第22話 密林で出会った少女

「私が見えるのかって……どういうこと?」


 幽霊みたいなことを言い出した少女に、レンが問いかける。

 突然現れたかと思いきや、手間取っていたリーダーを倒してくれたのは、長い黒髪の少女。

 背はメイよりも一回り小さく145センチほど。

 フード付きの紺色の外套にショートパンツ。武器はダガー。


「私のスキルは、モンスターやプレイヤー等から感知されなくなります」

「……初めて聞くスキルね」

「本来、【アサシンピアス】のように何かしらの行動を起こした時点で姿が確認されるようになるのですが……」

「メイには見えてたの?」

「うん。先に足音が聞こえて、その後にわたしたちが戦ってるところを見てるのに気づいたって感じだけど」

「なるほど、正確には『誰かいる』って認識された時点で『見える』ようになるスキルってことなのかしら」

「見破られたのは初めてだったので……驚きました」


 と、あまり驚いた感じを出さずに言う。

 その無表情な感じは、どこかミステリアスだ。


「本当、メイの『感覚系パッシブ』は優秀だわ……」


 レンは感嘆する。

 メイには【聴覚向上】がきっかけになって、少女の姿が見えるようになったのだろう。


「すごかったんだよ! 誰にも気づかれないまま、リーダーの後ろまで普通に歩いてたどり着いちゃったんだから!」

「それで『おねがいします!』だったのね」


 リーダーのところに着いたものの、加勢するべきか迷っていたところにメイが応えたのだろうと、レンは予想する。


「【アサシンピアス】は、気づかれないまま弱点を突くと大きく補正がかかります。相手や状況次第では一撃で敵を倒せるのです」

「そう考えると、とんでもないスキルの組み合わせね……」


 本来の【アサシンピアス】は、時間をかけてこっそり近づいて狙うものなんだろう。

 それを普通に近づいて行って使えるというのは、とてつもないアドバンテージだ。


「わたしメイっていいます。助けてくれてありがとう!」

「私はレンよ。あなたのおかげで助かったわ」


 少女は、こくりとうなずく。


「ツバメです……その子も、無事でよかった」


 そう言ってツバメは、子グマに視線を向ける。


「……逃げない」


 ジッと子グマを見つめて、首を傾げるツバメ。

 子グマはメイの足元でゴロゴロしていて、逃げ出す気配はない。


「この子のこと、知ってるの?」

「最初はモンスターに追われているところに出会いました。でも、助けても逃げてしまって。その後もまたモンスターに襲われていたので、何度か助けたのですがやっぱり逃げてしまって。放っておくわけにもいかず、姿を消してこの子の近くをうろうろしていました」

「そうこうしてるうちに、私たちが来たってわけね」


 ツバメはこくりとうなずく。


「やっぱり普段の行動によって動物との関係性が『隠しステータス化』しているのか、何かきっかけになるイベントが必要なのでしょうか」

「なるほど、本来であれば怖がって逃げるのね。まあ、メイの場合は最初から動物との仲がMAX状態だから」

「ジャングルでは動物に声をかけたりすることも多かったからね」


 てへへと笑うメイ。


「どういうことですか?」


 ツバメは不思議そうにする。


「そういうスキルを持ってるのよ、メイは」

「この子が逃げないのも、そのおかげですか?」

「メイが一緒だからでしょうね」

「でもこの子、どこに連れて行けばいいのかな?」

「親グマに返しに行くのだと思います」

「まあそれがセオリーよね」

「少し進んだところに大きな穴があります。大きな足跡もありましたから、おそらくそこに連れて行けばいいのではないでしょうか」

「それなら一緒に行こうよ! ずっとこの子を見守ってたんでしょう?」

「…………」


 躊躇するツバメ。


「イベントを優先したい?」


 レンの問いに、ツバメは首を振る。

 どうやら、ポイントを稼ぐために急いでいるというわけではないらしい。

 ただその表情は、返答に悩んでいるようにも見える。

 するとメイが、子グマを抱きかかえてツバメのそばに寄った。


「一緒に行こうよぉ」


 子グマも、ツバメを見つめたまま動かない。


「…………」


 やがてツバメは、恐る恐る手を伸ばす。

 そしてそのまま、子グマの頭に触れた。


「ね?」


 期待に尻尾を震わせながら満面の笑みを向けてくるメイに、ツバメがうなずく。

 そこからはすっかり夢中になって、子グマの頭を撫で続ける。

 スキル名や装備品からも予想できるが、少女のクラスはアサシンなのだろう。

 小さな身体に長い黒髪。

 静かな声と端正な顔つきをした少女には、ある意味似合っているようにも見える。


「ふふ、メイとクマの可愛さに負けたわね」


 レンが冗談半分にそう言うと――。


「でも、レンさんもこの子を危険から守るためにメイさんを戦いに参加させず、一人で戦おうとしてました」

「……そ、それはたまたまそう見えただけじゃないかしら?」


 見事なカウンターをもらってしまったのだった。

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