第89話 決戦です!

「ツバメ、あれはそろそろ溜まりそう?」

「はい」


 うなずくツバメ。


「それじゃメイ、お願いね」

「おまかせくださいっ!」


 そう言ってメイは、笑ってみせた。

 ルルタンプレイヤーと九条院白夜の助太刀。

 熱くなっているレンは、装備を【銀閃の杖】から【ワンド・オブ・ダークシャーマン】へと替える。


「【魔眼開放】【コンセントレイト】」


 その左目を金色に輝かせて【知力】を向上、魔力の収束を開始した。


「よっと!」


 猛烈な勢いで海中を飛んで来る、海水の弾丸。

 嵐のような勢いで降り注ぐ攻撃の中を、メイは【バンビステップ】で回避していく。

 すると、海魔の王の紋様が輝いた。


「来るっ!」


 威力を上げ、さらに範囲も広げた【音波】が付近の空間をゆがませる。

 しかし同じ手は二度喰らわない。


「【ラビットジャンプ】!」


 メイはこれを、大きな後方への跳躍でかわす。

 続く鋭利なヒレによる攻撃も避けると、海魔の王は紋様を強く光らせる。

 再び、海流が動き出す。


「きた……っ」


 やっかいな攻撃にメイが足を止めると、海魔の王は全身の紋様を点滅させ始めた。

 生まれた海流は【大渦】となり、メイはその場に縫い付けられる。

 すると海魔の王の槍角が、禍々しい赤光を放ちだした。

 生まれる衝撃波。

 海魔の王は、猛烈な勢いで海中を突進してくる。

 その凄まじい威力は、刺突を直接喰らえば即リスポーンすら起こしえる。


「狙いは……釣りのエサ」


 足は止められたまま。

 しかしメイは動じない。

 たとえどれだけ威力が高くとも、それは正面上方から刺しに来る槍角の一撃。

 何より、真正面からの特攻ならジャングル時代に何百万回とさばいてきた。


「【装備変更】!」


 メイの頭の猫耳が、鹿角に替わる。


「とっつげきー!」


 ぶつかる両者。

 散らばるライトエフェクト。

 寸分違わない『鹿角パリィ』が輝く槍角を弾き返し、大きく弾かれ合う。

 そのまま硬直状態に陥るも、そこからの復帰はもちろんメイの方が早い。

 動けずにいる海魔の王に、早い踏み込みで接近すると――。


「【ソードバッシュ】!」


 大きく減少するHPゲージ。


「続きます!」


 そこへ駆けこんで来たツバメが連撃を放ち、そのまま【電光石火】で駆け抜けていく。

 すると硬直から抜け出した海魔の王は、慌ててその場から遠ざかっていく。

 しかし。


「……逃がしません」


 その言葉を合図に、規定値を超えて蓄積した『毒』が爆発。

 海魔の王は、その身体を大きく跳ねさせる。


「さあ、終焉(フィナーレ)よ」


 収束していく魔力は、オーラとなってレンに集中。

 開いたその目が、黄金の輝きを放つ。


「凍てつけ――――【フリーズブラスト】!!」


 バフ全部乗せの冷気は、巨躯を誇る海魔の王の半身を凍りづけにする。

 ゆっくりと視線を向けるレン。

 そこには、右手を掲げたメイの姿。


「それでは、よろしくお願い申しあげますっ!」


 海中に現れる魔法陣。

 それを突き破るようにして飛び出して来たのは、巨大な一頭のくじら。

 海中を猛烈な勢いで突き進み、氷結状態の海魔の王に突撃をぶちかます。

 そのまま石畳に叩きつけられた海魔の王は、固い音を鳴らして砕け散る。

 そしてキラキラと舞う氷片と共に、粒子となって消えていった。


「すっごーい!」


 石畳を粉々にするほどのクジラの一撃に、飛び跳ねて興奮するメイ。

 そんな中、レンは。


「…………終焉はちょっと、やりすぎたわね」


 カッコつけて『終焉(フィナーレ)』と叫んでしまった自分に恥ずかしくなって、ちょっと顔を赤くしていたのだった。



   ◆



「その輝く目……ついに本性を現しましたわね」

「ッ!?」


 白夜に金色の目を指摘されて、慌てて隠すレン。


「静まって……っ! 早く静まって……っ!」

「今さら隠しても遅いですわ」


 そんなレンを見て、白夜はフッと笑う。


「勘違いしないでくださいね。闇の者と手を結ぶのは今回だけ。次会う時はまた――――敵ですわ」


 そう一言残して背を向ける。

『白』と『黒』という、本来相反する者たちの奇跡の共闘。

 しかし、それが終わればまた敵となる二人。

 そんな空想に、これでもかというくらい気持ち良くなっている白夜の背に、レンはそっとつぶやく。


「間に……合ってます」


 一方メイとツバメは、伏していた白イルカのもとへ駆けつける。


「大丈夫ー!?」


 目を覚ました白イルカは、うれしそうにメイたちの頭上をぐるぐる泳いで回りだす。


「無事のようですね」

「よかったぁ」


 安堵の息をつく二人。

 白イルカがその身体を淡く輝かせると、足元に宝箱が現れた。

 中身は、美しい青が目に付く一本のダガー。

 格好良い武器に、ツバメが目を輝かせる。



【グランブルー】:水をまとうダガー。アイテムスキル【アクアエッジ】は剣筋に沿った水刃を生み出し、使用者の攻撃範囲を広げる。攻撃力50。



 白イルカは三人に身体を寄せると「キュー」と鳴いた。

 その可愛さでツバメを悶絶させてから、平和になったルルタンの海に帰っていく。


「無事でよかったよー! またねー!」


 そんな白イルカに、ブンブンと手を振るメイ。


「さ、私たちも帰りましょうか」

「うんっ」


 その白い輝きを見送って、歩き出す三人。


「…………あれ?」


 そこで不意に、違和感を覚える。


「また……海流が」


 突然生まれた猛烈な海流が、三人を凄まじい勢いで吸い込んでいく。


「なにこれ!? どういうこと!?」


 クエストは完全に終了しているはずだ。

 まさかの事態に、レンも状況の把握ができない。


「足が……もたないです……っ」

「う、うわああああっ!」


 三人はそのまま、猛烈な海流に飲み込まれた。



   ◆



「ん……んん……」


 メイが目を覚ます。


「レンちゃん? ツバメちゃん?」


 身体を起こし、辺りを見回す。


「……え?」


 しかしそこは、知っているものなど何もない小島。


「ええっ?」


 あるのはただ、小規模な森と砂浜のみ。

 メイがたどり着いたのは、見たこともない無人島だった。


「ええええええええ――――ッ!?」

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