第67話 綺麗な海が見たいです!

「わあ、綺麗な海だねぇ」


 リビングで母やよいとテレビを見ながら、さつきがつぶやく。

 画面に映し出されているのは、海外リゾートの映像だ。


「一昨年行った海も綺麗だったわよ」

「……どこに行ったんだっけ?」


 家族で海に行った記憶はあるものの、どんな海だったのかは覚えていない。

 思い出そうとしても、『トカゲ狩り』のことばかりが浮かんできてしまう。


「さつきはゲームに夢中だったものねぇ。帰ってきた後ヘッドギア焼けしてたのには驚いたわ」

「うっ、あれは恥ずかしかったなぁ……」


 顔の下半分だけ焼けてしまい、愕然としたのを今でもはっきりと覚えている。


「なにこれー! って叫んだ後に、すぐまたヘッドギアをかぶったのにも驚いたわねぇ」

「あ、あはははは……」


 なんだこの日焼け!? よしトカゲ狩りだ!

 そんなノリだった時のことを思い出して、さつきは苦笑いを浮かべる。


「ところでさつき」

「なーに?」

「……夕食は、なんだと思う?」

「ッ!!」


 やよいの何気ない問いかけに、思わず息を飲む。

 当てにいっても当たる、外しにいっても当たる。

 それなら、あてずっぽうだ!


「え、ええと……煮込みハンバーグかな?」

「正解」

「ま、まだお買い物にも行ってなかったのに……っ」


 材料すらない状態での正解。

 野生はもはや『勘』で当てるレベルまできたのか。

 震える、さつき。


「どうせ当てられちゃうなら、今夜はさつきが言ったものにしようと思って。だから何を言っても正解なの」


 そう言ってやよいは「ふふっ」と笑う。


「そ、それなら先に言ってよー!」


 笑って安堵の息をつくさつき。

 視線をテレビに戻すと、そこには楽しそうに海で遊ぶ少女たちの姿があった。


「海かぁ……楽しそうだなぁ」



   ◆



「せっかくだし、どこかに行ってみない?」


 集合はいつもの港町ラフテリア。

 レンの手には、イベントの参加記念としてもらった【乗船券】がある。


「これがあれば、ラフテリアから出てる船には一通り乗れるわ。まだ見たことのないマップに足を伸ばしてみましょうよ」

「船で……新たな世界へ、みんな一緒に……楽しそうー!」


 さっそくメイの尻尾がブンブンと音を鳴らし出す。

 そんなメイの姿に見惚れながら、ツバメもこくこくとうなずいている。


「決まりね。場所はどこがいいかしら……」

「みんなと一緒だったらどこだって楽しいよ!」

「間違いないわね。でも、それじゃ決まらないわよ?」


 楽しげに笑うレン。


「あっ、ビーチはどうかな! 南国の海っ!」

「なるほど。イベントでジャングルに行った後だし、思い切って南国っていうのもいいわね」

「楽しそうです」

「南の方だと……ちょっと面白そうなのがサン・ルルタン辺りかしら」

「サン・ルルタン?」

「少し、冒険の雰囲気がありますね」

「そういうことね。ここは漁もあり、宝の話もありと、ちょっとワクワクしちゃう要素が多いの」

「たのしそうー!」

「ルルタン行きなら、船はあの白の帆船よ」

「さっそく行ってみよう!」


 駆け出すメイとツバメ。


「ッ!!」

「意外とはしゃいで転ぶのはツバメなのよね」

「す、すみません」


 レンの伸ばした手に、転ぶ直前で抱きかかえられるツバメ。

 主要な街には移動用のポータルが置かれているが、ポータルのない街への移動は船などを利用するのが基本になっている。

 メイが長らく住んでいたジャングルに至っては、自らで船を用意する必要があるほどだ。

 出航はすぐ。三人は甲板に出て、陽光まぶしい青空と広い海を眺める。


「わあ! 大きな船は初めてだよー!」


 船が動き出すと、いよいよメイは舳先でぴょんぴょんと楽しそうに飛び跳ねる。


「レンちゃーん! ツバメちゃーん! 眺めが最高だよー!」

「落ちないでよ?」

「これくらいなら大丈夫だよっ! おっととと!」

「メイ!?」

「メイさん!?」

「…………てへへ」


 いったん足を滑らせたものの、普段から木の枝を飛び跳ねるメイにはこのくらい問題なし。

 すぐにバランスを取り戻して、少し恥ずかしそうに笑う。


「船の中も見て見ようよっ」


 そう言って今度は二人の腕を取った。


「ふふ、そうね。行ってみましょう」

「は、はい」


 腕に抱き着かれて笑うレンと、照れるツバメ。

 二人を連れて、メイは帆船の内部へと足を進めていく。


「今日はまた楽しそうねぇ」

「うんっ! 皆で海に行くのなんて、ヘッドギア焼けの時以来だからねっ」

「なにそれ……?」

「……?」


 自然と足が速くなるメイに、二人は首を傾げたのだった。

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