第23話 その魅力には抗えません!

 密林を楽しそうに歩くメイの尻尾が、左右に動く。

 その横にはトコトコ進む子グマ。


「……かわいい」


 メイの後ろに続くアサシン少女がつぶやいた。

 表情の薄いツバメだが、夢中でメイと子グマを見つめている。


「そんなに気になる?」

「耳と尻尾の装備なんて、初めて見ました」


 レンの問いかけに、興奮気味に応えるツバメ。


「これ、この前のイベントの賞品なんだよ」

「ラフテリアの定例イベントね」

「……すごくかわいい」

「本当? えへへへ、ありがとー」


 褒められて、メイは素直によろこぶ。


「そうだ! ツバメちゃんにはどう見えてる?」

「どう……見えてる?」

「わたしの装備というか、雰囲気というか……」


 ドキドキしてるのか、メイの尻尾がブルブルと震え出す。


「かわいいし、カッコいい」

「ツバメちゃあああん!」


 メイはツバメをぎゅーっと抱きしめた。


「ッ!? あ、あの……っ?」


 全力で抱きしめられて、ツバメは赤面する。

 されるがままでいるべきなのか、抱きしめ返すべきなのか、空いた手をぎこちなく迷わせる。


「野生は? 野生は感じない!?」

「…………野生?」


 しかしそんな唐突な問いかけに、首を傾げるのだった。


「あ、ツバメの言ってた場所はここね」


 そんな二人に苦笑いしながらレンが指さしたのは、崖の大きな洞穴。

 その出入口は、生い茂った草木に覆われている。


「メイはその子をお願いね」

「うんっ」


 言われるまま、子グマを抱きかかえるメイ。

 これで子グマがダメージを受けることはないだろう。

 そのまま洞窟に踏み込む三人。

 するとすぐに、大きな影が伸びて来た。


「この子のご家族って感じではなさそうね」


 そろそろ採光が必要かというタイミングで現れたのは、巨大な蛇。


「先行します。【紫電】が入れば、そこで隙ができるはずです」

「了解っ」


 レンの返事と共に、ツバメが走り出す。

 すると大蛇はその口を大きく開き、猛烈な勢いで毒液を噴き出した。


「【加速】」


 これをツバメは前方への速い動きでかわす。


「【電光石火】」


 そのまま大蛇の後方へと斬り抜ける一撃。

 さらにそこからダガーでもう一発入れると、大蛇が振り返った。

 一気に首を伸ばし、人間くらい余裕で飲み込んでしまいそうな大口で喰らい付きにくる。


「【跳躍】」


 これを後方へのジャンプでかわすものの、やや大きな軌道のため、ちょうど着地際に大蛇の長い尾が飛んで来る。


「【フレアアロー】!」


 さく裂する炎の矢。

 大蛇は炎を嫌い、大きくその身を退避させた。


「火は嫌いみたいねっ」

「【電光石火】」


 そこに再び、直線を駆けるツバメのスキルがさく裂。

 敵HPゲージは残り半分。


「レンちゃんっ!」


 そこに出て来たのは、三匹の大蜘蛛。


「ありがとメイ! 【ファイアウォール】!」


 この増援をレンは、炎の壁で押しとどめる。


「【紫電】」


 放たれた紫の雷光。

 蜘蛛から大蛇へとつながるように感電を引き起こし、その巨躯を大きく震わせた。


「ここが狙いどころね! 【フレアストライク】!」


【銀閃の杖】から放たれた炎の砲弾が大きく燃え上がり、蜘蛛ごと大蛇を焼き尽くす。

 大きくHPゲージが削れて――。


「……HPが残った?」


 わずか1ドット。

 残りゲージから考えればやや強引な生き残り方を、レンがいぶかしむ。

 大蛇は退り、牙をむき出しにする。

 するとその背後。

 洞穴の奥から、蛇よりもさらに巨大な影が現れた。


「……クマ?」


 姿を現したのは、巨大なクマだった。

 大蛇は慌てて毒液を吐こうとするも、轟音と共に振り上げられた腕に弾き飛ばされ、粒子となって消えた。

 そして巨グマは、ゆっくりとこっちに振り返る。


「ボグシャアアアアアア――――ッ!!」


 先頭に立つツバメとレンを見つけるや否や、放たれる強烈な咆哮。

 そして巨グマに、HPゲージが現れる。


「大蛇とは格が違うみたいね……何のイベントも起こさずにここに来ちゃうと、連戦でぶつかる感じになるのかしら」


 そんな分析をしつつ、レンが振り返る。

 するとメイの抱きかかえていた子グマが、巨グマのもとに駆け出した。

 それに気づいた巨グマは子グマを抱きかかえ、そのままうれしそうにゴロンゴロンと転がり出す。

 そして、巨グマのHPゲージが消えた。


「さっきまでの表情がウソみたいだねぇ」


 その巨体に見合わない、どこか愛らしい雰囲気で大人しく座っている巨グマ。

 子グマが何やらボディランゲージのようなものをしてみせると、巨グマはその指先に何かを取り出した。

 そしてそのまま、メイに差し出してくる。


「なんだろう? アイテムかな?」



【召喚の指輪】:仲良くなった動物が現れて戦ってくれる。その際、得意の一撃を放つ。



「すごーい!」

「また面白そうなアイテムね……」


 知力に数値を振っていないメイにとって、こういう飛び道具系のスキルは良い武器になる。

 レンはさっそくメイに指輪を装備しておくよう促した。


「さて、これでこのクエストはクリアしたわけだけど……」


 子グマ防衛クエストは無事終了。

 家族が戻って来たことで、ぬいぐるみのようになっている巨グマと、その周りでころころする子グマ。


「は、離れたくないよー!」

「……離れたくない」


 同じくHPゲージの消えた子グマとは戯れたい放題になり、二人はそのそばを離れようとしない。

 レンはため息を吐く。


「まったくしょうがないわね。はいはい、気が済むまでいていいわよ」


 そう言ってため息をつくと、行儀よく座ってる親グマのもとへ。

 そのまま大きな身体を抱きしめると、レンはそのふわふわの毛並みに顔をうずめるのだった。

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