

 本来なら多人数で一斉攻撃して開ける門も、メイならどうにかできそうだ。


「ッ!!」


 迫るヌエの放った雷は、姫の身代わりになったマーちゃんに直撃。


「【ソードバッシュ】!」


 さらにガシャドクロたちが始める【自爆】

 ツバメは【加速】で姫に飛び掛かり、これをギリギリのところで回避する。


「【ソードバッシュ】だああああ――――っ!」


 そして三発目でついに、鉄門が吹き飛んだ。


「行きましょう!」


 そのまま五人、大鳥居へ向けて全力疾走。


「うわ! レンちゃん、なんか大きいのも来たよ!」


 そこに現れたのは、民家を超える大きさのガシャドクロ。

 発動する【妖術】スキルがなんと、姫を三人に増やす。


「何よこの地獄。最悪の事態じゃない!」

「この妖怪め! 私が成敗いたします!」


 怒る姫たちは、おもちゃの刀を手にガシャドクロへ向けて走り出す。


「メイ、もう一回お願い! 容赦は要らないわ!」

「おまかせくださいっ! がおおおおーっ!」


 メイは全力の【雄たけび】で、三人の姫をまとめて吹き飛ばす。

 すると偽物はかき消され、本物だけがすっ転んだ。

 そこへ喰らい付きに来た、三体の巨大ガシャドクロ。

 誰もが、「マズい」と表情を凍らせる。


「お姫様ごめんなさいっ!」


 そう言ってメイは、両手を合わせると――。


「【装備変更】! とつげきーっ!!」


 そのまま姫に【突撃】を叩き込んだ。


「きゃあああああああーっ!」


 姫はそのままごろごろ砂煙を上げながら、大鳥居を転がり出ていった。



   ◆


「帰ってこられたー!」


 ギリギリのところで妖気町を抜け出たメイたち。

 出た先は、裏ヤマトへ入る際に使った地味な大鳥居。

 転がり出た姫もオブジェクトにぶつからなかったため、衝突ダメージはなし。

 安堵の息をつくメイの隣で、満足そうに笑う。


「……助けていただき、ありがとうございました! とっても楽しかったわ、また遊びましょう!」

「「「間に合ってます」」」

「あはははは」


 声をそろえるレンたちに、笑うメイ。

 無事、ミッションクリア。

 満足げな足取りで帰って行く姫の後ろ姿は、姫転がしのせいでもうズタボロだ。

 そんな姿を見て、笑い合う四人。


「……勝ちたいですね」


 不意に、マーちゃんがつぶやいた。


「今年こそ、皆さんと一緒に……!」

「がんばりましょう!」


 拳を握って応える地軍将メイに、うなずくレンとツバメ。

 マーちゃんも、「はいっ」と笑顔で応えた。


 そして『ヤマト天地争乱』は、最終局面へと突入する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る