第91話 はりきります!

 ツバメの【アサシンピアス】が、一撃で三割ものHPを削り飛ばした。


「みんなを野生児になんて、させないよっ!」


 仲間を野生化から守りたいメイは、拳を握って喜ぶ。


「【魔砲術】【フリーズストライク】!」


 そこへすかさず、レンの放った氷柱がさく裂。


「あのお姉さんの『前フリ』のおかげで【隠密】が使えたのが大きかったわね。しかも遠距離魔法のおかげで、海に入って戦う必要もない……」


 クラーケンの付近に現れた、四つの魔法陣。

 そこから樽ほどもある大きさの水塊の砲弾が、一斉に飛んで来る。


「きゃあっ!」


 後列のレン一人を狙っての四連発。

 三つをかわし直前で守りに入ったものの、大きく吹き飛ばされた。

 そのまま高く宙を舞い、砂浜に落下する寸前。


「レンちゃんっ!」


 駆け戻って来たメイが、見事にその身体を受け止めた。


「……メイ?」

「大丈夫?」

「う、うん」

「ちょっと待っててね」


 メイは続く砲弾攻撃を【ソードバッシュ】で豪快に叩き切った。

 舞い散る水しぶきの中、バレーのミニゲームでもらった『種』をまとめてつかむ。

 そしてそのまま、くるっと一回転。


「大きくなーれ!」


 メイとレンを囲むようにまいた種が【密林の巫女】で一斉に発芽。

 半径二メートルほどの密林になった。

 水砲弾は、木々にぶつかり弾け散る。


「なにこれ、すご……っ」


 浜辺に生まれた予想外の防壁に、レンは感心の声を上げた。


「【跳躍】!」


 一方ツバメは、船の墓場と化した海上で戦いを続けていた。

 本数の多い触手を、船から船へと跳ぶことでかわしていく。


「ッ!!」


 するとクラーケンは、二本の触手をクロスするように振り上げ、そのまま叩きつけにきた。


「【加速】! 【跳躍】!」


 足元の廃船が砕け散る。

 どうにか隣の船に移ったものの、そこには直接つかみにくる三本の触手。

 回避し切れる状況ではない。


「【アクアエッジ】!」


 しかし新武器【グランブルー】から生まれた水刃の弧が、迫る三本の触手をまとめて斬り払った。


「いい武器です」


 この隙を突き、まだ少し距離のあるクラーケンの本体に攻撃を仕掛ける。

 水刃による攻撃で、削られていくHPゲージ。

 するとクラーケンは水中へ触手を伸ばし、転覆した木造船をつかみ持ち上げた。


「マズいです……っ」


 つかんだ廃船を、そのまま叩きつけにくる。

 一度の【跳躍】では、回避が間に合いそうにない。


「【投石】っ!」


 そこへ猛烈な勢いで飛んできた、一片の石。

 本体に直撃し、一瞬その動きを止めた。


「レンちゃん!」

「了解っ! 【魔砲術】【フリーズストライク】!」


 わずかな隙を突いて放たれた氷柱が、廃船を叩き割る。

 クラーケンは、船ごと大きく体勢を崩した。

 その隙を突き、ツバメは荒れた船の墓場から砂浜へと戻ってくる。


「助かりました、ありがとうございます」

「どういたしましてっ!」


 グッと親指を上げて応えるメイ。

 残りHPが半分ほどになり、クラーケンは浜辺へと突撃を仕掛けてくる。

 これまで以上に数を増やした触手を、ムチのように大きくしならせながら。


「やあっ!」


 迫る触手たちを、メイは次々に斬り払っていく。


「船が来るわ!」


 触手の一本が廃船をつかんだのを確認して、レンが叫んだ。


「【バンビステップ】! 【ラビットジャンプ】からの――――【ソードバッシュ】だー!」


 放たれる猛烈な衝撃波。

 メイは先んじて、廃船を砕き割ってみせた。

 さらに、触手五本同時の叩きつけも――。


