第72話 漁をお手伝いします!

 サン・ルルタンを中心とした南の群島。

 海賊基地を抜け出したメイたちは、島々を結ぶ定期船で島めぐりをすることにした。

 手に入れた海図。

 その『ポイント』に向かう船があるかもしれないと踏んでのことだ。


「この島はどちらかというと、漁港としての趣が強い感じなのね」

「そのようです」

「海のマップも色々あるけど、ルルタンを選んで正解だったわね」


 岸辺に座って足をプラプラさせながら、エメラルドブルーの海を眺めるレンとツバメ。

 リゾート感のあるルルタンに比べると、この島はどこかのんびりした雰囲気がある。


「それにしても……すごいわね」

「すごいです」


 そんな二人の視線の先にはさっそく【ドルフィンスイム】で泳ぐメイ。

 その速度は、もはや回遊魚のそれだ。

 ターン一つ、潜水一つとっても自由自在。

 バタ足はせず、文字通り足を尾びれのように使って縦横無尽に海中を泳ぎ回る。


「ぷはあっ! このスキルすっごく楽しいよ!」

「メイは呼吸ゲージも長いから、スキルとの相性は最高ね」

「人魚みたいで可愛いです」

「ありがとー!」


 海面に顔を上げたメイは、もう見るからに楽しそうだ。


「君たち、少し助けてもらえないかな?」


 そんな三人の前にやって来たのは、漁師らしき格好の中年男性。


「なにかしら」


 始まったのであろうクエストに、自然と三人は期待を高める。


「君のたくましい腕力に、君の知力、君の早さならやってくれそうだと思ってね」

「なるほど、ステータスで参加できるか決まるタイプのクエストみたいね」


 三人はそれぞれ、必要な数値を超えている部分があるようだ。


「ここ最近、ルルタン近海は『サザンガニ』に困らされているんだ。こいつらはサンゴを荒らし尽くしちまうもんだから、魚たちの棲み処がなくなりそうでなぁ。頼みはこのサザンガニ漁の手伝いなんだが……実は引き上げたサザンガニを狙って、デカい鳥が襲いに来るんだよ」

「力仕事をしながら護衛もするって感じのクエストかしら」

「カニ漁かぁ……」


 厳しくもたくましい漁の現場を思い浮かべて、意気込むメイ。

 とにかく何でもやってみたいメイの意識は、早くもカニ漁へと向けられている。


「大したお礼はできないんだが、助けてくれたら……そうだな、君たちの足代わりになるっていうのはどうだい?」


 その言葉に、レンが反応する。


「それって、例えば行きたいポイントに船で連れて行ってもらえたりできるってこと?」

「もちろんだ。近海くらいならどこへでも連れて行こう」

「狙いの展開ね」

「いい感じです」


 レンとツバメがうなずき合う。

 すると、放っておいてもすぐに乾く仕様なのに一応耳と尻尾をブルブル振って乾かしていたメイが、元気よく手を上げた。


「そのお仕事、やらせてくださいっ!」



   ◆



「海、綺麗だねぇ」

「そうねぇ」

「そうですねぇ」


 目指すはサンゴを荒らすやっかいもの、サザンガニ漁。

 乗り込んだ漁船は、思っていた以上の大きさだった。

 どうやら、捕まえるべきカニの数はそこそこ多いようだ。

 サザンガニを引き上げるための網も、船上にたくさん用意されている。

 そしてそんな漁船には、メイたち以外にも複数人のプレイヤーが乗り込んでいるようだ。

 どこまでも続く青い海を三人並んで眺めていると、一人の少女がわざわざこちらへとやって来た。


「ラフテリアのイベントでは、お世話になりましたわねぇ」

「あっ」


 レンが頬を引きつらせる。

 少女の正体は『白』の中二病、九条院白夜だった。

 彼女もここでは白を基調にしたレースをふんだんに使った水着装備に、レイピアを提げた格好になっている。

 淡い橙の髪を編み込んで冠のようにした髪型も相まって、しっかり『光の使徒』感を出してきている。


「さすがは闇の使徒ですわね。まさかこのわたくしを一撃で退場させるとは……貴方たちが何を企んでいるのかは知りませんが、わたくしがいる限り邪悪な目論見など通用しませんわ!」

「ヤメテ」


 白夜は鋭い目つきで、対抗心を燃やす。


「貴方が『闇の使徒』を名乗り、不穏な動きを見せていたことはすでに承知しておりますの!」

「ヤメテ」


 続く白夜の一人語り。

 集まる視線に、レンは顔を真っ赤にする。


「ですが、まずは前回の汚名返上から。わたくしの実力をとくと御覧になっていただきますわ!」


 そう宣言すると、白夜は不敵な笑みを浮かべながら立ち去っていく。


「……レンちゃんは何かを企んでるの?」

「気になります」


 首と尻尾を傾げるメイと、その尻尾に目を奪われるツバメ。


「そうね……しいて言うなら、光やら闇やらと関係のない世界への脱出かしら」


 そうつぶやいて、遠い目をするレン。

 その先にはどこまでも続く海が、果てなく広がっているのだった。

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