第69話 さっそく海で遊びます!

「海だー!」


 ルルタンから続く二つの離島へは、続く浜辺を歩いて向かうこともできる。

 船着場から少し離れた浜に着いた水着のメイたちは、さっそく海に飛び込んだ。

 海中には予想を上回る、美麗な光景が待っていた。

 差し込む陽光が、サンゴや熱帯魚たちを明るく照らす。

 オリジナルも含めた色とりどりの魚が行きかう姿に、早くもメイは夢中だ。

 魚たちもメイから逃げるどころか、むしろ近くに寄って来る。

 そこへウミガメまでもがやって来て、一緒になって泳ぎ始めた。


「ぷはあっ! 綺麗だねぇ!」


 海上に顔を出したメイは、そのままうれしそうにレンの背に抱き着いた。


「皆と海で遊べるなんて、思いもしなかったよー!」


 実はこの辺り、『星屑』の運営側は結構自信を持っている要素なのだが、トカゲ狩りばかりしていたメイには初めてのことだ。

 レンの背に抱き着いたまま、楽しそうに尻尾の先で水面をぱちゃぱちゃ叩く。


「私も、海で友達と遊ぶ日が来るなんて思いもしなかったわ」

「私もです」


 現実では、夏場は室内のみ。

 どこかへ行くとしても真っ黒なレースの日傘を差していたレンにとっても、こんな経験は初めてだ。

 そしてそれは、ツバメも似たような状況だった。


「でも、メイの【自然の友達】って海でも効果あるのね」

「うらやましい限りです」


 三人、海上でそんなことを話していると――。


「あら、何その子」

「あ、さっき一緒に泳いでたんだよー」


 三人のもとに、一匹のウミガメがやって来た。

 ウミガメはオールみたいな前足を二度ほど振ると、再び海へと潜っていく。


「もしかして……ついて来いってことかな」

「メイがそう感じたのなら、それが正解よ」

「行ってみましょう」


 ルルタンから連なる島の一つ、その崖になっている部分。

 海中から向かっているのは、まさに崖の下部に当たる箇所だ。

 レンとツバメは、ここで息切れ。

 一度呼吸ゲージの回復に海上へ戻る。


「本来なら、これでウミガメの案内を見失っちゃう形なんでしょうね」


 ウミガメとの友好度と呼吸ゲージの両方が必要だと考えると、この展開を追いかけるのは結構難しいのではないかと予想する。

 しかしメイは、耐久値の高さに依存する呼吸ゲージもかなり長い。

 レンたちが再び潜ると、まだまだ余裕のメイが水中で手招きをしていた。

 その先には、洞窟のような穴が開いている。

 三人はそのままその中へ。

 すると、少し進んだところで水面が見えてきた。


「……ふう。普通に外からは入れない洞窟になってるわけね。海中にある入り口は、さすがに見つからないわねぇ」


 洞窟内を見回しながら、レンがつぶやく。

 ところどころに空いた裂け目から入る光が海面に反射して、青く照らされている光景はとても神秘的だ。


「ありがとー」


 ぷかぷかしてるウミガメの頭を撫でるメイ。


「この洞窟、どこかにつながってるわね」


 たどり着いたこの小さな空間には、人が通れるくらいの路が作られていた。


「行ってみましょう」


 案内してくれたウミガメに手を振って、三人は洞窟を進むことにする。

 差し込む陽光以外にも、ところどころにランプが置かれているのが確認できる。

 それは、何者かがこの場所を使っていたという事だろう。


「何があるんだろう……ワクワクするね」

「本当、こういう冒険って仲間と一緒だと楽しくなってくるわね」

「ドキドキします」

「ある程度の難易度調整はしてあるんでしょうけど、私たちは防御が下がってるから注意して」

「はい」


 杖を手に、用心深く進むレン。

 ツバメも短剣に手を添えた状態で、辺りに注意深く視線を向けている。

 7年のサービスにおいて、おそらく初めて見つかったであろう場所だ。

 そんなの、ワクワクしないはずがない。


「うわあ……」

「すごいです……」


 壊れたランプの続く路を抜けると、そこは大きなドーム状の空間だった。

 天井から差し込む光が、その全容を照らし出す。

 そこは、小型船が停泊できるくらいの船着き場。

 どうやらメイたちが入ってきた穴は、この場所と海をつなぐ抜け道だったようだ。


「崖崩れか落石で、出入り口をふさがれたって感じかしら」


 船着き場には、その船体の半分以上が海水に浸かっている半壊状態の船が一艘。

 そして比較的傷の少ない木造船が一つ、接岸している。

 破けたマストが、激しい海との戦いを感じさせる。


「ここを基地にしてた海賊が使ってた船かしら」

「何かありそうです」

「うんっ。ワクワクしちゃうよ!」

「それじゃさっそく、調べてみましょう」


 果たしてこの場所には、何が待ち受けているのか。

 三人は高揚と緊張の混じった不思議な感覚の中、さっそく謎の船へと駆け出した。

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