第115話 開戦です!

 ヤマトの左端、その最奥に作られた平城。

 それは『天軍』の本拠地だ。


「だがあのメイとかいうヤツ、まさか地軍の将になるとはな」


 小柄な体型に長い白髪。

 腕に青と金の腕章をした、生意気そうな顔つきをした一人の少女。

『星屑』でもトッププレイヤーの一人として名を馳せる彼女は、グラム・クインロード。


「将軍に任命されるってことは、そこそこ高レベルのプレイヤーだったんだね」


 応えた少女は、ポニーテールにさわやかな笑顔。

 頭部と脚元だけに西洋鎧を着けた、ローラン・アゼリア。


「宣言通り、我が力をたっぷりと思い知らせてやる。このグラム・クインロードの名と共にな。わっはっは!」


 グラムは得意げに笑う。


「ローランも見ていただろう? この私が天軍将に任命された時の盛り上がり方を。ふっふっふ、何度思い出しても最高だ」


 天軍のメンバーは勝利を確信してわき立ち、地軍のメンバーは意気消沈。

 まさにそんな感じだった。


「でも、メイちゃん可愛い子だったよね」

「ああ、本当だよな!」

「「…………」」


 突然テンションを変えた長い金髪の少女を、じっと見るグラムとローラン。

 彼女はグラムのパーティの三人目。金糸雀だ。


「カナリアは本当に、可愛い女の子が好きだねぇ」

「うっ。しかたねえだろ。あんな可愛いのが三人もそろってたら。しかも猫耳までつけててさ」

「カナリアがうちのパーティに入ったのも、グラムがお目当てだもんね」

「し、しらねえよ」

「おい! 私をどんな目で見ているのだお前はー!」


 地団太を踏むグラム。

 すると天軍城の最上層に、一人の剣士がやって来た。


「そろそろイベントが始まりますが、我々はこのまま待機でよいでしょうか?」


 過去7年に渡って驚異的な連勝を重ねてきたグラムは、すでに指揮官のようになっていた。


「そうだな……今回は過去一番人数が集まったんだったな」

「はい。その通りです」

「それなら、まずはあのメイとかいうヤツをビビらせてやろうではないか。開始と同時に敵城へ攻勢をかけるんだ!」

「開始と同時にですか! それは相手も驚きますね」

「ふっふっふ、そうだろう。ヤツにはしっかりとこのグラム様のすごさを思い知らせてやらんとなぁ!」

「では何人ほど行かせますか? 300……いや、500人ほどで押しかけますか?」

「――――1000人だ」

「い、いきなり1000人も……っ?」

「まさか開始と同時に城を狙ってくるとは思わないだろう。その驚きに加えて数による脅威まで与えてやるのだ!」

「おおっ! さすがグラムさん!」

「ヤツもさぞかし驚くだろうな。なんだったらそのまま地軍将を打ち取ってもいいぞ? 今年は天軍勝利の最速記録が生まれるかもなぁ。わっはっは!」


 始まる戦いを前に、グラムは高らかに笑い声をあげた。



   ◆



「い、いきなり攻めて来たんですかッ!?」

「ああ! しかも1000人以上いるぞ!」

「……せ、せんにん?」


 味方の報告に、商人プレイヤーの顔が青ざめる。


「こっちはまだ人員の配置もできてねえんだ……っ。なにせ人数が少ないからな」

「いきなり大変なことになってるわね」

「まさか開始早々、突撃を仕掛けてくるとは思いませんでした。しかも正面から堂々とだなんて……っ」

「なめられてるわねぇ」


 城の最上層から見れば、碁盤目状のヤマトの通りを真っすぐに突き進んでくる大軍がある。

 グラムがけしかけた、天軍の先行部隊だ。


「まぁそういうことなら、こっちからもあいさつしておこうかしら」


 レンはゆっくりと立ち上がる。

 手にした杖を【銀閃の杖】から【ワンド・オブ・ダークシャーマン】へと変更。

【敏捷】を大きく下げた代わりに【知力】の値が跳ね上がる。

 それから商人プレイヤーに、城下を見張るようにお願いしておく。

 もちろん『中二モード』を見られるのが恥ずかしいからだ。


「【魔眼開放】【コンセントレイト】」


 レンの左目が金色に輝き、魔力が収束を始める。

 狙いは天軍の突撃部隊。

 その先頭集団だ。


「いくわよ!【魔砲術】【フレアバースト】!」


 城の最上層から猛烈な勢いで放たれた爆炎は、そのままヤマトの空を駆けて行く。


「なんだあれ……う、うわああああああ――――ッ!!」


 一撃で100人を超える天軍プレイヤーが粒子に変わり、付近一帯のプレイヤーも大きなダメージを負う。


「おい、この魔法は何だ!? どこからこんな威力の魔法をウオオオオ――――ッ!?」


 続く二撃目の【魔砲術】が天軍先行部隊に、甚大な被害を与える。

 突然の窮地。

 しかしこれだけでは終わらない。

 レンの魔法が巻き上げた砂ぼこりが晴れると――。


「いっくよー!」


 そこへ駆け込んで来たのはなんと、地軍将メイ。


「お、おい、あれって将軍だろ!?」

「なんで自分から戦場に!?」

「【ラビットジャンプ】!」


 慌てふためく天軍プレイヤーをしり目に、メイは大きく跳び上がる。


「ジャンピング【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」

「【ソードバッシュ】だあ!? 何で今さらそんな基礎技をぼろげあぶらっ!!」

「な、なんだこれ!? めちゃくちゃ強いうおおおおーっ!?」


 わずかな剣の振りで、400人を超えるプレイヤーが吹き飛び消えた。


「もう一回! 【ラビットジャンプ】!」

「来るぞ! 硬いやつは前衛で防御、それ以外はその背後で守りに入れ!」


 来たるメイの一撃に備える、敵プレイヤーたち。


「【装備変更】」


 するとメイは、装備を【猫】から【狐】に変えた。


「いっくよー! わたしの新しい必殺技!」

「来るぞ! 威力のおかしい【ソードバッシュ】だ!! 守れ! 守り抜けーっ!!」

「【ソードバッシュ】!」

「おわああああーっ!!」


 消し飛ぶ前衛。

 だが完全な捨て駒になった彼らのおかげで、生き残ったプレイヤーも多数。

 メイ打倒に向かって即座に動き出す。しかし。


「――――エクスプロード!!」

「グアアアアアア――――ッ!!」


 わずかに遅れて発生した青炎爆破が、付近一帯を焼き尽くす。

【狐火】を用いた一撃で天軍先行部隊は散り散りとなり、早くも全壊と言える状況に追い込まれた。


「……行くぞ、この隙を狙うんだ」


 そんな先行部隊をオトリに動き出す、将軍狙いの暗殺者。


「――――アサシンピアス」

「……な? ……一撃で?」


 天軍の先行部隊は一気に瓦解し、そのまま散開。

 さらにその隙を狙おうとしていた暗殺者も、メイのド派手な活躍に目を奪われたのが失敗だった。

 ツバメの一撃で、即退場。


「初陣はどうでしたか、メイさん」

「もちろん楽しかったよー! ツバメちゃんもかっこよかったね!」


 ツバメの問いに、狐装備のメイは満面の笑顔で飛びついてきた。


「うっ。か、かわいい……っ」


 圧倒的な数的不利をたった三人で覆してのスタート。

 開始と同時に思い知らされることになったのは、天軍の方だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る