「もう一回! 【ソードバッシュ】!」


 まとめて斬り飛ばす。

 クラーケンの怒涛の攻撃を、驚異的な勢いで潰していくメイ。

 そうなれば当然――。


「【アクアエッジ】!」


 ツバメが二本同時に触手を斬り払い、生まれた隙をレンが突く。


「【フレアバースト】!」


 メイの活躍によって余裕の生まれた二人の連携が、クラーケンを爆炎に包み込む。

 見事なチームワークを見せた三人。しかし。


「……何よあれ」


 その大きな影が、砂浜に影を作る。

 クラーケンの最終奥義は、巨大ガレオン船の叩きつけ。

 どう見ても一発即死の攻撃だ。


「メイっ!」「メイさんっ!」


 しかしメイはひるまない。

 目前に迫る巨大船の前に、ただ一人立ちふさがる。

 そして、迫る大型ガレオン船を目前まで引き付けたところで――。


「【トカゲの尻尾切り】!」


【王蜥蜴の剣】が弾け飛び、クラーケン最大の一撃をすり抜ける。

 砕け散る巨大船。

 舞い散る瓦礫の中、メイは右手を突き上げた。


「それでは、よろしくお願いいたしまーす!」


 砂浜に描かれた魔法陣から出てきたのは、パラソルを抱えた巨大クマ。

 砂煙を上げる豪快な助走から、跳躍。

 右手に抱えた派手なパラソルを思いっきり振り上げた後、しっかり左手でグレイト・ベアクローを叩き込む。


「ありがとうございましたっ!」


 巻き上がる海水と共に、大きく体勢を崩したクラーケン。

 しかしメイはまだ、右手を上げたまま。


「続きまして――――」

「「ッ!!」」


 その言葉に、レンとツバメが動き出す。

 消えていくクマと入れ替わるようにして、水面に現れる魔法陣。


「クジラさん、よろしくお願い申し上げますっ!」


 水面を割るように飛び出して来たのは、堂々たる体躯を誇るクジラ。

 猛烈な水しぶきと共に宙を舞い、そのままクラーケンに体当たり。


「お願い、レンちゃんっ!」


 大きな背びれが巻き上げる、多量の海水。


「準備はできてるわ! 【フリーズブラスト】!!」


【コンセントレイト】によって威力を上げた氷魔法が、凍結を引き起こす。


「【跳躍】!」


 船の残骸を駆けてきたツバメは、そのまま海上に張られた氷の上へ。


「【電光石火】」


 早い斬撃と共に、一気に斬り抜けていく。


「【アクアエッジ】」


 そのまま引き際にもう一発決めると、【跳躍】で反対側の船上へ退避。

 そんなツバメと交差するような角度で水上を駆けて来たのは、【王蜥蜴の剣】を回収したメイ。

 半身を凍りつかせたクラーケンが放つ、最後の触手攻勢を華麗にすり抜けていく。そして。


「【ラビットジャンプ】!」


 海上に大きな波紋を描いて、高く宙を舞う。

 剣を掲げたメイは、【アクロバット】で一回転。


「いっくよー! ジャンピング【ソードバッシュ】だああああ――――ッ!!」


 衝撃が海面を駆け抜け、半凍結状態のクラーケンを砕き割った。

 粒子となって消えていく、ルルタン最後の大物。


「やったー! やったよー!」


 歓喜の声をあげるメイ。


「な、なんて容赦のない最大火力攻撃……」

「クラーケンタイムアタックがあったら、前人未踏のタイムになりそうです」


 戦いを振り返って、思わず息を飲む二人。


「これで、これで……っ」


 メイは海にぷかぷか浮いたまま、手にした剣を力強く突き上げる。


「もう誰も、野生化しないですむんだーっ!」


 クラーケンは、思ったよりだいぶ個人的な理由で倒されたようだった。

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