第33話 ジャングルの英雄たち
「レンさん、連れてきました」
レンと『鹿角』を付けたメイのもとに、【加速】で戻ってきたのはツバメ。
村の外に出た三人は、さっそく敵モンスターを探していた。
新たに手にした【鹿角】装備がどんな感じか、見てみたかったからだ。
「ありがとツバメ、【ファイアウォール】!」
連れて来た大猿とツバメの間に、炎の壁を張る。
するとその狙いは、一番手前にいたメイに変わった。
「いっくよー!」
突っ込んで来る大猿を、メイは真正面から迎え撃つ。
「まあ【突撃】なんて名前からして普通だし、オマケくらいのスキルとして考えておいた方が良さそうだけどね」
「とつげきー!」
メイは叫びと共にスキルを発動。
すると鹿角が青白く輝き、走るメイの足が砂煙を巻き上げる。
接敵。そのまま大猿を後方へと弾き飛ばした。
大型トラックにでもぶつけられたのかという勢いで跳ね飛ばされた大猿は高く宙を舞い、そのまま樹に直撃して消えた。
「…………」
「…………事故よ、これはもう」
交通事故にしか見えないような状況に、唖然とするツバメとレン。
「これまで散々メイがとんでもなかったのを目の当たりにしてきたのに、まーた私は油断してたわ」
自らの慢心に、レンは苦笑いする。
見た目が可愛いために毎回うっかりするが、メイのレベルは193。
基礎の時点からどうかしてるプレイヤーなのだ。
「単純な攻撃にもなるみたいだけど、はね飛ばすって使い方が活きてきそうね。それで時間を稼げるし。あと、一部の物理攻撃を弾くっていう効果も面白そうだわ」
【突撃】:角による猛烈な特攻。その威力は腕力値と耐久値(装備品による補正含む)に依存する。
腕力と耐久は、メイのステータスの中でも特に高い二つ。
【突撃】の説明文を読ませてもらって、納得するレン。
こうして新装備の確認を終えた三人は、村に戻ることにした。
その足で物見やぐらに上がり、夜明けの空を見つめる。
「今日は本当に盛りだくさんだったわね」
「楽しかったなぁ」
「本当です」
ツバメもこくりとうなずく。
「滝を飛び降りるところから始まって、子グマの救出に、ツバメの消えちゃうスキル」
「メイさんに見破られたのには驚きました」
「ニワトリも捕まえたよ!」
「なんか私の頭の上を気に入ってた子がいたのよね」
「守神様も無事でよかったよー」
「召喚の指輪に子グマも付いてきてるの気づきましたか? ものすごく可愛いですよ」
「あれ、楽しい演出だよねっ」
「そうやって無事、遺跡のクエストもクリア」
レンが息をつく。
「今日のところは、ここで一段落かしらね」
「そうだねぇ」
そのままなんとなく三人、視線を夜明けの空に向け続ける。
ログアウト。
それは同時に、別れの時だ。
「……楽しかったです」
そんな中、口を開いたのはツバメだった。
「今までパーティで遊んだことがなかったので、こうやって一緒にした冒険を振り返るのは初めてです」
普段はどこか淡々としているツバメが、そう言って遠い目をする。
「私は現実でも影が薄いので、声をかけてもらえた時は本当にうれしかったです。姿を消していたのに、見つけられてしまうなんて思いもしませんでした」
ツバメはかみしめるように目を閉じる。
「今日のことはきっと……ずっと覚えています」
「わたしだって忘れないよ」
「当然じゃない」
「この2年間。私はずっと、メイさんやレンさんのような仲間が欲しかったんだと思います」
差し込んで来た陽光が、無限に広がる木々を照らし出していく。
「だから……」
ツバメは、ギュッと拳を握った。
「私も、連れていって欲しいです」
ツバメがそう言うと、メイは「ぱああああ」と顔を輝かせた。
「もちろんだよっ!」
もう我慢できないとばかりに、ツバメに抱き着く。
「一緒に行こう! これからたくさん楽しい思い出ができるよっ!」
強く自分を抱きしめてくるメイの腕。
思わず赤面してしまうツバメは、空いた手の行き先を迷わせる。しかし。
「私も、ツバメと一緒で楽しかったわよ」
レンの何気ない一言で、迷わせていた手をそっとメイの背中に回した。
「――――おねがいします」
それは初めて出会った時に、ツバメを見つけたメイがかけた言葉。
そして、ツバメがゲームを始めてからの2年間で初めてかけられた言葉だった。
「これから、もっともっと楽しくなっちゃうね!」
新しい仲間ができて、とにかくよろこびでいっぱいのメイ。
満面の笑みを向けられて、恥ずかしそうにほほ笑むツバメ。
そんな二人を、登る朝日が照らし出す。
清くまばゆい輝きの中。楽しそうに抱き合う二人が放つ聖なる光に、レンは浄化されて……消えた。
◆
守神クエストの翌日。
ツバメという新たな友達ができて、さつきは上機嫌だ。
「あぁ、今日も楽しみだなぁ」
『星屑』の世界に向かう前に軽く腹ごしらえをしようとキッチンに行くと、そこには買い出し帰りの母の姿。
「さつき、今夜のメニューは何だと思う?」
買い物袋から商品を取り出している途中なのだろう。
まな板の横には、玉ねぎと人参。
そして、カレーの箱が見えている。
「……シ、シチューかな」
前回は見事にメニューを言い当ててしまったさつき。
自分は『現実でも野生化している』のではないか。
そんな恐ろしい疑惑を払拭するため、まな板の上の食材に気づいてないフリをしながら『ハズシ』にいった。
「うそ……」
しかし母やよいは、驚きの顔をする。
「どうして……わかったの?」
やよいが新たに買い物袋から取り出してみせたのは、シチューのルー。
「そのカレーの箱はなんだったのー!?」
「カレールーは、罠のつもりだったの……」
戦慄する、さつきとやよい。
そんな奇跡のすれ違いに、見事に振り回される母子だった。
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