第108話 千本鳥居を通過して
山道には、ギッシリと朱色の鳥居が並んでいる。
闇夜の中、かがり火が鳥居を照らし出す様子は神秘的だがどこか恐ろしい。
「ドキドキしちゃうねぇ」
「はい」
レンにしがみつくメイと、そんなメイの腕を取るツバメは「きゃっきゃ」しながら歩を進める。
「……別れ道ね。メイはどっちだと思う?」
「んー、こっちかな」
レンはメイの選んだ方へ迷わず進路を取る。
鳥居によって作られた道は、どちらも先が見えない状況だ。
「こんなに簡単に決めちゃってよかったの?」
一秒も迷わず道を決めたレンに、メイが首と尻尾を傾げる。
「ふふ。そこはほら、野生の勘に頼らせてもらおうと思って」
「は、外れていますように……っ! あれ、でも外れてたら先に進めないのかな?」
野生の勘が鋭くなっている疑惑とクエストクリアの間で、頭を悩ませ始めるメイ。
「こっちで正解みたいね」
「さすがメイさんです」
「うぐぐ。うれしいような、うれしくないような……っ」
そこからはまた、ひたすら鳥居の路を進む。
道が分かれてはいるものの、すぐに合流しているため、悩むことなく右側の道を選び続けてきた三人。
「待って……これおかしいわね」
不意に、レンが足を止めた。
「私もそう思っていたところです」
「え? どこかおかしいかな?」
「さっきから同じところを通ってるのよ」
「本当?」
「この階段と階段の間にある踊り場が起点になってるのね。多分、左右の道選びを間違えると戻される形なのよ」
「本当? ちょっと行ってみるね! バンビステップ!」
そう言い残して、階段を駆け上がるメイ。
「むぎゅ」
すぐに戻されて、レンの背中にぶつかった。
「ほんとうだー!」
わざと最初のところで間違えて、同じところをグルグルしてみるメイ。
その度にレンの背中に抱き着いて止まる。
「えへへ」
「ふふ、何度も行ったり来たりして覚えろってことなんでしょうね」
楽しそうなメイに、レンも思わず笑みがこぼれる。
「ですが……」
最短の攻略法がすぐに思い浮かんだ二人は、同時にメイを見る。
「そっか、そういうことだね! 【裸足の女神】!」
念のため、他にプレイヤーがいないか確認。
「それでは行ってまいります! 【バンビステップ】!」
メイは裸足になって駆け出した。
求められるのは、正解の路順を覚えていく事。
そんなトライアンドエラーは、メイの移動速度にもってこいだ。
高速移動で、ドンドン正しい順路を割り出していく。
「終わったよー!」
「ありがとう。運営側はもっと時間をかけて迷って欲しかったんでしょうね」
メイを先頭にして、歩き出す三人。
ここぞとばかりにレンは、メイの腕にしがみつく。
すると、足元を一匹の猫が駆け抜けて行った。
「あっ、かわいい! …………あれ」
「メイ、どうしたの?」
「次、どっちだったかな……」
「……まさか今の猫、これが狙いだったの!?」
「なんという策士ですか」
運営の仕掛けた思いがけない精神攻撃に、驚かされるレンだった。
◆
「あとは右右、左、左右でゴールですっ!」
「それじゃ、手を放すわよ」
猫を見つけたメイが道の左右を忘れてしまわないよう、目隠しをしていたレンが手を放す。
そんなレンの背をツバメが押し、三人はメイを先頭に並んで迷いの鳥居を登ってきたのだった。
「わあ……」
そこには、狐火を燃やす一匹の狐がいた。
「……我は空狐。九尾の見張り役だ。ヤツを封じて早数百年になるが、ここにやって来たのは汝らが初めてだ」
そう言って空狐は、狐火を燃え上がらせる。
「迷いの鳥居は、この狐火が消えるまでに抜けられなければヤマトに戻される仕組みになっていたのだが、よくたどり着いたな」
「時間内に正しい路を見つけなきゃ強制送還だったの? また厳しいわねぇ」
「この先に進めば、裏のヤマトに閉じ込められた九尾がいる。そして汝らは迷い人ではない……ヤツに、挑みにきたのか?」
「はいっ!」
元気に応えるメイ。
真面目な表情で語る空狐だが、ツバメはそのふさふさの尻尾に夢中だった。
「かつてヤマトを手中に収める寸前にまで迫った、恐るべき相手だぞ」
「がんばります!」
「そうか。汝らが勝利した暁には我も自由の身となる。解放された時は、かつて共に戦った陰陽師の子孫でも訪ねてみようか」
「犬神に嚙まれて謝り倒してるわよ」
「……ぶ、武勲を祈るぞ、冒険者たち」
陰陽師の現状を伝えた三人は、先へと進む。
やがて山頂にたどり着くと、この山が大きなクレーターのようになっていることが分かった。
登って来たのはその外側。
今メイたちが立っているのは、そのフチの部分だ。
そして大きなくぼみの中央部分には、白金の毛並みを持った巨大な狐が丸くなっていた。
九本の尾を持つ化け狐の迫力は、かなりのものだ。
「……ジャングルで戦った、守神以来のサイズ感ね」
神々しいほどの妖気を放つ、九尾の狐。
三人はゆっくりと、九尾のもとへと続く坂を下って行く。
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