第97話 陰陽師の頼み事

 一通り【密林の巫女】用の種を買ったメイたちは、再び大通りを行く。

 ヤマトも、ラフテリアに負けない大きな街だ。

 新しい街の見知らぬ風景に、足取りもついつい軽くなる。


「あっ、この先に神社があるみたいだよ」

「行ってみましょうか」

「うんっ」


 たどり着いたのは、町屋の並びに建っている神社。

 全体をギュッと小さくまとまめた感じが、どこか可愛らしいたたずまい。

 少ない段差の階段を上がり、三人は社の前へ。


「とりあえず、お参りは基本でしょうね」

「何かが起こるなら、こういうところです」


 レンが鈴緒をつかむと、隣にメイが寄って来て一緒につかんだ。

 それを見てツバメも、鈴緒に手を伸ばす。


「このシステム、ここでも継続なの?」


 へへー、と笑って応えるメイ。

 そのまま三人くっ付き合うようにして、鈴を揺らす。

 ガランガランと大きな音がした後、二度手を打って目を閉じる。


「みんなと楽しいヤマトの冒険ができますようにっ」

「ふふ、メイは口に出しちゃうのね。それなら私も、皆で楽しく遊べますように」


 そんな中、しっかりと目を閉じていたツバメは――。


「楽しい修学旅行になりますように……」


 なぜか修学旅行気分だった。


「あっ、こっちにはおみくじがあるよ!」

「せっかくだし、これもやっていきましょう」


 そのまま流れで、三人続けてくじを引く。


「小吉です」

「吉ね。メイは?」

「わあ! 大吉だよー!」

「……どう、何か見えたり聞こえたりする?」


 ぴょんぴょんうれしそうに飛び跳ねるメイに、レンは冗談半分で問いかけてみた。

 お参りや大吉が、何かのトリガーになっているかもしれないと考えて。


「あはは、さすがにそんなに都合よく見つかったりは……あれ?」


 メイの猫耳が、ピクリと動く。


「すっかり定番ですね」


 ここでも【聴覚向上】は、異音を捕らえていた。


「……でもなんだろう。すごく怪しい感じだったよ。唸り声みたいな」

「だとしたら、なおさらクエストの可能性が高いわね」


 三人は、声の聞こえた方に向けて歩き出す。

 社の裏手。

 狭い茂みの隙間をやや強引に進んだ先にあったのは、なんてことのない木造の倉庫だ。

 見た目には、何かがあるようには見えない。


「見て、少しだけ扉が開いてる……本当にお参りとか大吉がトリガーなのかもしれないわね」

「何があるのかな」

「のぞいてみましょう」


 三人は上からレン、メイ、ツバメの順で顔を縦に並べて、倉庫の中をのぞき込む。

 そこでは、五芒星の陣に向けて何やら呪文を唱える陰陽師がいた。


「戻ってこい! 我が犬神よ!」


 すると陣が輝き、中から白い中型犬が現れた。


「来たっ! 待たぬか、帰ってこいっ!」


 陰陽師らしき男は、大慌てで魔法陣に戻ろうとする犬にしがみつき、引っ張り出そうとする。


「土蜘蛛の退治を任されているのだ! お前がいなければ街が危険にさらされるのだぞ! 早く戻って痛ああああっ!」


 しかし犬は陰陽師の腕に噛みつくと、そのまま魔法陣の中に逃げ込んでしまった。


「このままでは大きな事件になってしまうかもしれないのだぞー!」


 五芒星に向かって叫ぶ陰陽師。


「どうかしたんですかー?」


 一通りの流れが済んだところで、メイが声をかけた。


「君たちは……冒険者か。実は街にちょくちょく土蜘蛛が現れているとの情報があってな」

「つちぐも?」

「まあ、大きなクモって考えれば間違いないわね」

「我らは連日、八体から九体もの妖魔を倒し、街中を駆け回っているのだが……犬神がこのザマでなぁ」

「どうしてそんなことに?」

「徹夜が二週間ほど続いたことが、気に入らなかったのかもしれぬな」

「げ、激務です……」

「でも危機は迫ってるんでしょ? 戦いには行かないの?」

「あ、ワシは基本受付業務だけだから。そこでなんだが……君たちは冒険者だろう。危険な土蜘蛛を退治してきてもらえないか? もちろん礼は出そう」

「まあ……いいけど」


 メイやツバメも、うなずくことで応える。


「土蜘蛛出現の場所は、ヤマトの東にある山林の辺りだ。ワシはもう店じまいの時間だから付いては行けん。後は頼んだぞ」


 そう言い残して陰陽師は、そそくさと陰陽道具を片付け始める。


「ああ、そうそう。できたら犬神もつかまえて来てもらえるかな? できたらでいいから」

「あはははは」


 これには苦笑いのメイ。


「……ブラック陰陽師です」


 逃げて行った犬神の苦労を思い、ツバメも同情の息をつくのだった。

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