第71話 突然のミッションです!

「海図に示されたポイントが何を差しているのか。それを追いかけるのがこの先の目標かしら」

「何があるのでしょうか」

「楽しみだねぇ」


 船長室に置かれていた海図をのぞき込みながら、船を出る三人。


「ん……?」


 元来た穴へ戻ろうとすると、船体の半分を海中に沈めていた方の木造船がわずかに動いた。

 メイは、首を傾げながら近寄ってみる。

 すると突然、船が『起き上がった』


「わ、わぁぁぁぁ!」


 驚きの声をあげるメイ。

 現れたのは、穴の開いた船を棲み処にした巨大なヤドカリだ。

 吐き出した水塊が、一直線にメイのもとへ飛んで来る。


「【ラビットジャンプ】!」


 かわした水塊は地面にぶつかり、大きなしぶきを上げた。

 その隙にツバメが距離をつめる。

 するとヤドカリは、その大きなハサミを叩きつけにきた。


「【加速】」


 足元が砕けるほどの一撃。

 ツバメはヤドカリのハサミを潜り抜け懐へ。


「【電光石火】! ッ!?」


 硬い感触。与えたダメージも芳しくない。


「……なるほど。外殻は船と甲羅、物理攻撃耐性に自信ありって感じね」

「【紫電】」


 ここでツバメは、紫の雷光でヤドカリの動きを止めた。


「【ラビットジャンプ】!」


 そこへ駆け込んで来たのはメイ。


「【ソードバッシュ】だーっ!」


 堅いヤドカリのHPゲージがぐぐっと減る。

【野生回帰】による【腕力】向上もあり、その高い防御力もメイには大した障害にはなっていない。


「【フレアアロー】!」


 レンの放った炎の矢が爆発し、巨大ヤドカリを燃え上がらせる。

 そこへさらに、メイの【雄たけび】が続く。


「がおおおお!」


 体勢を崩したヤドカリに、再びレンが放つ【ファイアボルト】

 ダメージを受けたヤドカリは、背にした船ごと一回転。

 大きなハサミを、乱舞とばかりに振り回す。


「おおっと!」


 強引な攻撃に、しかし動じることなく身を低くすることで避けるメイ。

 ツバメも身体を伏せることでギリギリ回避。

 するとヤドカリは、その大きな体躯に見合わない跳躍をみせた。


「ボディプレス!?」


 意外な攻撃に、レンとツバメは慌てて距離を取る。

『飛び掛かる』攻撃への対処は、メイの得意技だ。


「【アクロバット】!」


 バク転一つでヤドカリの体当たりがわずかに届かない、それでいて反撃のしやすい位置へと下がる。

 揺れる足元。

 ヤドカリの着地と同時に、メイは反撃を叩き込む。

 斬り下ろしから斬り上げ。

 そしてそのまま得意の【ソードバッシュ】へ。

 敵の残りHPは半分を切った。

 するとヤドカリは、泡を吹きながら猛烈な勢いで特攻を仕掛けてきた。


「【バンビステップ】!」


 右ハサミの振り回しから、左のハサミへ。

 迫りながらハサミを連打してくる。


「うわっ! うわっ うわわっ!」


 そして最後は、振り払うような軌道の放水攻撃へとつなぐ。


「【ラビットジャンプ】!」


 これをメイが高いジャンプでかわすと、ヤドカリは低いステップで身体が半分ほど海水に浸かる位置まで下がって行った。

 両者の距離は、約十メートルほど。


「【フレアストライク】!」


 レンが放つ、炎の砲弾。

 しかし大ヤドカリは飛んできた魔法に対して、高く水を跳ね上げることで身を守った。

 これでは、HPを減らせない。


「……後半はそこで戦うつもりなのね。やっかいだわ、これ」

「泳いで攻撃に行くのは無理そうですね」


 近距離戦がメインのプレイヤーには、難しい位置取り。

 そのうえ魔法に対する防御行動もある。

 どうやら、膠着した状況下でコツコツ戦うことを強いられる敵のようだ。


「レンちゃんっ」


 しかし、そんな状況を打破できそうなスキルがある。

「今だよね?」と目を輝かせるメイ。


「そういうことね。せっかくだし、お願いしてもいい?」

「おまかせくださいっ!」


 敬礼ポーズで返事をして、メイは走り出す。


「【アメンボステップ】!」


 スキルの発動と同時に力強く踏み出した足が、水を蹴る。


「すごいです……」


 メイはそのまま軽やかな足取りで海を駆け、一気にヤドカリの前へとたどり着く。


「【ラビットジャンプ】!」


 海面に大きな波紋を描いて跳躍。


「【ソードバッシュ】!」


 木造船を盾に、守りに入るヤドカリ。

 砕け飛ぶ木片、メイはそのまま船上に着地する。


「からの――――【ソードバッシュ】だーっ!」


 この一撃でヤドカリの住処が大きく崩れ、半壊。


「今がチャンスね! 【フレアストライク】!」


 すかさず放った魔法がさく裂し、体勢を崩したヤドカリを燃え上がらせる。


「メイ、とどめはお願いね」

「まかせてーっ! 【モンキークライム】!」


 メイは半壊した木造船の船首へと駆けあがり、そのまま跳躍。

 空中で【王蜥蜴の剣】の剣を掲げる。


「いっくよー! ジャンピングゥゥゥゥ【ソードバッシュ】だああああーっ!」


 広がる猛烈な衝撃波が、しぶきを上げる。

 メイの高い攻撃力は、棲み処の木造船ごと巨大ヤドカリを粒子へ変えた。


「うわっととと!」


 ヤドカリが消え、メイはそのまま海に落ちる。


「船と硬い甲殻で物理攻撃耐性は高め。魔法攻撃には水の盾で防御……この面倒を真正面から受け止めて手を尽くすか、巨体のせいで洞窟内までは追いかけて来られない事を利用して逃げるか……本来はそんな選択を迫られる敵なんでしょうねぇ」


 ふう、と一つ息をつくレン。


「よいしょっと」


 そこに海からメイが上がってきた。


「すごいスキルだけど、落下した後は泳ぎになっちゃうのが難点ね」


 そんなことを考えるレンの前に、流れつく宝箱。


「ヤドカリ退治は、洞窟クエストのミッションだったようですね」


 そう考えれば、難易度高めなのもうなずける。

 手にした宝箱の中には、一冊のスキルブック。



【ドルフィンスイム】:イルカのような自由自在の泳ぎと、水中からの跳び上がりを可能とする。



「…………それなら、ステップと泳ぎを織り交ぜればいいじゃないってことかしら」


 海でもメイは面白いことになるのねと、確信してしまうレンたちだった。

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