第116話 迫る暗殺者たち

「接敵から一分で全滅だと……? 先行部隊は1000人だったはずだぞ!」


 開戦と同時に送り込んだ部隊の壊滅を聞き、驚くグラム。


「あっという間でした……本当にあっという間に皆消し飛んで……」

「すごいねぇ。いきなり攻め込まれてびっくりしただろうに、返り討ちにしちゃうだなんて」


 ローランは、素直に感嘆の声をあげた。


「たいしたもんじゃねーか。あたしは初手で終わっちまう可能性もあると思ったんだけどな」


 金糸雀は、城下を見下ろしながら大あくび。


「ふん、今年は多少優秀なやつがいるようだな」


 だがグラムはまだまだ余裕を崩さない。

 天軍には、それだけのプレイヤーがそろっているのだ。


「開戦と同時の突撃は防がれた。ならば、次の手を打つぞ」

「どうするつもりなの?」

「次は……少数精鋭による将軍の暗殺だ」


 グラムは、ニヤリと笑って指示を出す。


「過去数年にわたって同じイベントに参加している顔ぶれだ。敵城内の仕掛けも大体予想できる。去年もこいつらは地軍首脳陣を引っ搔き回してくれたからな!」


 こうしてメイを狙う暗殺部隊が、地軍城へと向けて放たれた。


「音もなく現れる暗殺者たち。今度は間違いなく腰を抜かすことになるだろう! わっはっは!」



   ◆



「ま、まさか、将軍役自ら戦線に出るなんて……」


 死んだら即終了の将軍、自らの出陣。

 商人プレイヤーこと『マーちゃん』は、口を開けたまま硬直していた。


「しかも無傷で追い返すって……何がどうなってるんですか……?」


 新技【狐火】を実戦投入し、1000人もの先行部隊を壊滅させたメイ。

 常識的にあり得ない事実を立て続けにぶつけられて、マーちゃんは愕然とする。


「ええと、驚かせちゃってごめんなさいね」


 将軍であるメイ本人の特攻は、さすがにやり過ぎたかと思わず苦笑いするレン。


「緒戦は勢いづけておきたいって思ったの」


 レンとツバメにしては当然の結果も、初見のマーちゃんには信じられない出来事だ。


「【狐火】は今回、いい武器になりそうですね」

「うんっ。青い爆発がドーンッてなるのすっごく楽しいよ、ちょっと『エクスプロード』を『えくしゅぷろーど』って言っちゃいそうだったけど」


 噛んじゃいそうだよと言いながらも、うれしそうに笑うメイ。

 不意に、その【狐耳】がピクリと動いた。


「どうしました?」

「…………なにか、変な音がしたような」

「音ですか?」

「うん。人が倒れたような音だったかな? あとなんだろう……重い物が動く音?」

「それって、暗殺部隊じゃない?」

「可能性はありますが……どうして分かったんですか? そんな音、私には聞こえませんでしたが」


 マーちゃんは辺りをキョロキョロ、耳をそばだてる。


「人が倒れる音は、見張りがやられた音。物が動く音は罠とか仕掛けが解かれた音でしょうね……メイは一応、壁を背にしておいて」

「りょうかいですっ! あっ、また何人か倒れたよ。あっちの方」

「そっちの方向にも、見張りが数人いるはずです……!」


 暗殺部隊の接近が一気に現実を帯び、マーちゃんが緊張し始める。

 すると次の瞬間。


「うわああああーっ!」


 爆発音と共に、悲鳴が鳴り響いた。


「間違いありません! 敵が上がってきます!」

「……でも、足音は上に向かってるよ?」


 メイはそう言って、指を天井に向けた。


「なるほどね。急な悲鳴と爆発で城内の階段へ意識を集中させておいて、外壁から突入って感じかしら。それなら動く必要もないわ。マーちゃんもここにいて」

「え、で、でも状況を把握しないと……って、どうしてそんなに落ち着いてるんですか!?」

「大丈夫よ。もう来ることは分かってるんだし、この部屋なら逃げ場もない」

「……逃げ場が……ない?」


 レンの言葉の意味が分からず、首を傾げるマーちゃん。すると。

 見るからに暗殺者然としたプレイヤーが三人、屋根の上から飛び込んで来た。


「本当に上から来ましたッ!!」


 マーちゃんは、悲鳴にも似た叫び声を上げる。


「――――殺れ」


 速さ自慢の暗殺者が四人、メイを狙って目にもとまらぬ速さで特攻してくる。


「【連続魔法】【ファイアボルト】」

「【加速】【電光石火】」


 レンとツバメの連携で止まった暗殺者は、一人だけ。


「もらったああああ!!」

「メイさぁぁぁぁーん!!」


 地軍将メイに向けられる刃。

 マーちゃんは、その顔を再び青ざめさせる。


「がおおおおーっ!」


 最上階の間に、逃げ場なし。

 それは、暗殺者たちにとっても退避ができないということだ。

 壁を背にしたメイが放つ【雄たけび】を、避けられようはずがない。


「「「ッ!!」」」


 暗殺者たち三人全員が、ビクりと足を止める。

 そうなってしまえばもう、結果は語るまでもなし。


「【ソードバッシュ】!」


「な、にぃぃぃぃっ!?」


 将軍のもとにまでたどり着いた三人の暗殺者たちは、メイの一撃で退場となった。


「やったあ!」

「区切られた空間にメイと一緒になっちゃったら、お終いなのよ」

「逃げ場がないって……暗殺者たちのことを言っていたんですか……」


 精鋭の暗殺部隊をあっさり返り討ちにして、レンやツバメとニコニコでハイタッチを決めるメイ。

 一方マーちゃんは、驚きの連続にひたすら困惑するのだった。

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