第38話 気軽なジャングル探索

「もうイベントも後半戦って感じねぇ」

「まだなにか大きな展開あるのかな? 楽しみだなー」

「過去のイベントでは大体何かありました」


 見事に巨大魚を釣りあげた三人は、まだ見ぬ方面にも遊びに行ってみようと歩き出した。

 これといって当てはないが、歩いているだけでも楽しいのがフルダイブ型の良いところだ。

 ジャングルの空には、見たことのない大きな鳥が飛んでいる。


「……ん?」


 メイの目が、そんな派手目な色の鳥にとまる。


「あの鳥、何かくわえてる」


 またしても野生児スキル【遠視】が、新たなきっかけを見つけた。

 鳥はキラキラと輝く、宝石のようなものを口にしている。


「追いかけてみようよ!」


 鳥の後を追いかけていくメイに、レンとツバメが続く。

 木々の生い茂るジャングルでの追跡は本来難しいものだが、目立つ色使いの鳥をメイが見失うことはない。

 すると鳥はやがて、大きな樹の枝にとまった。


「少し進んだ先の樹にとまったよ。宝石を枝のくぼみに置いてつついてる」

「メイ、ゲージはあった?」

「うん、あるよ」

「相手がモンスターだと、戦う形だけど……」

「逃げられそうです」


 逃げる鳥からどう奪い取るかってクエストなら、正面からぶつかればいいというわけではない。


「それなら、メイとツバメのコンビネーションとかどうかしら」


 その意図を理解したツバメが、すぐに動き出す。


「……そろそろ準備できたかしら、メイお願い」


 レンの合図で、メイは見つけておいた石を手に振りかぶった。


「いくよー! 【投石】!」


 銃弾のような勢いで投じられた石弾が、一直線に飛んでいく。

 気づいた鳥は慌てて飛び上がった。

 狙いはここだ。


「【跳躍】」


【隠密】で樹の下に待機していたツバメが突然現れて、宝石をつかみ取った。

 そしてすぐさま【加速】で距離を取る。

 鳥は辺りを旋回しながら消えた宝石を探していたが、やがてどこかへ飛んでいった。


「やったー! ツバメちゃんすごい!」


 ツバメの手を取り、よろこぶメイ。


「あ、ありがとうございます」


 戻ってきたツバメの手にあるのは、どうやら水晶玉のようだ。


「……レンちゃん」


 今度はメイの猫耳が、ピクリと動いた。


「どうしたの?」

「何か、こっちに来るよ」

「ツバメ、もう一回お願い」


 レンがそう言うと、すぐに騒がしい音が聞こえて来た。

 メイたちの前に現れたのは、ヒヨコがそのまま大きくなったような二足歩行の鳥に乗った三人のプレーヤーたち。

 しっかりとした鎧を着た騎士を中心にしたパーティだ。


「ここら辺に派手な色をした鳥が来なかったか?」

「さっきまでそこにいたわ」

「……なあ、この二人が手に入れてる可能性もあるぞ」


 軽装の剣士の言葉に、走り出す緊張感。

 戦闘によるイベントアイテムの取り合いは、もちろん認められている。


「……どうする? やるか?」

「相手の力……次第だな」


 有利なら戦いたい。

 すごく自分に正直なことを言う騎士。


「見た感じでは、そこそこ強そうな雰囲気もあるが……」

「一応【ソードバッシュ】でも見ておく?」


 レンの意外な提案に、首を傾げる騎士たち。


「え? なんで今さらそんな基礎技を」

「なるほど、少なくとも腕力値は分かるな。やってみせてくれよ」

「メイ」

「【ソードバッシュ】!」

「よし、やめておこう」


 苔むした倒木が真っ二つになったのを見て、すぐにあきらめる騎士。

 とても潔い。


「あれ、ちょっと待って。おかしな威力の【ソードバッシュ】に獣耳ってもしかして……」


 プリースト女子が、思い出したかのように手を叩いた。


「知ってるのか?」

「まさか! 野生児の!?」

「野生児ではございませんっ!」


 メイは即座に否定する。


「メイ。その猫みたいな座り方は、野生児以外しないやつなのよ」

「……えっ?」


 真っ二つにした倒木の上に座り、尻尾を振るメイ。

 その隣には、いつの間にか子猿まで並んでいる。


「ふ、普段はもっとおしとやかなんですよ? 本当ですよ?」


 そそくさと倒木から降りて、恥ずかしそうに笑ってみせた。


「で、その派手な鳥がなんなの?」

「占い師が盗まれたアイテムを取り返すっていうクエストなんだけどさ、飛んで逃げる鳥相手っていうのは難しくてなぁ」

「そうそう。でもずっと『不吉なことが起こる』って言ってる占い師が気になってるのよ」

「……ちょっと、大きな展開の予感がするわね」

「俺たちはクエストらしいクエストを、それしか見つけられてないからさ」

「なるほどね」

「この子たちは何ですかっ?」


 一方メイは、ふわふわした二足歩行の鳥類に夢中だ。


「ジャングル西部に住んでる飛ばない鳥よ。乗ってみる?」

「乗ってみたいですっ!」


 プリースト女子に促されるまま、メイは大ヒヨコに飛び乗った。


「わあ! 楽しいよー!」


 ひょこひょこ歩く大ヒヨコに、早くもご満悦のメイ。


「またあっさり乗りこなすわねぇ。これも【自然の友達】の効果かしら」

「それも逃げ出した大ヒヨコたちを捕まえるってだけのクエストだったんだよな。お使いばっかだよ俺たちは」


 騎士の男はため息を吐く。

 どうやら今回イベントにおけるクエスト運は、良くなかったようだ。


「そういうことなら、ここは任せましょうか」

「うん、いいんじゃないかな。わたしたちだと返せないままになっちゃってただろうからね」


 占い師に水晶玉を返すというクエストは、発生場所も分からない。

 レンたちは水晶を譲る代わりに、その占い師を見に行ってみることにする。


「ツバメはどう? 異存がないならもういいわよ」

「うおおっ!?」


 突然出てきたアサシンに驚く騎士たち。

 ツバメは水晶玉を騎士の男に渡すと、すぐさま大ヒヨコの頭を撫で始める。

 どうやら姿を消したまま、うずうずし続けていたようだ。

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