第20話 ジャングルにクマっているんですか?

「よいしょっと」

「はあーっ。楽しかったねレンちゃん! 最高の風景が見られたよぉ!」

「本当。スタートとしては言うことなしね」


 ニコニコのメイ。

 テーブルマウンテンからの降下を十二分に楽しんだ二人は、滝下に着地した。

 手に入れたイベントアイテムの笛を手に、そこは再び密林の中。


「さて、ここからはどうしたものかしらね。何か目当てになるものでもあればいいんだけど……」


 何せ今回は大型イベント。当然このジャングルは広大だ。

 降下時に上空から見えたのは、滝からつながる大きな河くらいだった。


「大型イベントの成否って良いクエストに出会えるかどうかだし、運の要素も強いのよね」


 クエストやボスを見つけられないまま終了を迎えるという事も、十分にあり得る。

 どうしたものかと、当てなく歩を進めていると――。


「なんだか、騒がしいね」


 早くも通常のジャングルとは何かが違っていることを、敏感に聞き分けるメイ。

 すると近くの木に、一羽の鳥がとまった。

 大きなくちばしとスカイブルーの羽をした南国鳥は、メイを見るなり翼を広げてビイビイ泣き叫ぶ。

 あきらかに【自然の友達】の効果だ。


「メイがいれば、目印になるものなんていらないのかも……」


 南国鳥はそのまま飛び立つと、ついて来いとばかりに低空飛行で飛んでいく。


「ついて行ってみよう!」


 さっそく鳥の後を追うメイに、レンも続く。

 密林の中を駆ける事わずか。

 南国鳥は急に上空へと舞い上がり、そのまま去って行った。


「道案内は、ここまでってことだね」


 その意図を察したメイが、南国鳥に手を振る。

 すると木々の隙間をぬって駆けて来る、小さな毛玉が見えた。


「モンスター?」


 それにしては可愛らしい動きと大きさ。

 メイはじっと目を凝らす。


「子グマだあー!」

「なんでこんなところに子グマが……」


 一匹の子グマが、決死の様相でこちらに駆けて来る。


「ッ!? レンちゃん! 来るよ!」


 メイの【遠視】が、いち早くそれを捉えた。

 子グマの後を猛烈な勢いで追って来たのは、体長二メートルをゆうに超える白毛の大猿。

 大きな跳躍で木々を跳び越え、手にした棍棒をそのまま叩きつけに来る。


「【アクロバット!】」


 メイは大きなバク宙で回避する。


「【ファイアボルト】!」


 すでに後方へ下がっていたレンが、様子見とばかりに放つ魔法。

 大猿は大きな跳躍で樹上へと逃げる。


「【モンキークライム】!」


 メイも負けじと木を蹴って、わずか二歩で枝の上に上がった。

 そのまま勢いに任せて跳躍し、ショートソードを叩きつけにいく。

 しかし大猿は、これを後方へのステップでかわした。


「おっととと」


 するとメイは枝をつかみ、そのまま一回転して隣の木の枝に着地。

 今度は【モンキークライム】による枝から枝への速い跳躍で後を追い、もう一度大猿に狙いをつける。


「【ラビットジャンプ】!」


 状況は前回と全く同じ。

 大猿は今度も回避のために跳び下がる。しかし。


「がおおおお!」


 今回は剣でなく【雄たけび】

 その衝撃をまともに喰らった大猿は、そのまま木から落下した。

 後を追うように、メイは樹上から跳びかかっていく。


「ジャンピング――――【ソードバッシュ】!」


 その一撃で、大猿のHPが四割ほど消し飛んだ。


「これが地元のメイ……」


 7年戦い続けたジャングル。

 猿よりも自在に木から木へと飛び回ってみせるメイに、驚くレン。

 すると大猿は、体勢を立て直すのと同時に石を投じてきた。

 それは裏をかいた、後衛狙いの一撃だ。


「これくらいなら、なんてことないわね」


 しかしメイの砲弾のような【投石】を見てきたレンは、驚くこともなくこれを回避。


「メイ、お願い!」


 逆にこの隙を突きにいく。


「りょうかい! がおおおお!」


 メイの【雄たけび】が、視線をレンの方に向けていた大猿の体勢を崩す。


「【フレアアロー】!」


 その直後、飛来した灼熱の矢が大猿に直撃。豪快な炎をあげる。

 HPゲージが大きく削れ、残り3割ほどになったところで――。


「【モンキークライム】! 【ラビットジャンプ】!」


 メイは近くの木を駆け上がって高く跳躍。


「【アクロバット】からの――――【ソードバッシュ】!」


 空中で華麗に一回転。

 得意の一撃をお見舞いする。

 大猿はその猛烈なパワーに弾き飛ばされて、樹の幹に直撃。

 そのまま粒子になって消えた。


「息ピッタリね」

「へへー」


 ハイタッチして、笑い合う二人。

 戦闘が終われば、自然とその視線は木陰で震えている子グマに向く。

 それに気づいた子グマは、慌てて逃げ出そうとするが――。


「大丈夫だよー」


 そう言いながら両手を開くメイ。

 しばらく迷っていた子グマは、やがてトコトコとメイのもとにやって来た。

 そしてそのままメイの腕の中へ。


「か、かわいいー!」


 明るい色の毛並み。

 そのふわふわの感触に、思わずメイは歓喜の声をあげたのだった。

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